勾玉遊戯:過去編1990-2000

01
 
 
 
 蔵の錠前が、開いていた。


 男は、慌てた。
 そして、戦慄いた。それは、決して開けてはいけない蔵だったのだ。
 ――どうして錠前が開いているのだ。 わからなかった。
 ――何故……、なんてことだ。
 震える手で、男は錆びついた錠前に手を伸ばした。
 もう何十年も、誰も触れたことがないはずの、土蔵錠――土佐錠だ。
 男はあたりを見渡した。誰もいない。
 ――誰が……こんなことを。
 誰も開けるはずがない蔵だった。誰にも、開けられないはずの、蔵だったのだ。なのにいったい誰が何故――。
 がたがた、がたがたと、その皺だらけの指先が震えた。
 ――いや……そんなことより、大変だ……、大変だ。
 男は咄嗟に辺りを見回した。
 錠前の鍵らしき物はない――否、錠前の鍵は、そもそも男が保管していたのだ、家の者に持ち出せるわけがない。この蔵が、開けてはならない蔵だと知っている以上、家の者が鍵を持ち出すわけがないではないか。
 ――とにかく……、錠を、元通りに……。
 ただ徒に齢を重ねただけの疲れきった手だと、男は自分の指が震えるのを見ながらそう思った。
 ただこの蔵を守るためだけに――彼はこんなにも歳をとってしまったのだ。
 それでいいと、思って生きて来た。
 こうするしかないと思って、ここまでやってきたのだ。
 ――それなのに。