10
それは朧な夢だった。
司は闇をみている。
闇しかみえない。
白衣と緋袴、千早をまとって。
司は両手に太刀を捧げもち、闇の中に立つ。
声が聞こえた。
懐かしく、優しく、穏やかで、泣きたくなるような、暖かい声。
――草薙の巫女。
――君は唯一絶対の。
――君は絶対無敵の。
――君は無敵無類の。
我が手に馴染むは柄の感触。
――これは血に受け継がれる力。
――されど血に封印せられし力。
それは草薙の巫の。
草薙の。
君は、たったひとりこの世に遺される、僕と彼女の胤。
――つかさ。
――いいかい。君の巫としての力は、君をとても寂しく、孤独にするかもし
れないね。
――君は最期の剣の巫女。
研ぎ澄まされた破邪の刃の力をその身に具現せる刀の巫。
だからこそ、絶対に君は刃を手にしてはいけない。
その手にいかなる刃も。
――父様!
――母様!
我が手に馴染む、この刀身。
そう私には力がある。
唯一にして絶対、絶対にして無類の。
――父様、母様!
――お前! お前は邪なる、邪悪なる存在!
――滅ぼしてやる! お前を滅ぼしてやる!
悲鳴、怒号、血飛沫。
――つかさ!
――だめだつかさ!
――やめろ! つかさはそんなこと、しちゃだめだ!
視界が真っ赤に染まってゆく。
ひとたち。
ふりおろすたびに、鮮血が飛び散り、あたりが朱に染まってゆく。
そして心も。
憎悪、哀惜、寂寥、悔恨――。
目眩がする。
くらくらする。
――もういいんだよ。
――もういいんだ。
――忘れていい。みんな忘れていい。
僕のこと、彼女のこと、君自身のこと、全部忘れて未来を行くがいい。
愛しい娘。
まっさらな未来を行くがいい。
――僕らのことを忘れて――。
――ぼくがいる。
――ぼくがずっとそばにいる。
――約束する。
――君をひとりにしない。
――ぼくがずっと、君のそばにいる。
闇がみえた。
闇しかみえなかった。
それは朧な夢だった。
司は闇をみている。
闇しかみえない。
白衣と緋袴、千早をまとって。
司は両手に太刀を捧げもち、闇の中に立つ。
声が聞こえた。
懐かしく、優しく、穏やかで、泣きたくなるような、暖かい声。
――草薙の巫女。
――君は唯一絶対の。
――君は絶対無敵の。
――君は無敵無類の。
我が手に馴染むは柄の感触。
――これは血に受け継がれる力。
――されど血に封印せられし力。
それは草薙の巫の。
草薙の。
君は、たったひとりこの世に遺される、僕と彼女の胤。
――つかさ。
――いいかい。君の巫としての力は、君をとても寂しく、孤独にするかもし
れないね。
――君は最期の剣の巫女。
研ぎ澄まされた破邪の刃の力をその身に具現せる刀の巫。
だからこそ、絶対に君は刃を手にしてはいけない。
その手にいかなる刃も。
――父様!
――母様!
我が手に馴染む、この刀身。
そう私には力がある。
唯一にして絶対、絶対にして無類の。
――父様、母様!
――お前! お前は邪なる、邪悪なる存在!
――滅ぼしてやる! お前を滅ぼしてやる!
悲鳴、怒号、血飛沫。
――つかさ!
――だめだつかさ!
――やめろ! つかさはそんなこと、しちゃだめだ!
視界が真っ赤に染まってゆく。
ひとたち。
ふりおろすたびに、鮮血が飛び散り、あたりが朱に染まってゆく。
そして心も。
憎悪、哀惜、寂寥、悔恨――。
目眩がする。
くらくらする。
――もういいんだよ。
――もういいんだ。
――忘れていい。みんな忘れていい。
僕のこと、彼女のこと、君自身のこと、全部忘れて未来を行くがいい。
愛しい娘。
まっさらな未来を行くがいい。
――僕らのことを忘れて――。
――ぼくがいる。
――ぼくがずっとそばにいる。
――約束する。
――君をひとりにしない。
――ぼくがずっと、君のそばにいる。
闇がみえた。
闇しかみえなかった。

