一方、ステラは二人の話を聞きながら
そわそわと落ち着かないそぶりを見せていた
「まだ心配なの? ステラお姉ちゃん」
きな子の問いに、ステラは腕を組んで眉根を寄せる。
「……何か、とても大事なことを忘れているような気がするんだけれど」
「大事なことって、何?」
「それが分からないのよ……」
唸るように答えるステラ
そんな二人の様子に気付くことなく、祥吾はアズキに指令を出す
「よし、アズキ! まずはこのまままっすぐ行った先の町を目指してくれ!」
「グルルワーッ!」
祥吾の指令に応え
アズキが巨大な翼を力強く羽ばたかせた
強烈な風圧と共にスピードが上がる
あっという間に眼下の屋敷は点となり
程なくして魔の森の南端――鬱蒼とした木々の境界線が
足元を通り過ぎていった
そこからそのまま森を飛び出し
まっすぐ南の方向に見える、石造りの高い城壁を目指す
人間の足なら数日はかかる距離を
アズキはまさに矢のような速度で突き進み
あまり時間をかけずに到達してしまった
「信じられない……! こんなに早く着くなんて!」
ステラは身を乗り出し、思わず心の底からの驚きを吐き出した
アズキは高度を一気に下げ
町全体が箱庭のように見渡せる高さでメルフィアの上空を悠然と旋回する。
「メルフィアに間違いないか?」
「はい! あの高さの堅牢な城壁は
他にはありませんから!
町並みも見覚えのある建物ばかりです。
……こんな空の上から見たことは、一度もありませんけれど」
ステラは、自分が住んでいた街の全景を見下ろしていた。
その表情には、なんともいえない複雑な感慨が浮かんでいた
「そうか。よしアズキ、次はあの先にある
さらに大きな都市を目指してくれ」
祥吾が、はるか南方の地平線に霞んで見える
巨大な影を指差して指定する
先程と同じように一声低く吠えて
アズキは一気に高度を上げ、先程と同じように加速した
そのまましばらく水平に雲海を切り裂き
やがてかなりの角度で滑るように下降していく
その先に見えてきたのは
メルフィアほど広大ではないものの
巨大な王城と幾重もの城壁を中心に
整然と街並みが広がる大都市だった
「これが、ソラディアなの……?」
眼下に広がる壮麗な街並みに、ステラが茫然とつぶやく。
「ステラは、王都を見るのははじめてか?」
ステラは大きく頷いた。
「はい。ソラディアは
メルフィアからは馬車を飛ばしても五日はかかる距離だと聞いていました
バルド親方は商売で何度も行っていましたが
あたしはまだ一度も連れて行ってもらったことはありません」
「そうか。それじゃあ、せっかくだから近くから見物していくといい」
祥吾の言葉と共に、アズキはさらに高度を下げた
王都の尖塔や広場がよく見える高度まで下がり
何度か旋回し、東西、南北にゆっくりと横切っていく
しかし、その時
「……うん?」
「あら?」
眼下を見下ろしていた祥吾と千草の口から、同時に不審げなつぶやきが漏れた
「ちち、はは
どうかしたの?」
床に羊皮紙を広げ、一生懸命に王都の風景を描き写していたきな子が
それを聞きつけて尋ねた
「いや、王都の広場らしきところや大通りにな……人がだんだん、
異常な数で湧き出してきているようなんだが……」
「そうですわね。たしかに、最初に上空へ来た時に比べると
ものすごい勢いで人があふれ出しているような気がしますわ」
きな子が窓から王都を見下ろす
先程は建物を描くのに夢中で気がつかなかったが
確かに、米粒のような無数の人々が
通りという通りを埋め尽くすようにうごめいている
さらには、城壁の塔のあちこちから
キラキラと金属(武器や鎧)の反射光のようなものが
慌ただしく動いているのも見えた
尖塔からは赤い煙が次々と上がっていた
「お祭り?」
きな子が無邪気につぶやく
「さあな
俺たちを見ているようにも思えるが……」
「まさか
これほど高い場所ですもの
下からは鳥ほどにしか見えないのでは?」
「それもそうか。王都で何か催しでも始まったのだろう
まあ、空にいる俺たちには関係ないことだ
この周りの地形をもう少し確認したら、メルフィアに戻ろうか」
そう言って、祥吾たちは全く気にする様子もなく
のんびりと王都の上空を後にした。
その時点では、誰一人として気づいていなかった
そう――
魔の森の絶対的象徴にして災害そのものである巨大な龍が
白昼堂々、人間の住む王都にあらわれたこと
その龍は、ひとたび現れれば国を挙げての討伐隊が組まれるほどの魔物であること
しかも、それが王都上空を我が物顔で低空で旋回するということが
どれほどの恐怖と騒乱を引き起こすかということ
ただ、遠ざかる王都を見つめるステラだけが
ようやく思い出したように青ざめた
「……あ」
「どうした、ステラ?」
「思い出しました」
「何をだ?」
ステラは、遠ざかる王都を見て、次にアズキを見上げ、最後に祥吾へ視線を向けた
「龍が町の上を飛んだら、国が滅びる前触れだと思われます」
ゴンドラの中から、音が消えた
そわそわと落ち着かないそぶりを見せていた
「まだ心配なの? ステラお姉ちゃん」
きな子の問いに、ステラは腕を組んで眉根を寄せる。
「……何か、とても大事なことを忘れているような気がするんだけれど」
「大事なことって、何?」
「それが分からないのよ……」
唸るように答えるステラ
そんな二人の様子に気付くことなく、祥吾はアズキに指令を出す
「よし、アズキ! まずはこのまままっすぐ行った先の町を目指してくれ!」
「グルルワーッ!」
祥吾の指令に応え
アズキが巨大な翼を力強く羽ばたかせた
強烈な風圧と共にスピードが上がる
あっという間に眼下の屋敷は点となり
程なくして魔の森の南端――鬱蒼とした木々の境界線が
足元を通り過ぎていった
そこからそのまま森を飛び出し
まっすぐ南の方向に見える、石造りの高い城壁を目指す
人間の足なら数日はかかる距離を
アズキはまさに矢のような速度で突き進み
あまり時間をかけずに到達してしまった
「信じられない……! こんなに早く着くなんて!」
ステラは身を乗り出し、思わず心の底からの驚きを吐き出した
アズキは高度を一気に下げ
町全体が箱庭のように見渡せる高さでメルフィアの上空を悠然と旋回する。
「メルフィアに間違いないか?」
「はい! あの高さの堅牢な城壁は
他にはありませんから!
町並みも見覚えのある建物ばかりです。
……こんな空の上から見たことは、一度もありませんけれど」
ステラは、自分が住んでいた街の全景を見下ろしていた。
その表情には、なんともいえない複雑な感慨が浮かんでいた
「そうか。よしアズキ、次はあの先にある
さらに大きな都市を目指してくれ」
祥吾が、はるか南方の地平線に霞んで見える
巨大な影を指差して指定する
先程と同じように一声低く吠えて
アズキは一気に高度を上げ、先程と同じように加速した
そのまましばらく水平に雲海を切り裂き
やがてかなりの角度で滑るように下降していく
その先に見えてきたのは
メルフィアほど広大ではないものの
巨大な王城と幾重もの城壁を中心に
整然と街並みが広がる大都市だった
「これが、ソラディアなの……?」
眼下に広がる壮麗な街並みに、ステラが茫然とつぶやく。
「ステラは、王都を見るのははじめてか?」
ステラは大きく頷いた。
「はい。ソラディアは
メルフィアからは馬車を飛ばしても五日はかかる距離だと聞いていました
バルド親方は商売で何度も行っていましたが
あたしはまだ一度も連れて行ってもらったことはありません」
「そうか。それじゃあ、せっかくだから近くから見物していくといい」
祥吾の言葉と共に、アズキはさらに高度を下げた
王都の尖塔や広場がよく見える高度まで下がり
何度か旋回し、東西、南北にゆっくりと横切っていく
しかし、その時
「……うん?」
「あら?」
眼下を見下ろしていた祥吾と千草の口から、同時に不審げなつぶやきが漏れた
「ちち、はは
どうかしたの?」
床に羊皮紙を広げ、一生懸命に王都の風景を描き写していたきな子が
それを聞きつけて尋ねた
「いや、王都の広場らしきところや大通りにな……人がだんだん、
異常な数で湧き出してきているようなんだが……」
「そうですわね。たしかに、最初に上空へ来た時に比べると
ものすごい勢いで人があふれ出しているような気がしますわ」
きな子が窓から王都を見下ろす
先程は建物を描くのに夢中で気がつかなかったが
確かに、米粒のような無数の人々が
通りという通りを埋め尽くすようにうごめいている
さらには、城壁の塔のあちこちから
キラキラと金属(武器や鎧)の反射光のようなものが
慌ただしく動いているのも見えた
尖塔からは赤い煙が次々と上がっていた
「お祭り?」
きな子が無邪気につぶやく
「さあな
俺たちを見ているようにも思えるが……」
「まさか
これほど高い場所ですもの
下からは鳥ほどにしか見えないのでは?」
「それもそうか。王都で何か催しでも始まったのだろう
まあ、空にいる俺たちには関係ないことだ
この周りの地形をもう少し確認したら、メルフィアに戻ろうか」
そう言って、祥吾たちは全く気にする様子もなく
のんびりと王都の上空を後にした。
その時点では、誰一人として気づいていなかった
そう――
魔の森の絶対的象徴にして災害そのものである巨大な龍が
白昼堂々、人間の住む王都にあらわれたこと
その龍は、ひとたび現れれば国を挙げての討伐隊が組まれるほどの魔物であること
しかも、それが王都上空を我が物顔で低空で旋回するということが
どれほどの恐怖と騒乱を引き起こすかということ
ただ、遠ざかる王都を見つめるステラだけが
ようやく思い出したように青ざめた
「……あ」
「どうした、ステラ?」
「思い出しました」
「何をだ?」
ステラは、遠ざかる王都を見て、次にアズキを見上げ、最後に祥吾へ視線を向けた
「龍が町の上を飛んだら、国が滅びる前触れだと思われます」
ゴンドラの中から、音が消えた
