とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

千草ときな子が一緒に寝た次の日
目覚めたきな子は
再び、恐怖に駆られたように体を震わせた

だが、千草はきな子の目の前でにっこり笑い
それから、優しく抱きしめた
「大丈夫。あなたはここに居ていいの」
昨日の声とは違い、その響きにはこれ以上ないほどの優しさだけが滲んでいた

言葉の意味は分からずとも
その響きに、きな子は落ち着きを取り戻した

祥吾は、落ち着いた千草の態度に、ほっと小さく息を吐いた

千草は、自分の小さな時の服をきな子に着せると
きな子を連れて朝餉の準備のために部屋を出た

「両手に花の感想はどうかな?」
祥吾が布団の中でぐったりしている神爺に言う
夜中に何度も
「ぐぇ」とか「ふぎゃ」とか言う声が聞こえていたからだ
「ふん 至福の時をすごさせてもらったわい」
「至福の時は、ずいぶん疲れるらしい」
二人が他愛もないおしゃべりを続けているうちに
朝餉の用意が出来たと千草が呼びに来た
その横には手を繋いだきな子がいる

朝餉の席で、きな子には
部屋の隅に立って座ろうとしなかった
祥吾は、座るのが苦手なのかと思い
膳の前にいくつも座布団を敷いてやったが
きな子は首を振るばかりだった

神爺が苦々しげに言った
「きな子は、そのような扱いだったのだろうよ」

最初、祥吾はその意味が分からなかった
千草は、一瞬険しい顔になったが、すぐに穏やかな顔に戻り
きな子のそばに行くと、その目を見ながら
「あなたも一緒に食べるのですよ」
と、優しく言った

きな子は大きく目を開き、大きく首を振った
その頬に手を当て、千草は続けて言う
「みんな、あなたと一緒に食べたいの」
きな子は驚き、祥吾を見た
ようやく神爺の言葉の意味を理解した祥吾は
腹の中の怒りを押し殺し、きな子には力強く頷いてみせた

きな子の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる

その涙を拭いてやりながら、千草の目も潤んでいた
そのまま、膳の前に座らせて
「さあ、食べましょう!」
と明るく言った

きな子のために箸だけでなく、スプーンとフォークが用意されていた
きな子は、スプーンを持って食べようとして、固まった
その先には、七色のキノコの入った味噌汁
七色の卵から作られた卵焼きが鎮座していた

釘付けだった目をあげ
千草を見る
ニコッと笑う千草
祥吾を見る
平然とそれらを食べる祥吾

きな子は意を決して、目をつぶったまま卵焼きを口に入れた
驚いたように目を見開く
それを見ながら祥吾は、俺もあんな風だったなとおかしくなった

朝餉が終わると、その片付け
そして、一日の仕事が始まる

「私は、仕事に取りかかるけど、きな子はどうする?」
その問いに、きな子は千草の袖を掴むことで答えた
「では、いっしょに行きましょう」
「千草、きな子は大丈夫か?」
「大丈夫でございます」
自信満々に答える千草を見て、逆に不安になる祥吾
結局一緒について行くことにした

最初は、見ているだけだったきな子だが
すぐに千草に、自分も手伝うと身振りで示した
屋敷の掃除、庭掃除を終え

次に家畜の世話に入った

家畜たちは、いきなり入ってきた新入りを
警戒と興味の目で見ていたが
千草の手伝いを、小さい体ながら一生懸命手伝っている姿と
千草がかわいがっている様子を見て
すぐに受け入れた
ただし、自分たちよりも下であることを知らしめようと
1羽ずつ、1頭ずつやってきては、きな子の顔に近づき
「ケコーッ」とか「モウ」とか鳴いては去って行く
その間、きな子は、何のことか分からずにびっくりした顔で固まっていた

祥吾は、その様子がおかしくて笑いそうになったが
ふと、俺は、きな子より上なのか、それとも下なのか不安になってきた

家畜たちの騒動に我関せずの態度を取っていた疾風とアズキに聞く

「なあ、おれは、きな子よりは上だよな?」

いきなり疾風が、首を振って祥吾を横に突き飛ばす
危うく倒れそうになった祥吾が、抗議するために振り向くと
疾風はきな子に顔を寄せて、上機嫌で「ブルルッ」と鼻を鳴らしていた
すぐそばにはアズキも近づいて「クルルッ」とかわいい声で鳴いている

(アズキおまえもか?)
分けのわからぬ敗北感に打ちのめされる祥吾だった