祥吾と千草は、草むらに並んで戸板の上にうつ伏せに寝転がっていた
戸板は一畳分の広さしかないため、嫌でも体が触れる
「だ、旦那様、本当にこれが必要なのでしょうか?」
尋ねる千草は、祥吾の顔がすぐ近くにあるせいか、顔が赤くなっている
「この体制でないと、飛んだとき下が見えないからな」
「おまえたちは、そうだろうが
なぜ、わしが、お主に握られなければならんのじゃ!」
「そう言うな。アズキに指示を出すには
神爺がいないとどうにもならないからな」
「ふむ、そうか?」
「ああ、頼りにしているぞ
この作戦の要だからな」
不服そうな神爺を、祥吾がおだてる
「そういうことなら…… しかたがないのう」
機嫌を直した神爺に、祥吾はアズキへの動きの指示を出す
地響きのような唸り声と共に
凄まじい羽ばたきが周囲の砂埃を巻き上げる
見るとアズキの巨体がふわりと浮き上がり
さらなる羽ばたきでそのまま上空へと舞い上がった
そのまま少し直進すると、そこで身を翻し、
二人の乗った戸板めがけて一気に急下降してくる
叩きつけられるような風圧の中、
戸板に頭を付け、力の限り握り戸板の縁を握りしめる
視界が影に覆われた
次の瞬間、内臓が置き去りになるような強烈な力が祥吾を襲った。
アズキが力強く戸板を掴み、巨大な翼を打ち振るったのだ。
視界がまたたく間に跳ね上がる。
並び立つ木々の梢が、あっという間に足元へと流れ
瞬く間に小さくなっていく
急激な高度上昇に伴う暴風が、指の隙間から容赦なく吹き込んできた。
思わず戸板を強く握りしめると
前方で「ぐえっ」という声が聞こえた気がした
一瞬、千草を巻き込んだことを後悔して
そちらを見る
だが、千草は前を見ていた
そこに恐れはなかった、おびえもなかった
純粋に未知なるものに出会った喜びに満ちていた
祥吾は、安心と共に、危うさも感じずにはいられなかった
普通なら、恐怖で生きた心地もしない空中空間
だが、祥吾たちを包む「指の空間」の中は
考えていたより安全だった。
風圧を遮るように、アズキが大きな指の角度をコントロールし
風除けの壁を作ってくれている
旋回する際には、かかる遠心力に合わせて包み方を滑らかに傾け
上昇する時は滑り落ちないよう、内側の柔らかな皮膚でそっと優しく圧をかける。
わずかでも力加減を誤れば人間など容易く握りつぶせる剛脚が
壊れやすい宝物を守るように掴んでくれている。
「見てください! 旦那様!」
その声は震えを帯びていた
しかし、それは恐怖のものではない
未知のものに接する抑えきれない喜びから生じるもののようだった
祥吾も、眼下を見下ろし、息を呑んだ
森の一方には、白銀の大山脈がそびえている。
その尾根は、そこから祥吾たちの方に向かって長く伸び
巨大な竜の背骨のように大地を分断していた。
その山々を一方の頂点として、他の三方には果てしない森が広がっている
しかし、ただに単調な緑の絨毯ではない
山々から流れ出す数え切れない川が深い森を潤し
豪快に水飛沫をあげる大滝や、複雑に蛇行してデルタ地帯をけいせいしている
それらは原始のままの手つかずの自然そのものだ。
そして、その原生林の境界を越えた先には、大地が果てしなく広がっていた
「とてつもないな」
森の広さとその先に続く大地に圧倒されて、祥吾はつぶやく
森の先の大地には何があるのか、祥吾は興味を覚えた
「アズキ、森の端まで行けるか」
神爺を通じた祥吾の問いに、一声鳴いてアズキが応えた
「よし、頼む」
アズキはゆっくりと方向を変え。山脈と反対方向へ進み始めた
その方向は、森から大地のまでの距離が
他の方向に比べると短かった
木々の深さは途中までは変わらないものの
大地に近づくにつれ、少しずつ疎らになり
地面が見える部分もあった
その地面と周りの木々には、人が住んでいると思われる
住居が点在しているのが見えた
(ここの住人か)
ここに人が暮らしているのなら、
自分たちと、はじめに接触する可能性が高い
不用意な接触は極力さけたいが
否応なしに、そのような状況になることも想定しておかなければならない
祥吾は、屋敷とその集落の、だいたいの距離と方向を目に焼き付けた
そこを越えると、森の端はすぐだった
木々は唐突に途絶え
草原が広がっていた
その先には道とおぼしきものが長く伸び、幾つかに分かれている
そして、そのひとつは砦を大きくしたような城壁へと続いていた
「旦那様、この地にも人はいるようですね」
「そうだな、予想はしていたが
さて、どうするかな」
「どういうことでしょうか?」
「積極的にかかわるか、それとも
できるかぎり関わらないようにするか」
「もっと情報を集めなければなりませんね」
千草の声は、いやに嬉しそうだ
「何を考えてるんだ?」
「上空からの偵察の次は、地上からの隠密偵察を行わねば」
父からは、そう教わりました」
(義父(ちちうえ) 、あんた、娘に何をおしえてるんだ!)
またひとつ、祥吾の心労が増えそうだった
戸板は一畳分の広さしかないため、嫌でも体が触れる
「だ、旦那様、本当にこれが必要なのでしょうか?」
尋ねる千草は、祥吾の顔がすぐ近くにあるせいか、顔が赤くなっている
「この体制でないと、飛んだとき下が見えないからな」
「おまえたちは、そうだろうが
なぜ、わしが、お主に握られなければならんのじゃ!」
「そう言うな。アズキに指示を出すには
神爺がいないとどうにもならないからな」
「ふむ、そうか?」
「ああ、頼りにしているぞ
この作戦の要だからな」
不服そうな神爺を、祥吾がおだてる
「そういうことなら…… しかたがないのう」
機嫌を直した神爺に、祥吾はアズキへの動きの指示を出す
地響きのような唸り声と共に
凄まじい羽ばたきが周囲の砂埃を巻き上げる
見るとアズキの巨体がふわりと浮き上がり
さらなる羽ばたきでそのまま上空へと舞い上がった
そのまま少し直進すると、そこで身を翻し、
二人の乗った戸板めがけて一気に急下降してくる
叩きつけられるような風圧の中、
戸板に頭を付け、力の限り握り戸板の縁を握りしめる
視界が影に覆われた
次の瞬間、内臓が置き去りになるような強烈な力が祥吾を襲った。
アズキが力強く戸板を掴み、巨大な翼を打ち振るったのだ。
視界がまたたく間に跳ね上がる。
並び立つ木々の梢が、あっという間に足元へと流れ
瞬く間に小さくなっていく
急激な高度上昇に伴う暴風が、指の隙間から容赦なく吹き込んできた。
思わず戸板を強く握りしめると
前方で「ぐえっ」という声が聞こえた気がした
一瞬、千草を巻き込んだことを後悔して
そちらを見る
だが、千草は前を見ていた
そこに恐れはなかった、おびえもなかった
純粋に未知なるものに出会った喜びに満ちていた
祥吾は、安心と共に、危うさも感じずにはいられなかった
普通なら、恐怖で生きた心地もしない空中空間
だが、祥吾たちを包む「指の空間」の中は
考えていたより安全だった。
風圧を遮るように、アズキが大きな指の角度をコントロールし
風除けの壁を作ってくれている
旋回する際には、かかる遠心力に合わせて包み方を滑らかに傾け
上昇する時は滑り落ちないよう、内側の柔らかな皮膚でそっと優しく圧をかける。
わずかでも力加減を誤れば人間など容易く握りつぶせる剛脚が
壊れやすい宝物を守るように掴んでくれている。
「見てください! 旦那様!」
その声は震えを帯びていた
しかし、それは恐怖のものではない
未知のものに接する抑えきれない喜びから生じるもののようだった
祥吾も、眼下を見下ろし、息を呑んだ
森の一方には、白銀の大山脈がそびえている。
その尾根は、そこから祥吾たちの方に向かって長く伸び
巨大な竜の背骨のように大地を分断していた。
その山々を一方の頂点として、他の三方には果てしない森が広がっている
しかし、ただに単調な緑の絨毯ではない
山々から流れ出す数え切れない川が深い森を潤し
豪快に水飛沫をあげる大滝や、複雑に蛇行してデルタ地帯をけいせいしている
それらは原始のままの手つかずの自然そのものだ。
そして、その原生林の境界を越えた先には、大地が果てしなく広がっていた
「とてつもないな」
森の広さとその先に続く大地に圧倒されて、祥吾はつぶやく
森の先の大地には何があるのか、祥吾は興味を覚えた
「アズキ、森の端まで行けるか」
神爺を通じた祥吾の問いに、一声鳴いてアズキが応えた
「よし、頼む」
アズキはゆっくりと方向を変え。山脈と反対方向へ進み始めた
その方向は、森から大地のまでの距離が
他の方向に比べると短かった
木々の深さは途中までは変わらないものの
大地に近づくにつれ、少しずつ疎らになり
地面が見える部分もあった
その地面と周りの木々には、人が住んでいると思われる
住居が点在しているのが見えた
(ここの住人か)
ここに人が暮らしているのなら、
自分たちと、はじめに接触する可能性が高い
不用意な接触は極力さけたいが
否応なしに、そのような状況になることも想定しておかなければならない
祥吾は、屋敷とその集落の、だいたいの距離と方向を目に焼き付けた
そこを越えると、森の端はすぐだった
木々は唐突に途絶え
草原が広がっていた
その先には道とおぼしきものが長く伸び、幾つかに分かれている
そして、そのひとつは砦を大きくしたような城壁へと続いていた
「旦那様、この地にも人はいるようですね」
「そうだな、予想はしていたが
さて、どうするかな」
「どういうことでしょうか?」
「積極的にかかわるか、それとも
できるかぎり関わらないようにするか」
「もっと情報を集めなければなりませんね」
千草の声は、いやに嬉しそうだ
「何を考えてるんだ?」
「上空からの偵察の次は、地上からの隠密偵察を行わねば」
父からは、そう教わりました」
(義父(ちちうえ) 、あんた、娘に何をおしえてるんだ!)
またひとつ、祥吾の心労が増えそうだった
