とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

千草の説得は難航を極めた
祥吾が勝ち取ったのは、わずかに疾風との水くみのみだった
惨敗である

次の日
昨夜は意気消沈して寝入ったせいで
朝の寝覚めは最低だった

すでに千草の寝床は片づけられ、その姿はすでにない
はあーっと大きなため息をついたところに、慌てた様子の千草が現れた

「旦那様! アズキがいません!」

その心配そうな顔に、少し後ろめたさを感じながらも
落ち着いた声で言った
「大丈夫だ
 アズキには、すでに任務を与えている」
「任務?
 なるほど! 今日の捜索のための任務ですね
 さすがは、旦那様です!」
感心しきりの千草に、祥吾の後めたさは、さらに前進した

朝餉の後、祥吾は、千草が見つけた川へと
疾風と水くみに出かけた
神爺も一緒だ

疾風の背に棒をのせ、両側に大きな樽をつるす
自分は、川から水を汲む大きなひしゃくを持つ
川から水を汲むと、台所の水桶と風呂、予備の大桶に水を入れる
当然1回ではすまない
これだけでもなかなかの重労働だ

「奥方は、大したものだの」
「そうだな、俺は軍にいたから
 経験があるが、山や森で
 生きるために日々行なわねばならないことは
 本当に多い
 千草は、その上、俺や疾風たちの世話までこなしている
 少しでも負担を減らしてやりたいんだが……」

「親の心子知らずというやつかの
 いや、祥吾の心千草知らず、か」
「俺の心など知らない方がいい
 千草が余計なしがらみにとらわれるぐらいなら、な」

(今でも、危うく思える時がある……)
鈍い痛みと共に、今までを思い出す

そんな祥吾を見ながら、神爺は何も言わずにいた

最後の水を汲み終えると、神爺をそこに残し
屋敷に戻る

すべてを終え、捜索の準備を整えた頃、
採集鞄を肩から下げた千草が
意気揚々たる足取りでやってきた

「旦那様!――」
元気よく声をあげた千草だが、祥吾の姿を目にして首をかしげた
「旦那様、なぜ、軍刀を背負われておられるのですか?」

祥吾は、いつもは腰に差している軍刀を背中に背負っていた
「今日の捜索に必要な格好だからな
 千草も採集鞄は置いていくように
 今日は、採集している暇はないかもしれない」

千草は少し不満げな様子だったが、素直に鞄を降ろしてかたづけた

「では、行こうか」
そう言って、川へ向かおうとする祥吾に、千草が再度問うた
「お待ちください、疾風は連れて行かないのですか」
「ああ、今日の捜索には疾風はつれていけないのだ」
祥吾の答えに戸惑っている千草

いつも千草に振り回されている祥吾としては
ささやかな意趣返しの成功に
(よし!)
と、心の中で拳を握った

二人で川ヘ向かう
そこには、神爺とアズキがいた

「まあ、アズキ
 少し見ないうちにすっかり大きくなって」
アズキの姿を見た千草が、どこかの親戚のおばちゃんのような事を言う

祥吾の意趣返しは、この時点で敗北の危機に瀕した

(いや、まだだ)

アズキは、祥吾が最初に見たときの大きさに戻っていた
昨日から、ずっと森の中を巡り、森の神気もどきを吸収し
魔物を撃退して過ごしていたのだった

「今日の捜索だが、アズキに乗って空中から、この森を捜索する」

祥吾は、今日の作戦を、まるで勢揃いした兵隊を前にした将軍のように
高らかに宣言する
それを聞いた千草だが、特に臆したところはない
それどころか、その目の輝きは、白熱電球よりも輝いていた

(まだだ、まだ、最後の手段がある!)

「千草、危険だから俺と神爺だけで――」
「なにをおっしゃいます。つ、妻たる者、旦那様と常にあらねば」

(それ、本音じゃないだろ)

心で突っ込みを入れながら、最後の手札を切る

「乗ると言っても、背に乗るのではないのだぞ
 アズキの足に乗るのだ」

最初、アズキの背に乗ることを考えたのだが
小さなアズキに載って見ると、
その風圧の強烈さは、息が出来ないほどだった
安定も悪く、鞍か乗りカゴのようなものを設置しないと
危なくて乗れないことが、わかった

そこで、考えたのがアズキの足に掴んで貰うという方法だった
そのままでは、同じように風圧がすごいが
両足で包み込むようにすれば、防げるし
何より、下の景色が十分に見える

「足にでございますか」
千草が問う
「そうだ、かなり危険を伴うが、
 この森の状況を、一刻も早く把握するためには
 やむをえぬ手段と判断したのだ
 だから、千草は――」
「素晴らしい作戦でございます! 旦那様!
 そのような作戦にご一緒させていただけるとは
 感激の至り!」

(いや、何者なんだ?)

祥吾の意趣返しは、完全に敗北を喫したのだった