とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

祥吾は、神爺を抱えて走っていた
密集していた木々がほぐれるように、空間が広がりを見せる

その先に、川が流れていた
しかし、川のせせらぎの音は聞こえず、
かわりに、地響きのような轟音が耳朶を打つ

その先に現れたのは、切り立った岩壁を真っ白な帯となって
激しく流れ落ちる巨大な滝だった。
激しい勢いで叩きつけられた水は、無数の水飛沫となって宙に舞い、
きらきらと太陽の光を反射している。

先ほどまでの、まとわりつく不愉快な大気は一掃され
ひんやりとした潤んだ空気が肌を包み込む

言葉もなく、川辺に立ち尽くしていた千草の横まで祥吾は歩いて行く

ゆっくりと、千草が祥吾を見る
その顔は、川面の光と、瀧の水滴の反射する光を受けながら
なお、負けない輝きを帯びていた

「瀧を見るのは初めてなのか?」
「いえ、けれど、このように壮大なものは初めてです」
「そうか」
瀧の音に負けない声で言う言葉は
そこで途切れた
けれど、それ以上言葉がなくとも
祥吾は千草の横にずっと立っていられる気がした

――その刹那、目の前の水面が爆発したように跳ね、
一条の銀色の影が飛び出してきた
日の光を浴びてギラリと光ったのは、
無数の剃刀のような牙を剥き出しにした、狂暴な人食い魚の顎だった。

初動が遅れた祥吾は、それでも千草を背後にかばった
目の前に迫る魚に、軍刀を抜く暇はない
とっさに、鞘のまま、たたきつけようとする
寸前、目の前で、疾風の足が魚を蹴りつけた

「「疾風!」」
二人が同時に叫ぶ
魚は、胴体に穴をあけたまま、川に落ちた
千草はすでに祥吾の橫に並び、礫を手にしていた

時を置かず二匹目、三匹目が跳ねた
応戦しようとする二人の目の前を
今度は炎の濁流が奔っていった

「アズキ!」
叫びながら、祥吾は抜刀し、油断なく川面をうかがう

その前にアズキが立ち、川面を睨む
まだ、襲おうとしていた魚影は、
蜘蛛の子を散らすように逃げ去った

川面に魚影がいなくなったのを確認して
祥吾は、ふうーっと大きく息をついた
「旦那様、お怪我はありませんか?」
千草が心配そうに聞いてくる
「大丈夫だ、千草こそ大丈夫か?」
逆に聞き返すが、千草はそれに答えず
けがの有無を確かめようとするのか、
祥吾に近づき手をかけ体の方々に目をやる

怪我がないことが確かめられたのか
千草も大きく息をつく
「無事で何よりでございます」

「無事ではないわい!」

いきなり怒鳴り声が響く
何事かと声のした方を見ると
びしょ濡れになった神爺がいた

「どうなさったのですか、屋敷神様」
「どうもこうもないわ、こ奴がわしをほっぽったのじゃ」
神爺が祥吾を指さす
「俺が? ……そうだった!」
初動で遅れたのは、神爺を放り投げたからだった
その方向が運悪く川の方だったらしい
「罰当たりな奴め! 天罰じゃ!天罰を――」

「旦那様、見て下さい!」
千草の嬉しそうな声が、神爺の言葉をさえぎる

見ると、先程の丸焼けになった大きな魚を引っぱって来ようとしている
「何をしているんだ?」
意味が分からず尋ねる祥吾
「食料です! 
 お肉や魚はここでは手に入らないのではと心配していたのです
 ですが、これでもう心配ありません
 いつでも、お魚が手にはいります」
「はあ?」
あまりの予想外の答えに唖然とする祥吾と神爺だった