「グルル……」という獣のような唸り声を耳にした瞬間
祥吾は反射的に身構えた。見ると千草も同じように身構えている
だが、それは、神爺を追おうとしていたアズキの声だった
少し先で立ち止まり
何故早く来ないというような、恨めしげな目で見ていた
それでようやく、祥吾は神爺の事を思い出した
「そうだ、神爺が大変なんだった」
「そうですわね
助けに行かなければいけませんわ」
取り繕うような、上っ面な会話のあと
祥吾は疾風に乗った
千草も同時に乗ってくる
ごく自然に祥吾の前に
疾風は、二人が自分に乗るやいなや駆け出した
アズキは、それを見て羽を羽ばたかせ
低く飛び先行する
二頭は、徐々に間隔の狭くなる木々の間を
速度を落とさず進む
祥吾の中では、先ほどまでよりさらに強い警鐘がなっているが
あえて無視した
進むごとに、陽光は細くなり、樹海のように昼なお暗く
木々に絡み合う蔦は、今にも動き出しそうに見える
所々に生える発光している植物が、不気味な光を放っている
祥吾は、思わず体をぶるっと震わせた
「旦那様?」
その様子を感じたのか、千草が声をかけてくる
「ああ、すまん
なさけないな、千草はこんなにしっかりしているのに」
祥吾は自嘲気味に言った
「いえ……」
千草は、少しうつむいて言葉をとぎらせた
しかし、すぐ顔を上げ言った
「旦那様は、今までの私の言動を『小賢しい』とは
思わないのですか?」
顔は前を向いて見えなかったが
その言葉には、切羽詰まった覚悟が込められている気がした
「『小賢しい』? どうして?」
「私は、昔から、常にそう言われておりました」
『常にそう言われて』
その言葉が、祥吾の胸を鋭く切りつけた
「そうか、『常にそう言われて』いたか……」
「旦那様?」
「いや、なんでもない
それより、俺は今までそんなこと思ったことはないぞ」
思わず振り返る千草
そのせいで体制が崩れる
すばやく、祥吾は片腕で千草を抱きかかえた
「ありがとうございます」
「大丈夫か? 無理はするな」
「大丈夫でございます」
そう言ってから、こちらの顔をうかがう
「こういうところでございます」
「うん?」
「普通の女子であれば、殿方にしがみつき
甘えた言葉の一つも言うものでございましょう?」
その物言いに、おかしくなって祥吾は笑ってしまった
「何がおかしいのでございましょう?」
千草は少し口を尖らせて言う
その表情も今まで見たこともないものだ
祥吾が返事をしようとした時
「ヴゥゥゥ…」といううなり声に顔を上げると
前方でアズキが、立ち止まり、体制を低くして唸っていた
その先には巨大な花がいた
ひまわりの花が上を向いて咲いているような花だが、直径は祥吾三人分ほどあり
花びらは十枚ほどが円形の中心から地面に垂れ下がっている
当然1枚の花びらは巨大で色は血のように濁った赤で
表面には不気味な黄白色の斑点模様がびっしりと浮き出ている
中心にはどろっとした液体が浴槽のようにたまっており
時折、花全体の揺れで外へしたたり落ちている
祥吾はそのおぞましさに身震いしたが
千草は、疾風から降りるなり、祥吾を見上げて
嬉しそうに言った
「旦那様
こんな植物は見たこともございません
新発見ですわ!」
(いや、そりゃ この世界のものはほとんど新発見だろうが)
そう突っ込みたい祥吾だったが
すぐにでもその花に突進していきそうな千草の様子に
慌てて降りて手を掴む
その手をじっと見る千草
だが、祥吾はだまされなかった
千草の頬は赤くなってない
「行くんじゃないぞ」
旦那様らしく、しかめっ面で言う
しかめっ面にしないと、顔が緩んでしまう
千草のふくれっ面も初めてだ
そこに、ゴォーという轟音
見るとアズキが、花に向かって口から火を吐いていた
「あっ、あああ……」
千草が花の方へ手を伸ばし悲痛な声を出す
その目の前で花はあっけなく燃え尽きた
唖然とする祥吾
その目の前で、消し炭になった花の残骸が揺れ
ボロボロ落ちていく
まだ死にきっていないのかと祥吾は軍刀に手をかけた
だが、そこから出てきたのは煤まみれになった神爺だった
「神爺! 無事だったか!」
「どこがじゃ!」
一仕事終えて満足そうなアズキと疾風
燃え尽きた花を見て悲嘆に暮れる千草
煤だらけで怒り心頭に達している神爺
異世界の中で、異世界より混沌とした世界がそこにあった
祥吾は反射的に身構えた。見ると千草も同じように身構えている
だが、それは、神爺を追おうとしていたアズキの声だった
少し先で立ち止まり
何故早く来ないというような、恨めしげな目で見ていた
それでようやく、祥吾は神爺の事を思い出した
「そうだ、神爺が大変なんだった」
「そうですわね
助けに行かなければいけませんわ」
取り繕うような、上っ面な会話のあと
祥吾は疾風に乗った
千草も同時に乗ってくる
ごく自然に祥吾の前に
疾風は、二人が自分に乗るやいなや駆け出した
アズキは、それを見て羽を羽ばたかせ
低く飛び先行する
二頭は、徐々に間隔の狭くなる木々の間を
速度を落とさず進む
祥吾の中では、先ほどまでよりさらに強い警鐘がなっているが
あえて無視した
進むごとに、陽光は細くなり、樹海のように昼なお暗く
木々に絡み合う蔦は、今にも動き出しそうに見える
所々に生える発光している植物が、不気味な光を放っている
祥吾は、思わず体をぶるっと震わせた
「旦那様?」
その様子を感じたのか、千草が声をかけてくる
「ああ、すまん
なさけないな、千草はこんなにしっかりしているのに」
祥吾は自嘲気味に言った
「いえ……」
千草は、少しうつむいて言葉をとぎらせた
しかし、すぐ顔を上げ言った
「旦那様は、今までの私の言動を『小賢しい』とは
思わないのですか?」
顔は前を向いて見えなかったが
その言葉には、切羽詰まった覚悟が込められている気がした
「『小賢しい』? どうして?」
「私は、昔から、常にそう言われておりました」
『常にそう言われて』
その言葉が、祥吾の胸を鋭く切りつけた
「そうか、『常にそう言われて』いたか……」
「旦那様?」
「いや、なんでもない
それより、俺は今までそんなこと思ったことはないぞ」
思わず振り返る千草
そのせいで体制が崩れる
すばやく、祥吾は片腕で千草を抱きかかえた
「ありがとうございます」
「大丈夫か? 無理はするな」
「大丈夫でございます」
そう言ってから、こちらの顔をうかがう
「こういうところでございます」
「うん?」
「普通の女子であれば、殿方にしがみつき
甘えた言葉の一つも言うものでございましょう?」
その物言いに、おかしくなって祥吾は笑ってしまった
「何がおかしいのでございましょう?」
千草は少し口を尖らせて言う
その表情も今まで見たこともないものだ
祥吾が返事をしようとした時
「ヴゥゥゥ…」といううなり声に顔を上げると
前方でアズキが、立ち止まり、体制を低くして唸っていた
その先には巨大な花がいた
ひまわりの花が上を向いて咲いているような花だが、直径は祥吾三人分ほどあり
花びらは十枚ほどが円形の中心から地面に垂れ下がっている
当然1枚の花びらは巨大で色は血のように濁った赤で
表面には不気味な黄白色の斑点模様がびっしりと浮き出ている
中心にはどろっとした液体が浴槽のようにたまっており
時折、花全体の揺れで外へしたたり落ちている
祥吾はそのおぞましさに身震いしたが
千草は、疾風から降りるなり、祥吾を見上げて
嬉しそうに言った
「旦那様
こんな植物は見たこともございません
新発見ですわ!」
(いや、そりゃ この世界のものはほとんど新発見だろうが)
そう突っ込みたい祥吾だったが
すぐにでもその花に突進していきそうな千草の様子に
慌てて降りて手を掴む
その手をじっと見る千草
だが、祥吾はだまされなかった
千草の頬は赤くなってない
「行くんじゃないぞ」
旦那様らしく、しかめっ面で言う
しかめっ面にしないと、顔が緩んでしまう
千草のふくれっ面も初めてだ
そこに、ゴォーという轟音
見るとアズキが、花に向かって口から火を吐いていた
「あっ、あああ……」
千草が花の方へ手を伸ばし悲痛な声を出す
その目の前で花はあっけなく燃え尽きた
唖然とする祥吾
その目の前で、消し炭になった花の残骸が揺れ
ボロボロ落ちていく
まだ死にきっていないのかと祥吾は軍刀に手をかけた
だが、そこから出てきたのは煤まみれになった神爺だった
「神爺! 無事だったか!」
「どこがじゃ!」
一仕事終えて満足そうなアズキと疾風
燃え尽きた花を見て悲嘆に暮れる千草
煤だらけで怒り心頭に達している神爺
異世界の中で、異世界より混沌とした世界がそこにあった
