千草に追いついたとき、
祥吾は、全力疾走で息も絶え絶えとなっていた
だが、千草は、息は弾ませてはいるが、苦しげな様子は見えない
それどころか、紅潮した顔であたりを見回している
子どもの頃の遠足などで級友が見せたわくわくした顔を思い出す
祥吾もあたりを見回す
走っているときは気がつかなかったが
屋敷からは、ずいぶん離れてしまったようだ
およそ日本の山野では目にしたこともない
怪異にして原始の森だ
天を覆う巨木の隙間からは、太陽だろうと思われる光条が降り注いでいる。
その光に照らされた大気は、妙に重苦しく澱んでいるように思えて
これが、神爺の言う神気もどきの影響なのかと思う
(まずいな)
早急に戻らなければならないと、軍人としての勘が告げてはいる
告げてはいるのだが——
「惚れた弱みじゃな」
いきなり図星を指されて、思わず声のした方を振り返る
疾風の背でぐったりとへたり込んでる神爺
「大丈夫じゃ
アズキもおるし、わしもおる」
そのとたん、ブルルと疾風が鼻をならし、神爺を咥えようとするが
さすがに難しい
だが、神爺はおびえたように縮こまる
「悪かった、お前さんもおる」
俺はどうなのだと思ったが、口に出しては言わない
「旦那様
見てください!
見たこともない植物ばかり
こんなにたくさん!」
千草が祥吾に気がつき、叫ぶ
そのあまりに無防備な姿に、祥吾は初めて見る千草を感じた
しかも、今までで一番近しい千草だった
「ああ、なんて素敵なんでしょう
調べがいがありますわ
そうでしょう
お父様——!」
はっとして口をつぐむ千草
その顔がみるみる青くなり、申し訳そうにゆがむ
「申し訳ありません
旦那様
私、何てことを!」
あまりの千草の態度の急変に唖然としていた祥吾だが
慌ててなだめる
「いや、気にすることはない」
「ですが!」
「昔を思い出したのだろう
それだけのことだ」
「旦那様……」
「それに、何と言うか
千草が、俺に近づいてくれたようで——」
「えっ」
「い、いや、何でもない」
慌てて言葉を飲み込む
千草も何故か、さっきまで青かった頬を
ほんのり赤く染めている
「やれやれ お熱いことじゃな」
あきれた声に、千草の頬が、ますます赤くなる
それを見ている祥吾も顔が熱くなってくる
ニヤニヤして、立ち上がった神爺を見て
言葉を返そうとした祥吾の前で
疾風がいきなり体をブルッと振るわせる
背に乗っていた神爺は、油断していたのか簡単に疾風から転げ落ちる
そして——
落下途中の神爺は、くるりと体勢を変えた疾風の後ろ足に軽く蹴られた
軽く蹴られただけだが、小さな神爺には十分の威力だ
そのまま、祥吾と千草の見ている前で
訳のわからない叫び声を上げて、空高く飛んでいった
唖然としていた二人だが
アズキが慌てて神爺の飛んでいった方へ走り出したのを見て
我に返る
「疾風
神様を足蹴にするなど
罰当たりなことをしてはいけません」
「そうだぞ、いくらエロじじいとはいえ——」
「あなたに何かあったら
旦那様が悲しみます」
「そうだぞ、俺が——
何だって?」
千草に調子を合わせていた祥吾は、
疑わしそうな目で見る疾風から、思わず目をそらした。
祥吾は、全力疾走で息も絶え絶えとなっていた
だが、千草は、息は弾ませてはいるが、苦しげな様子は見えない
それどころか、紅潮した顔であたりを見回している
子どもの頃の遠足などで級友が見せたわくわくした顔を思い出す
祥吾もあたりを見回す
走っているときは気がつかなかったが
屋敷からは、ずいぶん離れてしまったようだ
およそ日本の山野では目にしたこともない
怪異にして原始の森だ
天を覆う巨木の隙間からは、太陽だろうと思われる光条が降り注いでいる。
その光に照らされた大気は、妙に重苦しく澱んでいるように思えて
これが、神爺の言う神気もどきの影響なのかと思う
(まずいな)
早急に戻らなければならないと、軍人としての勘が告げてはいる
告げてはいるのだが——
「惚れた弱みじゃな」
いきなり図星を指されて、思わず声のした方を振り返る
疾風の背でぐったりとへたり込んでる神爺
「大丈夫じゃ
アズキもおるし、わしもおる」
そのとたん、ブルルと疾風が鼻をならし、神爺を咥えようとするが
さすがに難しい
だが、神爺はおびえたように縮こまる
「悪かった、お前さんもおる」
俺はどうなのだと思ったが、口に出しては言わない
「旦那様
見てください!
見たこともない植物ばかり
こんなにたくさん!」
千草が祥吾に気がつき、叫ぶ
そのあまりに無防備な姿に、祥吾は初めて見る千草を感じた
しかも、今までで一番近しい千草だった
「ああ、なんて素敵なんでしょう
調べがいがありますわ
そうでしょう
お父様——!」
はっとして口をつぐむ千草
その顔がみるみる青くなり、申し訳そうにゆがむ
「申し訳ありません
旦那様
私、何てことを!」
あまりの千草の態度の急変に唖然としていた祥吾だが
慌ててなだめる
「いや、気にすることはない」
「ですが!」
「昔を思い出したのだろう
それだけのことだ」
「旦那様……」
「それに、何と言うか
千草が、俺に近づいてくれたようで——」
「えっ」
「い、いや、何でもない」
慌てて言葉を飲み込む
千草も何故か、さっきまで青かった頬を
ほんのり赤く染めている
「やれやれ お熱いことじゃな」
あきれた声に、千草の頬が、ますます赤くなる
それを見ている祥吾も顔が熱くなってくる
ニヤニヤして、立ち上がった神爺を見て
言葉を返そうとした祥吾の前で
疾風がいきなり体をブルッと振るわせる
背に乗っていた神爺は、油断していたのか簡単に疾風から転げ落ちる
そして——
落下途中の神爺は、くるりと体勢を変えた疾風の後ろ足に軽く蹴られた
軽く蹴られただけだが、小さな神爺には十分の威力だ
そのまま、祥吾と千草の見ている前で
訳のわからない叫び声を上げて、空高く飛んでいった
唖然としていた二人だが
アズキが慌てて神爺の飛んでいった方へ走り出したのを見て
我に返る
「疾風
神様を足蹴にするなど
罰当たりなことをしてはいけません」
「そうだぞ、いくらエロじじいとはいえ——」
「あなたに何かあったら
旦那様が悲しみます」
「そうだぞ、俺が——
何だって?」
千草に調子を合わせていた祥吾は、
疑わしそうな目で見る疾風から、思わず目をそらした。
