とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

「ありがとうございます旦那様」
うれしそうにお辞儀をした千草は、龍に向かって言った
「さあ、アズキ
 お前も旦那様にお礼を申し上げるのですよ」
「ちょっと待て
 アズキってなんだ?」
「この龍の名前です」
「えっ、いつ決まった?」
「今でございます
 あっ
 旦那様に決めてもらうべきでした
 差し出がましいことをして——」
申し訳なさそうな千草の表情
そこに、そぐわぬ、ほんのわずかな必死さを感じ
祥吾は、慌てていった
「いや、気にしなくてもいい
 千草の命名には、信頼をおいているからな」
嬉しそうな表情にと変わる千草

ほっとする祥吾だが、命名に関しては
(いや、そうか? タマにポチだぞ)
心の中では、全然信頼していない

「なぜ、アズキなのだ?」
「はい、今朝、小豆を洗ってまして」
「はあ?」
「この小さな龍には、ぴったりかと思いまして
 あっ、もとの大きさでしたら
 大豆でも良いのですが、
 大豆は白いので、赤いこの子はやはりアズキかと」

(アズキ! 龍にアズキはないだろう)
 
そう思ったが、本人はすでに受け入れているようだった
千草に言われたとおり、祥吾に対して素直に頭を下げる

「それで、どうする?
 このまま、アズキも連れて探索を続けるか?」

やっと、元の威厳を取り戻したかのように疾風の背に立っている
神爺に問いかける

「その前に、この龍のことで話しておくことがある」
「何か知っているのか?」
「こやつを懲らしめたと言ったろう
 その時に本人から、色々とな」
「話せるのか!?」
「いいや
 だが、通じることはできるのじゃ
 なんせ、神様だからの」
そう言いながら、不意に警戒する神爺

「どうした?」
「いや、ちょうどまた、何かされそうな気がしての」
そう言いながらあたりを油断なく見回す

祥吾も緊張してあたりを見回す
「敵か?」

「いや、さっきのようなめにあわされないように、な」
思わず膝から崩れそうになる祥吾
「こいつの背に乗っておれば、食われないからの」

ため息をつき話をもどす
「で、龍がどうした?」
「うむ、こやつは、もともと、
 今屋敷のあるこの場所に住んでおったそうじゃ」
「ここに?」
うなずく神爺
「たまたま留守にしていて戻ってきたら
 住処がなくなっておって、この屋敷があった」
「なるほど
 それであんなに怒っていたのか」
「そういうわけじゃ
 どうもこいつはこの森の主だったらしい」
「主? こいつが?」
「うむ」

改めてアズキを見る
相変わらず祥吾を見る目は、子犬のそれだ

「森の主ねぇ?」
疑わしそうに言う祥吾

「信じられんようじゃが、
 今までこの屋敷をウロウロしておった獣どもが
 すべて、いなくなっておる」
「獣たち?」
「ああ、うじゃうじゃおったぞ
 だが、今は一匹もおらん」

「では、改めて探索に出るか」
祥吾が言うと、うなずいてから神爺が千草に言った
「今は、結界の外に出ても大丈夫じゃ
 奥方の好きな植物採集もし放題じゃ」

ぱっと顔を輝かせ、すぐさま森へ向かおうとする千草

「ま、まて千草」

その声に、振り向いた千草の顔は、
好きなことを止められた子どもの顔をしていた

「だめで、ございましょうか?」

悲しそうな目で見る千草が、捨てられていた子犬の姿に見えて

「だ、だめではない」

思わず言ってしまった

その答えに、一瞬で表情が笑顔にもどり

「ありがとうございます
 旦那様」

そう言うとぺこりと頭を下げ、走り去る
その後を疾風とアズキが追う
当然、疾風の背の神爺も

「ま、まて」
慌てて駆け出した祥吾は、いつもなら顔面を強打するはずの境界線を、
今度は驚くほどあっさりと通り抜けた。
(出られた……! ついに俺は、自分の足で外の世界へ踏み出したのだ!)

だが、感動に震える間はなかった
千草は、もうはるか先を走っていた
「お、置いていかないでくれー」
叫びながら追いかける祥吾であった