とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

出鼻をくじかれた祥吾だが、気合いを入れ直す
「よしっ、結界の外に出—— ぶっ」
千草の方を向いて、思わず吹き出す祥吾
彼女の手のひらの神爺は、疾風のよだれでベトベト
髪の毛も、ひげも、ベターと張り付いて哀れな状態になっている

「あら、大変」
祥吾の目線で、神爺の様子に気づいた千草は
手ぬぐいで、髪やひげのよだれを拭き取る
「神坊、気分はどうだ?」
「最低じゃ!」

結界の外に出るにあたって、どの場所がいいかを考える
「やはり、この前出た、あの場所がいいか」
「そうですわね
 少しでも様子が分かっている方がよいと思います」
つぶやくように言う祥吾に、すかさず千草が答える
が、答えてからはっとして顔が申し訳なさげにゆがむ

祥吾は不思議そうに千草を見る
「どうした? 何か不都合があるのか
 あるなら、言ってくれ
 俺は、あまりそういうのが苦手でな
 千草が頼りだ」
そう言う祥吾を、まじまじと見つめてから
ほっと小さく息を吐く
「いえ、何もございません」
そう言って浮かべた笑顔は、
祥吾には初めて見る透き通った笑顔だった

「わしも、そこから出るのは賛成じゃ」
やっと、元に戻った神爺が、言った
「神爺、俺たちがどこから出たのか知っているのか」
「当然じゃ」
胸を張る神爺
その様子に何か不審な物を感じる祥吾

だが、他から出る理由もないので、そのまま向かう

屋敷の裏、元の土地で言えば、その北東側が、
川があり、千草が結界を出た場所だ

そこに到着したとき、祥吾と千草の足は止まった
思わず、千草が祥吾の前に出ようとするが
その前に、祥吾が手を伸ばし、それを阻む

二人の前には、龍がいた
朝餉の時に、襲ってきた龍だ?

龍だと思うが、どうも様子がおかしい

まず、大きさが違う
目に前にいる龍は、祥吾と同じくらいの大きさだった

その顔も、あの時の恐ろしさはみじんもない
なぜか、捨てられた子犬のように情けないものになっている

「あのときの龍だよな?」
「そう、思われますが」
二人とも半信半疑である

その時、祥吾は神爺が、したり顔でニヤニヤしているのに気づいた

「神爺、何か知ってるのか?
 こいつは、あの時の龍なのか?」
「そうじゃよ
 間違いなくそやつは、その時の龍じゃ」
得意げに言う神爺
「なぜ、こうなっている?」
納得のいかない祥吾が問い詰める

「そやつは、しつこい奴でのう
 諦めずに、いろんな場所から攻撃し続けておったのじゃ」
「そうなのか?」
「うむ、こやつは、龍というより、
 西洋の悪竜といったほうがふさわしいがな」
「悪竜……」
「こやつは、普通の動物と違ったつくりをしておっての
 半分以上は、神気、いやこちらのものであるから
 神気もどきで出来ておって、
 それらをすべて使い果たしておるのじゃよ」

「それで、こんなにしょんぼりしているのか」
「いや、まあ、あまりに五月蠅かったので
 少し、お仕置きをしたのでな
 わしを、上位のものと思っているのじゃろうて」

「へえ、腐っても神様だな」
「なんじゃと!」

その時、神爺の頭を
再び、疾風がカパッと咥えた

再び、わけのわからない叫び声をあげる神爺

「疾風! さっき言いましたよね!
 それは、食べ物ではありません
 おなかを壊しますから、はきだしなさい!」
先ほどとは違い、厳しく叫ぶ千草
さすがに、疾風もしゅんとして、神爺を吐き出す

唖然として、見ていた祥吾は、龍の様子がおかしいのに気がつく

その目は、先ほどまで神爺を恐れていたのに、
今は、それが、千草になっている

( 龍 < 神爺(屋敷神) < 疾風 < 千草 えっ……俺は?)