とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

こほんとひとつ咳をして、気を取り直そうとする祥吾

「さて、屋敷神様という強い味方も得ることができた」
いまだ、暴露の警戒は解かない

「屋敷の状況は、千草が正確に把握してくれている
 残るは、ここがどこで、なぜ、我々がここにいるかだ
 以前、千草に、今考えても分からないものを考えるより
 ここで生きていくことをまず考えろと言われたが——」

「旦那様、私はそのような大それた事は——」

「わかっている
 だが、俺はあれで目を覚まされた
 千草には礼を言いたいぐらいだ」
「そんな……」
祥吾は、千草にやさしく笑いかける
「この敷地内が結界で安全なことも、
 水や食料など生きていく上での見通しもついた
 そろそろ、大元の原因を調べる頃合いだと思うが、どうだ?」
祥吾が千草に問う
「はい、私もそう思います」
その言葉に頷く祥吾。
振り返り、机の上の屋敷神を見た

「というわけだ、神じい」
「なんじゃ、その神じいというのは?
「あんたの呼び名だよ」
「何故、屋敷神様と呼ばん?」
「色ぼけじ——で十分だと俺は思っているが、そうもいかん
 あんた、俺の先祖にもなるんだから、神爺だ」
「めんどい男だのう」
あきれたように屋敷神様改め神爺が言う

「それで、どうなんだ、こんな状況になった原因は?」
祥吾が期待を込めて聞く
「わからん」
「はあ?」
「いや、だから、わからんと——」
「貴様ぁー!」
思わず屋敷神につかみかかろうとする祥吾
それを身軽に躱す神爺

「短気な奴よのう」
「神様だと思っていたのに『わからん』だと!」

「お待ち下さい、旦那様」
そこに千草が割って入る
「屋敷神様、『わからん』とは、何がでしょう
 『わかる』こともあるのでしょうか?」

「さすが、奥方は鋭いのう
 こやつにも、奥方を見習って、爪の垢でも飲んでもらいたいもんじゃ」
「なんだと!」
「少しは静かにせんか。話が前に進まんではないか」
「貴様が——」
「旦那様、お静かに!」
千草が、まるで、犬に「待て」と言ったかのように
みごとに、祥吾は口を閉じた
あきれるように、祥吾を見る屋敷神

「さて、話を戻そう
 わしが『わからん』と言ったのは、原因についてはわからんと言ったのじゃ」
「同じ事ではないか」
「旦那様」
しゅんとする祥吾

「まず、その前に二人に確認したい
 『八百万の神(やおよろずのかみ) 』
 『付喪神(つくもがみ) 」
 これらは、知っておるかの」
頷く二人

「わしは、こやつの屋敷・土地を守る屋敷神だが
 神は、わしだけではない
 万物に宿っておる
 当然、こやつの実家にもたくさんおった
 
 こやつに分け与えられたこの屋敷・土地は
 新しいため、屋敷などの建物や家財道具には宿っておらんが
 畑など敷地などには宿っておるものもおったのだ」

「なるほど」
千草が納得したように言う
「実家の敷地に足を踏み入れた時、
 多くのまなざしを感じた気がしたのですが、
 神様方だったのですね」
うなずく屋敷神
「気付いておったか」
「はい」
「俺は、今まで感じたことはないぞ」
哀れむような目で祥吾を見ながら屋敷神は続ける

「だが、いまこの屋敷・敷地内におる神は、わしだけじゃ」
「えっ?」
「すべての気配が消えておる」
「どうして?」
「だから、『わからん』と言った」
「なるほど」
千草が頷く
「じゃから、今後どうしていくかが肝要
 その話を進めていこうではないか」
急に口調が早くなる屋敷神

「お待ち下さい!」
千草が、難しい顔で屋敷神を見た
「な、なんじゃな」
うろたえる屋敷神
違和感たっぷりの屋敷神の態度に、祥吾の心の半鐘が鳴り響いた

「他の神様がいなくなったというのは分かりました」
喋りながら、千草は違和感の整理をしているようだった
「しかし、それは、この状況の付け足し情報にすぎません」
ぎくりと身を震わす屋敷神
「旦那様がお尋ねになった、この森に屋敷・土地が移った原因については
 一切触れられておりません」
きっぱりと言い切る千草
まるで、翻案ものの探偵のようだ

「それについては、地震が原因の一端であることは明白だと思うのですが
 いかがでしょうか」
千草には、屋敷神を追い込むつもりはないのだろうが、
学者である父の影響か、口調が学者同士の理論のぶつかり合いのようになっている
「そうじゃよ、地震が原因じゃ、地震が悪い、わしはちょっと——」
屋敷神はそこで、しまったというように口を手でふさいだ

「ちょっと—— 何でしょうか?」
千草は笑顔だ。だが、目が笑っていない
観念した屋敷神が自白する
「いや、地震の揺れがすごくてじゃな、神棚からから転げ落ちるは、
 地面は割れそうになるわで、ちょっとな」
「ちょっと、何をされたのですか?」
声も怖い
「いや、ほら、わし、屋敷や土地を守る神じゃろ。
 地脈からここを切り離して守ろうと思ったら、
 地震の力とぶつかり合って」
「ぶつかり合って?」
周りを示しながら、怯えた笑いを浮かべる屋敷神
「このとおり」
「やはり、お前が元凶かー!」

祥吾ではない。千草の声が響き渡った