とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

再び、千草に強く口をふさがれる祥吾

「申し訳ございません。何分、私も含め、まだ状況が掴めないもので
 一日一日を生きるのに精一杯なのです」

屋敷神は、白髭を撫でながら言う
「謙遜するでない そなたはあの状況から、すぐに立ち直り
 周りを調べ、生きるための伝を探り、家全体の安寧に努めておった
 なかなかに出来ることではない」

「屋敷神様、それ以上は——」
屋敷神は、涙目になっている祥吾を見て、額をペチンと叩いた

「言わずもがなであったな
 ただ、これだけは言わせておくれ、
 そなたは、そんな状況でも、神棚を整え、供え物をし、拝んでくれた
 なかなかに出来ることではない」

「もったいないお言葉です」

恐縮する千草

「本家の者でもそんな者はおらんでな」

「ちょっと待て、今本家と言ったな?」
再び緩まった千草の手を逃れて、言った言葉に
屋敷神が、しまったという顔をする

「おまえは——」
「旦那様、屋敷神様とお呼びしなければ——」
千草が制しようとするが、かまわず祥吾は問うた

「本家の屋敷神ではないのか?」
その問いに、屋敷神は、あきらかにうろたえた

「そ、そのとおりじゃ 案外するどいのう」
「それが、何故、我が家にいる?」
「べ、別に不思議はなかろう ここは元々本家の所有地
 今回の結婚で、そなたに分け与えられただけじゃからな」

先ほどの泰然とした態度とは違って、せかせか喋る様子に
祥吾の不信が募る

「それは、俺でも分かる
 問題はだな、この状況でなぜ、おまえがここにいるかだ」

千草がぽんと手を打つ
「なるほど、本来、本家におられるはずの屋敷神様ですから、
 あの地震の時は、本家をお守りになっていたはずですわね」
「そうだ、油断するな千草
 こやつは、屋敷神様ではなく、妖かもしれぬ」

「いえ、それはありえません」
きっぱり言い切る千草
「何故、そう言える?」
問う祥吾に、言いにくそうに千草が答えた
「以前にですね、配置図の印の場所に、
 屋敷神様がおられたの見たことがあるのです」

その言葉に、屋敷神がビクッと震える

「そ、それはいつの事じゃ?」
「はい、地震の次の日でございます」
申し訳なさそうな顔で言う千草の顔を、見ながらよろけ杖につかまる屋敷神

「み、みたのか?」
「……はい」
小さく肯く千草

「……そうか」
うなだれる屋敷神
二人だけが分かる会話に、祥吾が面白くなさそうに千草に聞く

「どういうことだ?」
「私の口からは、ちょっと……」
口を濁す千草は、急に話を変える

「あの…… 配置図のほこらの図ですが」
「ああ、あの下手な絵」
「……はい、あれは、私が付け加えたものなのです」
「えっ?」
「屋敷神様のいた場所を記録しておくのと、
 祠を建てて差し上げることを忘れないように記録しておこうと思いまして」

(さっき俺は、へたくそと言ってなかったか?)
体中の血の気がサーッと引き、冷や汗が出る

「そ、そうなのか
 なかなか味のある絵だったな」
苦しい言い訳に、千草は首を振った

「いえ、父にもよく言われておりました。記録は研究の命だと
 私は、それが致命的に苦手でして」

初めて千草の弱みを聞いた祥吾は、おおらかな気持ちでかばう
「いや、誰しも、一つや二つの欠点があってしかるべきだ
 そうは思わないか?」
千草が祥吾を見て微笑む
「ありがとうございます
 屋敷神様、やはり旦那様は、優しく立派な方です」
「そ、そうじゃな」

話がそれて、微妙な空気になる三人
はっと、祥吾が我に返る

「本物であることは、わかった。だが、なぜ本家の屋敷神が、我が敷地にいたのだ」
答えに詰まる屋敷神
が、やがて、諦めたように首を振って答えた

「いや、いかに、敷地の一部とは言え、主を得、その伴侶も得た敷地は、
 新たな神気を持つようなる
 それは、なかなかお目にかかる事の出来ないことでのう」

祥吾の顔が引き攣っていく

「それも、婚礼の夜と決まっておるからの、少し本宅を留守にして
 こちらの神棚に移ってきていたのじゃ」

「いやーあ、まさか、その前に、あの様な天変地異が起きるなど、
 神ならぬ身……いや、神であるわしにも、分からなんだわい」

「そうか、あの地震が起きなかったら、貴様は——」

祥吾の顔が怒りで真っ赤になる。
千草は何が、そんなに祥吾を起こらせているのか分かっていない

「旦那様、何をそんなにお怒りに——」

「この色ボケじじい!」