とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記 〜動植物学者の父に鍛えられたマイペース妻の知識がチートすぎて、未知の魔境を無双でまったり開拓していきます〜

ようやく復活した祥吾は、配置図を見ながら千草に確認していく

この屋敷と敷地は、実家の敷地の一部を、
祥吾のために新たに整備して与えられたものだ。

敷地の一部と言っても、それ自体が広大なもので
祥吾の敷地も、小さな村に匹敵する広さだった。

ただ、二人が住む母屋や離れ、蔵や厩舎・家畜舎などは
門の近くに集まっており、
その奧に畑と未整備の土地が続いているという配置となっている。
本来は、人を雇い、土地を耕作させ小作人として
住まわせるための土地だ。

「私が、見回ったのは、それぞれの建物と裏の薬草畑、野菜畑だけです
 奧の未整備の土地へは行っておりません」
「それでいい、いや、それだけでも、千草一人が行うのは危険すぎるのだが——」

それ以上は、特大のブーメランとして祥吾を襲うので言うのをやめた。

「それで、どこにも異常はなかったというのだな」
「はい、地震は大きな揺れだったように思いますが
 どの建物にも損傷なく建っておりました」

「侵入したものの気配もなかった……か」
「はい、異常といえるのは、井戸と池が涸れていたのと
 畑など地面に生える植物の特別変異
 家畜たちの少々の異常だけでした」
「いや、家畜たちも十分特別変異だと思うが」
「そんなことはありませんわ
 みな、聞き分けの良い子たちですわ」
「聞き分けが良い?」
祥吾が疑わしそうに言った

「ま、まあそれはいい」
気を取り直して、そう言うと、
祥吾は、千草の目をしっかり見て確認する

「それ以上は、本当に異常はないのだな」
意味ありげな祥吾の質問に、千草の目が一瞬泳いだ

「建物には——」
「そうだな、建物にはない」
そう言うと、祥吾は、配置図を見たときから、
一番最初に聞きたかったが、聞いてはいけないような気がして
後回しにしてきた部分を指さした

「これは何だ?」
「そ、それは——」

千草が言いよどむ
祥吾が指差したのは、配置図の離れと塀の間に書かれた
落書きのような四角い図と文字
文字はかろうじて『ほこら』と読める。

「ほこら?」
祥吾が意味が分からずそのまま読む。
「祠かと」
と、千草。
「えっ」
「神神を祀る殿舎のことかと」
それでやっと祥吾は理解した。

「しかし、祠など実家でも見たことがないぞ」
「はい、私も結婚式の折、こちらの神棚にはご挨拶いたしましたが
 祠には案内されませんでしたし」

「それに、これは明らかに後から書き足したものだ
 それも、へたくそな絵と字でだ」

「へたくそか、容赦ないのう」

いきなり、どこからか声がした。
姿が見当たらず、あたりを見回していると

「ここじゃ、ここじゃ」

と声と共に、配置図のへたくそな祠の絵から、
小さな人がにゅっと現れた

「な、なんだ、魔物か、妖か!」
思わず腰に手をやるが、軍刀を差していないことに気がついた

「失礼な奴だの できの悪い末裔じゃ」
「誰が末裔だ!」
「お主じゃよ この家の主であろう?」

そう言った人物は、白髪に長い髭を蓄えた、威厳のある老人の姿をしている
手には杖を持ち、枯れ草色のゆったりとした狩衣(かりぎぬ)を身につけている

「屋敷神様!」
千草が、そう叫び、いきなり平伏した

「屋敷神様?」
あっけにとられた祥吾がつぶやくと、老人がジト目を向けてきた

「こやつは、まだ、分かっとらんようじゃな」

がばっと身を起こした千草は、祥吾の前に立ち深々と頭を下げる

「申し訳ありません。屋敷神様には、ご不快ではありましょうが
 平に平にお許しを」
「お、おい、千草 何もそこまでしなくても」
あまりの千草の態度に、そう言うと、千草はいきなり祥吾の口を手でふさぐ
「お黙りください、旦那様。この方は、この屋敷と敷地、そして旦那様の一族を
 代々にわたって守り続けておられる神様です」
「神様!?」
千草の言葉に思わず大声を上げる祥吾。だが、その声はしっかりふさいだ千草の手で
意味のない音にしかならない
その塞がれた手から感じる、ほのかな暖かさと薫りが、祥吾の思考を鈍くする。

「まだ、信じられんようだの
 まったく、奥方の方がよほど優秀じゃのう」

抗議しようとするが、口が塞がれて出来ない

しかし、千草が代わりに異を唱える
「お言葉ですが、屋敷神様
 旦那様は、決して凡庸なお方ではありません
 すこし、おおらかというか状況を把握するのに時間がかかるだけで
 勇敢でお優しい、立派な方です」

何故だろう、褒められているようなのに、
祥吾は精神がガリガリ削られるのを感じる

「だが、あまりありがたく感じてないようだの
 結界を張って守ってやったというのに」

はっとする二人
「あなた様が結界を?」

おどろく千草が思わず手を緩めた瞬間、祥吾が叫んだ

「おまえが元凶かー!」