03
口でならなんとでもいえる。でもどこかで必ず怯むだろうと。そこまでであれば自分もまだ止まれると。柚真人は柚真人で考えたのだ。
司は、そのままついてきた。
ぺたぺたという足音が、自分の背中を追いかける。その音に耳を傾けつつ、柚真人は自分の額の奥のあたりが熱くなるのを覚えた。
暗い廊下を歩いて、突き当たり、右に折れれば司の部屋。左に折れれば柚真人の部屋だ。それでも司はついてくる。
そのまま、部屋の前まで来てしまい――そうなると柚真人は、自室の襖を開けるほかない。
そうやって促すのは、あるいは狡さだったかもしれない。しかしこれが最後であると示して、逃げられるように、選べるようにしてやらなければという気持ちがあったのだ。
たとえば柚真人が『入れ』と言葉でいえば、司は逆らわないだろう。そんな気がした。司には、柚真人の言葉に従う、という行動をさせたくなかった。
なのに司は、柚真人の思惑など知らぬげに、部屋に入っていき、柚真人がその後ろの位置を取るかたちになった。
「……閉めるぞ」
というのが、本当に本当の最後。
柚真人は、襖を後手に閉めた。たん、という音が響いた。
部屋の電灯は点けないままだ。それでも、柚真人の部屋から庭に向いている障子が月明かりで青白く光って見え、部屋の中はぼんやりと薄い明るさに満たされていた。
「……本当に、いいのか。戻れなくなるぞ」
もう一度だけ、司の後ろ姿に傾ける。
そのとき、司からの返事はなかった。見るに、少しその肩が震えているか、呼吸で上下しているだろうか。
柚真人は部屋の中に少し入ったところで足を止めた司のところまで歩み寄ると、そっと、その項に触れた。司は、ぴく、と反応した。
それから肩へと手をすべらせる。その手で少し促して、部屋の奥にある、自分の和室用の寝台に、司のことを座らせた。柚真人自身は、そんな司の前に膝をついて腰を落とし、向き合うかたちになる。
そこから見上げた司は、きゅっと唇を引き結んで、どこかいまにも泣き出しそうな顔をしていた。その泣き出しそうな表情は、どういう意味を含むのか。
ここから先は、試す、では通らない。柚真人の方も、踏み出す心地は、自ら崖の端から先に足を出していくようだ。
「――嫌なら、拒めよ。俺に、ちゃんと、わかるように」
そこから膝立ちになり、彼女の腕に触れて、辿って、頬に触れ。
すると司はさらにぴくっと身じろいだ。その反応は、是非のいずれか。
探りつつ、まだいくらかは何かを確かめるように、頬を撫でる。その頬は、少し熱を持っていた。
視線を合わせ、意思を覗く。
そのまま、ゆっくりゆっくり、顔を近づけ。呼吸が触れるほどのぎりぎりの距離で、ひとつ溜息。
ここから先は。
本当に。
「――……」
瞳は、閉じない。司も、閉じようとはしなかった。
それから、唇同士が、ふ――と。
触れた。
こわごわと。おそるおそる。
境界線を、越える接吻。
初めて、の。
でも触れあったのは、ごくごく短い時間で、またゆっくりと離れると、自分の口からは思ったよりも熱い吐息が洩れた。
「……」
「……」
見つめ合い、視線は結ばれている。でも互いの間に、言葉がないのは。何と言ったらいいのかもわからないから。
何かを言葉にすると正確さを失う。そんな気がした。少なくとも自分の方は。
続けて、本当に大丈夫だろうか。
そう思って、もう少し距離を取って、暗い中でも司の表情を見ようとした。そうしたら、たぶん、司はムリに笑顔になろうとして失敗したような、そんな顔をしていて。
「……つか、さ」
「…………う、ん」
それを甘い頷きと受け取ってよかったろうか。
だとしたらこれ以上のものを柚真人は知らない。
そのまま、柚真人と司は、もう一度、今度はお互いに引き寄せられるように唇を重ねていった。そしてまた、少し離れて――もう一度。もう一度。
そうやって少しずつ、おそるおそる、手を取りながら禁忌を踏み越えていく。
重ねるだけの口接けは、やがて唇同士をやや開いて啄みあうようなものになり、だんだんと探る深度を深くした。
同時に二人は自然と互いに抱き寄せあっていて、もつれるように寝台の上に倒れていく。
二人ぶんの身体の重さが布団の上によこたわると、とさ、という衣擦れの音がした。
生々しいその密やかな音が、自分の体温と鼓動の速度を上げていく、と柚真人は思う。
何度も何度、何年も、狂おしく夢想したことがこの夜の底で現実になっていく――その感覚に、胸が痛んだ。ぎゅっと、きつく何かで締め付けられるみたいに。
その先は――たぶんお互いが、何かを明確に思考するよりも早く欲した。
仰向けになった司と、そこに覆いかぶさるかたちになる柚真人。
薄く開いた唇同士が、また、誘われるように結ばれる。
その瞬間に、口接けのかたちそのものが変わった。
深く。少し、性急ではあったかもしれないけれど、柚真人からは、食らいつくように。
そのまま奥へと舌をもぐりこませていっても、司は素直に受け入れた。
司は、
「んっ」
と、鼻から小さく息を抜きながら、柚真人の舌を口の中で受け止めて――くれる。
なので、たやすく、お互いの舌と舌が触れ合った。
そのまま互いのざらつく舌がもつれると、つながった口腔の中では唾液が混ざり、その唾液の温かさとぬかるみが、お互いの舌を濡らしながらとろりと絡まる。
瞬間、ぞくぞくう、と甘ったるいものが柚真人の腰を這い上った。その感覚は甘ったるくかつ淫猥で、それに理性が引きちぎられ、自分の思考と衝動が、いっきに、背徳的なところへと踏み込んでいこうとする。
長らく。
それは頭の中でだけ、願っては抑えつけてきたものだった。彼女と唇を重ねたい、奪って舌まで蹂躙したい、と。
それが実際に現実のものとなると。舌をそろりと舐め合うだけで。こんなに、も。
甘く、淫靡な衝動がわきあがる。自分で妄想に囚われながら考えていたよりも、ずっとずっと抑えがたい衝動が。
ああ、くそ。
足り、ない。
こんなんじゃぜんぜん。
もっと。奥まで。この舌を捻じ込んで。妹の震える舌を溶けるほど舐めて、嬲って、口腔内ごとぐちゃぐちゃに犯し倒したい。たまらない。
でも、そんな気持ちをどうにかこらえてなんとかそこで一度自分を押しとどめ、いったん、柚真人の方から、ゆるゆると口接けを解いた。
このときも、なお妹がどんなふうに感じているのか不安は残って、
「司……」
と、呼んでみる。
逸る気持ちを抑えるのにも必死だが、それ以上に司の反応が気がかりだった。
ここまできたらなりふりかまわず想いのままに抱いてしまいたい。そんな衝動はあるけれど、それ以上に、なによりも大切なのは彼女なのだ。こうすることで、彼女にそれが伝えられなければ意味がない。
ただ欲しいから我が物にしたいのではなく。愛しさのあまりに狂おしいほど何もかもが欲しい。どうしたらそう、わかってもらえるか。
ただでさえ、自分はこれまでにも司を少し突き放しすぎた。それを取り返すのは容易でないとわかっている。なにより、自分にとってお前は、だれより、大事なものだと、伝えられないなら意味のない行為になる――。
そのとき、司の指先が伸び、柚真人の顔に触れてきて、
「柚真人、わたし、大丈夫だよ……?」
柚真人は反射的に小さく首を横に振った。
「そうじゃない。……俺は、お前に、耐えさせたいわけじゃないんだ」
「……?」
「大丈夫、じゃ、困るんだよ。……そんなふうに、言わせたくて、こんなふうに、お前を抱きたいわけじゃ、ないのに、俺は」
「……柚真人。わたしの、大丈夫、て、そういう意味じゃないよ」
「?」
「そんな顔、しなくていいのに、ってことだよ」
「……かお?」
「柚真人、さっきからずっと、つらそうなんだもん。……なにか、自分じゃなくて私のために、考えてるでしょ? だから、なにも、心配することないよ、って。……そういう意味。」
「……」
「私、柚真人が思ってくれているよりきっと、柚真人のこと、好きだし……柚真人のこと、信じてもいるよ。……だから、柚真人は、なにも考えなくても、大丈夫なの。ええと、だから……ここからは、柚真人が、私を、信用する、番、なんじゃないかな」
「……」
「私も、やっとわかったの」
「……」
「私、柚真人がお兄ちゃんで良かったって思ってる。でも、お兄ちゃん、とじゃできないこと《《も》》したいの。したいことが、たくさんあるの。それを柚真人に許して欲しいの。これ、も含めて。だから、こう、すればよかったんだなあ、って。……私、柚真人の傍を…………離れたく、ないよ」
「……おまえ――」
「……ごめんね、柚真人。……お兄ちゃんなのに、こんなふうに好きになって、大好きなのに、たくさん困らせてごめんなさい……っ」
「……っ、なにを、いまさら。それは、こっちの」
こっちの、台詞だ。
柚真人は――はあ、と熱をもつ吐息を吐き出しながら、司の、寝間着――単衣の着物の、腰の帯に手をかけた。
ゆっくりほどくと、襟がゆるむ。そこから手を差し入れて、単をはだけさせていく。さすがにその手は少し震えた。
あらわになっていく肌と指先で触れるその感触。自分の心臓でもこんなに高鳴るんだなと思い知る。指先も震えそうになる。襟が司の肩から衣擦れとともに滑り落ちると、絶対の禁忌と長く己に課し続けた、妹の裸身が、目の前に――。
「っ…………ク、」
知らず、歯を食いしばっていた。
ひとたび理性が飛んだら最後もうどうにかなりそうで、柚真人は唇を引き結んだ。
はあ、とまた熱を孕む息を吐き、次に自分の単の帯を解く。己の拘束が物理的に緩むような感覚がまた、柚真人の理性をさらに揺さぶるが、――まだ、だ。
その時、司が、柚真人の単の襟もとに手を伸ばしてきて、柚真人の肌に、触、れ。
柚真人は司のその手をすくうように取った。取って、指先を探るように絡め合いながら、握り込んでいく。そうすることで、言葉より肌のすき間を行き来するように伝わるものが確かに――あった。
つか、さ。
ああ、もう、止まれない。これ以上は耐えられない。自分の中で、残った理性、自制心の何もかもが引きちぎれていく。
こんな衝動、こんな愛欲、感じたことがない。同時にそうも思ったけれど、あとは必死に、真摯に、こちらもすべてを剥き出す他に術はない。
自分が、この世で、ただひとつ。たったひとり。何より愛しい。それがお前だ。ここにあるのが、どれほどの想いか。ということをその身に刻んでもらうために。
終わるはずのなかった夜は。
その日、どろどろに灼けおちて。
溶け出し、かたちをなくしていった。
口でならなんとでもいえる。でもどこかで必ず怯むだろうと。そこまでであれば自分もまだ止まれると。柚真人は柚真人で考えたのだ。
司は、そのままついてきた。
ぺたぺたという足音が、自分の背中を追いかける。その音に耳を傾けつつ、柚真人は自分の額の奥のあたりが熱くなるのを覚えた。
暗い廊下を歩いて、突き当たり、右に折れれば司の部屋。左に折れれば柚真人の部屋だ。それでも司はついてくる。
そのまま、部屋の前まで来てしまい――そうなると柚真人は、自室の襖を開けるほかない。
そうやって促すのは、あるいは狡さだったかもしれない。しかしこれが最後であると示して、逃げられるように、選べるようにしてやらなければという気持ちがあったのだ。
たとえば柚真人が『入れ』と言葉でいえば、司は逆らわないだろう。そんな気がした。司には、柚真人の言葉に従う、という行動をさせたくなかった。
なのに司は、柚真人の思惑など知らぬげに、部屋に入っていき、柚真人がその後ろの位置を取るかたちになった。
「……閉めるぞ」
というのが、本当に本当の最後。
柚真人は、襖を後手に閉めた。たん、という音が響いた。
部屋の電灯は点けないままだ。それでも、柚真人の部屋から庭に向いている障子が月明かりで青白く光って見え、部屋の中はぼんやりと薄い明るさに満たされていた。
「……本当に、いいのか。戻れなくなるぞ」
もう一度だけ、司の後ろ姿に傾ける。
そのとき、司からの返事はなかった。見るに、少しその肩が震えているか、呼吸で上下しているだろうか。
柚真人は部屋の中に少し入ったところで足を止めた司のところまで歩み寄ると、そっと、その項に触れた。司は、ぴく、と反応した。
それから肩へと手をすべらせる。その手で少し促して、部屋の奥にある、自分の和室用の寝台に、司のことを座らせた。柚真人自身は、そんな司の前に膝をついて腰を落とし、向き合うかたちになる。
そこから見上げた司は、きゅっと唇を引き結んで、どこかいまにも泣き出しそうな顔をしていた。その泣き出しそうな表情は、どういう意味を含むのか。
ここから先は、試す、では通らない。柚真人の方も、踏み出す心地は、自ら崖の端から先に足を出していくようだ。
「――嫌なら、拒めよ。俺に、ちゃんと、わかるように」
そこから膝立ちになり、彼女の腕に触れて、辿って、頬に触れ。
すると司はさらにぴくっと身じろいだ。その反応は、是非のいずれか。
探りつつ、まだいくらかは何かを確かめるように、頬を撫でる。その頬は、少し熱を持っていた。
視線を合わせ、意思を覗く。
そのまま、ゆっくりゆっくり、顔を近づけ。呼吸が触れるほどのぎりぎりの距離で、ひとつ溜息。
ここから先は。
本当に。
「――……」
瞳は、閉じない。司も、閉じようとはしなかった。
それから、唇同士が、ふ――と。
触れた。
こわごわと。おそるおそる。
境界線を、越える接吻。
初めて、の。
でも触れあったのは、ごくごく短い時間で、またゆっくりと離れると、自分の口からは思ったよりも熱い吐息が洩れた。
「……」
「……」
見つめ合い、視線は結ばれている。でも互いの間に、言葉がないのは。何と言ったらいいのかもわからないから。
何かを言葉にすると正確さを失う。そんな気がした。少なくとも自分の方は。
続けて、本当に大丈夫だろうか。
そう思って、もう少し距離を取って、暗い中でも司の表情を見ようとした。そうしたら、たぶん、司はムリに笑顔になろうとして失敗したような、そんな顔をしていて。
「……つか、さ」
「…………う、ん」
それを甘い頷きと受け取ってよかったろうか。
だとしたらこれ以上のものを柚真人は知らない。
そのまま、柚真人と司は、もう一度、今度はお互いに引き寄せられるように唇を重ねていった。そしてまた、少し離れて――もう一度。もう一度。
そうやって少しずつ、おそるおそる、手を取りながら禁忌を踏み越えていく。
重ねるだけの口接けは、やがて唇同士をやや開いて啄みあうようなものになり、だんだんと探る深度を深くした。
同時に二人は自然と互いに抱き寄せあっていて、もつれるように寝台の上に倒れていく。
二人ぶんの身体の重さが布団の上によこたわると、とさ、という衣擦れの音がした。
生々しいその密やかな音が、自分の体温と鼓動の速度を上げていく、と柚真人は思う。
何度も何度、何年も、狂おしく夢想したことがこの夜の底で現実になっていく――その感覚に、胸が痛んだ。ぎゅっと、きつく何かで締め付けられるみたいに。
その先は――たぶんお互いが、何かを明確に思考するよりも早く欲した。
仰向けになった司と、そこに覆いかぶさるかたちになる柚真人。
薄く開いた唇同士が、また、誘われるように結ばれる。
その瞬間に、口接けのかたちそのものが変わった。
深く。少し、性急ではあったかもしれないけれど、柚真人からは、食らいつくように。
そのまま奥へと舌をもぐりこませていっても、司は素直に受け入れた。
司は、
「んっ」
と、鼻から小さく息を抜きながら、柚真人の舌を口の中で受け止めて――くれる。
なので、たやすく、お互いの舌と舌が触れ合った。
そのまま互いのざらつく舌がもつれると、つながった口腔の中では唾液が混ざり、その唾液の温かさとぬかるみが、お互いの舌を濡らしながらとろりと絡まる。
瞬間、ぞくぞくう、と甘ったるいものが柚真人の腰を這い上った。その感覚は甘ったるくかつ淫猥で、それに理性が引きちぎられ、自分の思考と衝動が、いっきに、背徳的なところへと踏み込んでいこうとする。
長らく。
それは頭の中でだけ、願っては抑えつけてきたものだった。彼女と唇を重ねたい、奪って舌まで蹂躙したい、と。
それが実際に現実のものとなると。舌をそろりと舐め合うだけで。こんなに、も。
甘く、淫靡な衝動がわきあがる。自分で妄想に囚われながら考えていたよりも、ずっとずっと抑えがたい衝動が。
ああ、くそ。
足り、ない。
こんなんじゃぜんぜん。
もっと。奥まで。この舌を捻じ込んで。妹の震える舌を溶けるほど舐めて、嬲って、口腔内ごとぐちゃぐちゃに犯し倒したい。たまらない。
でも、そんな気持ちをどうにかこらえてなんとかそこで一度自分を押しとどめ、いったん、柚真人の方から、ゆるゆると口接けを解いた。
このときも、なお妹がどんなふうに感じているのか不安は残って、
「司……」
と、呼んでみる。
逸る気持ちを抑えるのにも必死だが、それ以上に司の反応が気がかりだった。
ここまできたらなりふりかまわず想いのままに抱いてしまいたい。そんな衝動はあるけれど、それ以上に、なによりも大切なのは彼女なのだ。こうすることで、彼女にそれが伝えられなければ意味がない。
ただ欲しいから我が物にしたいのではなく。愛しさのあまりに狂おしいほど何もかもが欲しい。どうしたらそう、わかってもらえるか。
ただでさえ、自分はこれまでにも司を少し突き放しすぎた。それを取り返すのは容易でないとわかっている。なにより、自分にとってお前は、だれより、大事なものだと、伝えられないなら意味のない行為になる――。
そのとき、司の指先が伸び、柚真人の顔に触れてきて、
「柚真人、わたし、大丈夫だよ……?」
柚真人は反射的に小さく首を横に振った。
「そうじゃない。……俺は、お前に、耐えさせたいわけじゃないんだ」
「……?」
「大丈夫、じゃ、困るんだよ。……そんなふうに、言わせたくて、こんなふうに、お前を抱きたいわけじゃ、ないのに、俺は」
「……柚真人。わたしの、大丈夫、て、そういう意味じゃないよ」
「?」
「そんな顔、しなくていいのに、ってことだよ」
「……かお?」
「柚真人、さっきからずっと、つらそうなんだもん。……なにか、自分じゃなくて私のために、考えてるでしょ? だから、なにも、心配することないよ、って。……そういう意味。」
「……」
「私、柚真人が思ってくれているよりきっと、柚真人のこと、好きだし……柚真人のこと、信じてもいるよ。……だから、柚真人は、なにも考えなくても、大丈夫なの。ええと、だから……ここからは、柚真人が、私を、信用する、番、なんじゃないかな」
「……」
「私も、やっとわかったの」
「……」
「私、柚真人がお兄ちゃんで良かったって思ってる。でも、お兄ちゃん、とじゃできないこと《《も》》したいの。したいことが、たくさんあるの。それを柚真人に許して欲しいの。これ、も含めて。だから、こう、すればよかったんだなあ、って。……私、柚真人の傍を…………離れたく、ないよ」
「……おまえ――」
「……ごめんね、柚真人。……お兄ちゃんなのに、こんなふうに好きになって、大好きなのに、たくさん困らせてごめんなさい……っ」
「……っ、なにを、いまさら。それは、こっちの」
こっちの、台詞だ。
柚真人は――はあ、と熱をもつ吐息を吐き出しながら、司の、寝間着――単衣の着物の、腰の帯に手をかけた。
ゆっくりほどくと、襟がゆるむ。そこから手を差し入れて、単をはだけさせていく。さすがにその手は少し震えた。
あらわになっていく肌と指先で触れるその感触。自分の心臓でもこんなに高鳴るんだなと思い知る。指先も震えそうになる。襟が司の肩から衣擦れとともに滑り落ちると、絶対の禁忌と長く己に課し続けた、妹の裸身が、目の前に――。
「っ…………ク、」
知らず、歯を食いしばっていた。
ひとたび理性が飛んだら最後もうどうにかなりそうで、柚真人は唇を引き結んだ。
はあ、とまた熱を孕む息を吐き、次に自分の単の帯を解く。己の拘束が物理的に緩むような感覚がまた、柚真人の理性をさらに揺さぶるが、――まだ、だ。
その時、司が、柚真人の単の襟もとに手を伸ばしてきて、柚真人の肌に、触、れ。
柚真人は司のその手をすくうように取った。取って、指先を探るように絡め合いながら、握り込んでいく。そうすることで、言葉より肌のすき間を行き来するように伝わるものが確かに――あった。
つか、さ。
ああ、もう、止まれない。これ以上は耐えられない。自分の中で、残った理性、自制心の何もかもが引きちぎれていく。
こんな衝動、こんな愛欲、感じたことがない。同時にそうも思ったけれど、あとは必死に、真摯に、こちらもすべてを剥き出す他に術はない。
自分が、この世で、ただひとつ。たったひとり。何より愛しい。それがお前だ。ここにあるのが、どれほどの想いか。ということをその身に刻んでもらうために。
終わるはずのなかった夜は。
その日、どろどろに灼けおちて。
溶け出し、かたちをなくしていった。

