勾玉遊戯:緋の杜の鬼と巫女の物語

01

 
 それからふた月ほどが過ぎた。
 司が食べた実の件については、柚真人が報告を上げたらしく、あれから一度、司のもとへ見覚えのある綺麗な女の人がやってきた。
 審問だかなんだかの日に、司が呼ばれた場所で逢った女性だ。
「あらあらまあまあ」
 その人は、司をひと目みて、感心したような声をあげた。
 その感心が、どのような方向性のどのような意味意を含んでいたのかは、司にはよくわららない。
 ただ、柚真人に聞いたところによると、その人は、現在を軸として平行に存在する事象のすべてを見通すことのできる、千里眼という異能の主であるらしかった。
 なので、司が食べたものは本物か、司がどういう状態にあるか、ということも、彼女の異能を通すと明らかに判定ができるということだったようだ。
 それから、彼女は司と柚真人と少し話をしたあとで、こちらで司をしばらく預かりましょうかと言った。柚真人に対しては、貴方には貴方の務めがあるし、皇の家だけでは草薙の巫に必要な鍛錬を積ませるのは難しいでしょう、とも。
 司は、結局皇の巫女であり草薙の巫女であることを選んだのだった。
 柚真人とともにあろうとするならそれは当然必要なことであったかもしれないが。
 それよりも司としては柚真人とともにあって相応しい人間になりたかった。
 となれば、一から学ばねばならないことや身につけなければならないものがある。それは生半なことではなくもあり、皇の家の及ぶところでは足りなくもあり、身内の殻から出たところで先達者にきちんと師事した方が良くは、あるのだ。
 ちょうど、四月になれば新しい節目の季節となる。
 その時までに、相談してどうするか決めなさい。彼女はそう言って、その時は帰っていった。
 そうして、そろそろ約束の季節になる。

      ☆

 境内にある桜の樹についた蕾の紅色が日に日に濃くなる。
 ごく普通の桜だが、どういうわけか、ここにあるこの桜だけが、不思議な緋色をしている。
 といっても、何年か、何十年か前までは、ただの薄紅色の桜だったという話だ。それがいつの頃からか緋色に染まり出し、今では毎年、紅い花を咲かせるという。 
 これが咲く頃、答えを聞きましょう、というのがあの綺麗な人の言葉だった。
 皇神社にはこの桜の花が咲いた日に行なわれる神事がある。
 その日が近くなっていることを、司は、神社の境内でこの樹を見るたびに思う。
 どうしてこの桜の花は妙に赤いんだろう――と思っていたけれど、その理由もわかった。自らの誓いを受けたこの花を見る柚真人の気持ちはどんのものだろう。
 あの綺麗な女の人は、その神事の日にまたうかがうわ、と言っていた。
 自分の力をちゃんと扱えるようになりたい。この家の人間として、柚真人の隣に立てるように。柚真人と同じ場所に立って、同じものを見て生きたい。それ自体は、司に取ってはもう決めたことだといえる。
 ただ。
 ――そのかわり、私のところで巫女を預かるなら、少なくとも一年の上はここには戻れないと思ってちょうだい。
 そのようにも言われていたことが、司には、少し――ほんの少し、気にかかっていた。