勾玉遊戯:緋の杜の鬼と巫女の物語

01
 
       ☆

 「ここがどこだかしっている?」
 きみを待っていた。
 そう言われたので、もしかしたらと思って訊いてみた。
 すると男の子はこくんと頷いた。
「しっているよ」
「わたしのことも?」
「うん」
 頷きながら、男の子はこちらの手をごく自然に取っていた。そうしてその手を引いて歩き出すので、それについていくことにする。男の子は、こちらの足許が裸足で、そう早く歩けないのも知っているようで、その手のひき方に、ふしぎな優しさと気遣いのようなものを感じた。
 そうやってふたりで歩いていると、
「つかさは、じぶんがどうしてここにいるかわからないの?」
 そんなふうに言われた。
 つかさ、と。
 呼ばれた。
「――それ、私の名前なの?」
 そうだったろうか。自分がどうしてここにいて自分が何者なのか、ずっとぼんやりしている――そう思っていたけれど、呼ばれてもどうもぴんとこなかった。
「そうだよ」
 男の子からは肯定された。
「ぼくは、ずっときみの傍にいたんだよ」
 さっき、この男の子は、ずっとここで待っていた、といった。それなのに、傍にいた、ともいうのだろうか。それって、矛盾していないだろうか、と思った。
 つかさ。ひとまずそれが、自分の名前なんだ、とは思っておくことにする。
 それに、この男の子に、つかさ、と呼ばれたときに、どうしてか自分の存在がふっと確かなものになったような気がして、地に足がついた、安心のような心地を覚えた。この男の子に、そう呼ばれるのは、嫌ではない。
男の子はつかさの手をひいて、さっきまでつかさがいた寝殿造りの御屋敷のような建物まで戻ってきてしまった。そして、結局階から建物の部屋に戻るようにと促されたようだったので、司はとりあえずその通りにした。この男の子が、自分にとって悪いことをするような存在には思えなかったからだ。
 それから、ああ、そういえば、と思い至って、
「きみの、名前は?」
 そう尋ねる。男の子はこちらの名前を呼んでくれたけれど、男の子自身の名前がわからないな、と思ったのだった。
 男の子は、つかさに聞かれると、ちょっと目を瞠ってから、どこかなにかはぐらかすような――子供のなりのわりには、ずいぶんと大人びた表情のように見えた――笑みを浮かべた。
「わからない?」
「? わから、ないわ。――ごめんなさい」
 知っているはずだといわんばかりだったので、つかさは困って、それから謝った。
 すると男の子は、つかさの謝罪に対して、また、あわく笑む。
「いいんだ。それはべつに」
 その笑みにどうしてか、胸が痛いような心地がした。
「――教えてもらえる?」
 つかさは重ねて問いかけた。
 けれど。
 返ってきたのは、
「おもいだしてほしいな」
 という答えだった。