01
ふと、目が覚めた。
そんな感覚だった。
最初に思ったのは、どこだろう、ここ、ということだった。
自分はどうやら、広くて古い作りの和室の中に立っていて、目線の先には窓や障子のようなものはなく、庭らしき空間と、空が広がっていた。
空は不思議な色をしていて、なんと表現すればいいのか――夜明けなのか夕暮れなのかがよくわからない感じだ。空の端の方は、どことなく朱く灼けているようだった。でもそこから反対側へいくにしたがってまだ暗く、紫とも青ともつかない色をしていて、その色合いが、黄昏のようでも、黎明のようでもあった。
その時、時計――と思って、ふと今自分がいる場所を見渡してみるも、その場所に、自分が知っているような時を告げるためのものは無いように思われた。
こういう建物を、なんというのだったか。まるで、歴史の教科書で見るような。
時代で言えば、平安時代のような。確か、寝殿造り、であったか。あるいは、自分が普段からよく見慣れた建物――神社の神殿や拝殿のようでもある。そう考え、はたと思った。神社。見慣れた。そうであったろうか。よく、わからない。
それから、自分が身に着けていた衣服が意識の中に入って、あれ、着物を着ている、と思った。
白い着物。それと、緋色の、長い袴。
いや、こういった建物にいる人物は、確かにこういう恰好をしているだろう。けれど、自分は、こんな格好をしていたろうか。何か、違う気がする。違和感がある。何か。
そう、しばらく考えてみたけれども、やはりよくわからなかった。
自分が何者であるのかも、ここがどこであるのかも、いつであるのかも、どこか、ぼんやりとしている。どうして、自分がここにいるのかも。
少しの、怖さを覚えた。
そうして、まわりに誰か他の人はいないのだろうかということに思い当たり、あたりの様子をうかがってみた。耳を澄ましても、音は無く、しんとしていて、ここには、自分以外の人の気配がない。
ただ、だからといって声を出してみようという気にもならなかった。なぜか、ここにある静寂を、自分の声で破ることも、どこか怖い――ような気がしたのだ。
建物の外の様子が、もう少し詳しく見えないだろうか。
次にそう思って、長い緋袴を引きずるようにして、部屋の中を歩く。歩いて、部屋の端まで来た。
床板は板張りだった。そして部屋の外側には縁側みたいな長い廊下があった。廊下には橋の欄干のような手すりがついていて、――やっぱり、平安時代みたい。
時代みたい、と感じるということは、自分は少なくとも本来ここにいるべき人間ではないのだろう。そういうことは、なんとなく肌で感じだ。ここは、自分にとってはたぶん異世界だ。
もう一度、そこから空を見上げてみる。
空の色は、変わらない。夜明けか、日暮れか、そのいずれかであれば、やがて空の端にある光の名残のような色は変化し、空は闇に覆われるか、明けて空色になっていくか、となるだろう。なのにずっと、同じ空だ。そのことを奇妙と感じた。
それに、星が無いようだ。
これが空なら、せめて星が見えてもよさそうなもの。星が見えれば、自分がいま見ている方角くらいはわかるはず。それから、季節も。でも、――いくら目を凝らしても、空に瞬く光がない。
――なに?
怖さに、不安がくわわった。
こころもとなさや、うすらさむさのようなものも。
その時、である
なにか、聞こえた。
ような、気がした。
びく、となったけれど、聞こえた音は、遠い。
――空、から?
鳥か、なにかの鳴き声かと思われた。
だが。
ほどなくして、それは違うとわかった。
空を。
何かが。
飛んでいる? いや、泳いで、いるような?
その姿がはっきりとみえるわけではなかった。いやむしろ、透明な、硝子で出来た何かが、ときおり空の端からさしている薄い残光のような光を跳ね返しながらキラキラと光っているようだった。ただ、それを頼りにして、見えているもののかたちがわかる。
わかる、が。
ああ、そうか。
わかった。
これ、は、夢なんだろう。
そうだ。
そうに違いない。
自分は、夢を、見ているのだろう。
だって、こんなもの、現実にはいるはずがない。
あれは。
空を、うねうねと泳いでいるのは。
硝子細工のような、龍――なのだ――。
ふと、目が覚めた。
そんな感覚だった。
最初に思ったのは、どこだろう、ここ、ということだった。
自分はどうやら、広くて古い作りの和室の中に立っていて、目線の先には窓や障子のようなものはなく、庭らしき空間と、空が広がっていた。
空は不思議な色をしていて、なんと表現すればいいのか――夜明けなのか夕暮れなのかがよくわからない感じだ。空の端の方は、どことなく朱く灼けているようだった。でもそこから反対側へいくにしたがってまだ暗く、紫とも青ともつかない色をしていて、その色合いが、黄昏のようでも、黎明のようでもあった。
その時、時計――と思って、ふと今自分がいる場所を見渡してみるも、その場所に、自分が知っているような時を告げるためのものは無いように思われた。
こういう建物を、なんというのだったか。まるで、歴史の教科書で見るような。
時代で言えば、平安時代のような。確か、寝殿造り、であったか。あるいは、自分が普段からよく見慣れた建物――神社の神殿や拝殿のようでもある。そう考え、はたと思った。神社。見慣れた。そうであったろうか。よく、わからない。
それから、自分が身に着けていた衣服が意識の中に入って、あれ、着物を着ている、と思った。
白い着物。それと、緋色の、長い袴。
いや、こういった建物にいる人物は、確かにこういう恰好をしているだろう。けれど、自分は、こんな格好をしていたろうか。何か、違う気がする。違和感がある。何か。
そう、しばらく考えてみたけれども、やはりよくわからなかった。
自分が何者であるのかも、ここがどこであるのかも、いつであるのかも、どこか、ぼんやりとしている。どうして、自分がここにいるのかも。
少しの、怖さを覚えた。
そうして、まわりに誰か他の人はいないのだろうかということに思い当たり、あたりの様子をうかがってみた。耳を澄ましても、音は無く、しんとしていて、ここには、自分以外の人の気配がない。
ただ、だからといって声を出してみようという気にもならなかった。なぜか、ここにある静寂を、自分の声で破ることも、どこか怖い――ような気がしたのだ。
建物の外の様子が、もう少し詳しく見えないだろうか。
次にそう思って、長い緋袴を引きずるようにして、部屋の中を歩く。歩いて、部屋の端まで来た。
床板は板張りだった。そして部屋の外側には縁側みたいな長い廊下があった。廊下には橋の欄干のような手すりがついていて、――やっぱり、平安時代みたい。
時代みたい、と感じるということは、自分は少なくとも本来ここにいるべき人間ではないのだろう。そういうことは、なんとなく肌で感じだ。ここは、自分にとってはたぶん異世界だ。
もう一度、そこから空を見上げてみる。
空の色は、変わらない。夜明けか、日暮れか、そのいずれかであれば、やがて空の端にある光の名残のような色は変化し、空は闇に覆われるか、明けて空色になっていくか、となるだろう。なのにずっと、同じ空だ。そのことを奇妙と感じた。
それに、星が無いようだ。
これが空なら、せめて星が見えてもよさそうなもの。星が見えれば、自分がいま見ている方角くらいはわかるはず。それから、季節も。でも、――いくら目を凝らしても、空に瞬く光がない。
――なに?
怖さに、不安がくわわった。
こころもとなさや、うすらさむさのようなものも。
その時、である
なにか、聞こえた。
ような、気がした。
びく、となったけれど、聞こえた音は、遠い。
――空、から?
鳥か、なにかの鳴き声かと思われた。
だが。
ほどなくして、それは違うとわかった。
空を。
何かが。
飛んでいる? いや、泳いで、いるような?
その姿がはっきりとみえるわけではなかった。いやむしろ、透明な、硝子で出来た何かが、ときおり空の端からさしている薄い残光のような光を跳ね返しながらキラキラと光っているようだった。ただ、それを頼りにして、見えているもののかたちがわかる。
わかる、が。
ああ、そうか。
わかった。
これ、は、夢なんだろう。
そうだ。
そうに違いない。
自分は、夢を、見ているのだろう。
だって、こんなもの、現実にはいるはずがない。
あれは。
空を、うねうねと泳いでいるのは。
硝子細工のような、龍――なのだ――。

