08
☆
こちらににじり寄ってこようとする化け物を押し返す。
現状、柚真人に取れる手段は、柏手ひとつで、柚真人は先ほどからそれ一本の攻防を繰り返していた。
柏手は歴とした祓いの手段で、奏でる音にきちんと気合をこめればそれなりの威力はあるのである。
ただ、とはいえ閉ざされた異界の中でその主を撃退するとまではいかない。
このまま防戦一方ではらちが明かない。とは、柚真人自身も苦々しく試案していた。
もし、ここが本当にいつもの神社の境内なら、まず皇の池の水がある。この水が使えれば、たいがいのものは退けられるし、このクモの怪にもダメージは与えられるはずだった。しかし、ここは見てくれは神社の内のようでも、その光景を写し取られた空間に過ぎない。となると、ここには柚真人自身以外、祓いの手となるものがないのだ。そして当の柚真人自身は、その力を著しく制限されている。
そうでなければ、この程度の虫を、引き裂くことも、焼き払うことも、今の柚真人には可能だ。だが、それは人の、皇の宮司としての行為ではなく。自身が、鬼として目の前の者と対峙すれば、という話になる。そんなことをすれば、柚真人は一発で勾玉の血脈の継承者から危険分子に認定される。
それをわかっているからの、嬲るような襲い掛かり方を、相手もしてきている。
何か。手
はないか、と柚真人は考えている。
それにしても、だ。
維月に『育ててもらった』といったクモ女。それがどういうことを意味するか――ということにも、柚真人は思いを巡らせていた。ここまでのことをするくらいだ。だとするとおそらく、暁圭吾は、蟲毒の成れの果てとなったクモに、維月を喰わせた。つまり維月を苗床にして、クモを育てたのだろう。皇の霊力を持つ女を糧として蟲毒の生き残りを育てれば、そりゃ、この程度の化け物にはなっただろうと推察できる。
そうまでして。
俺をどうにかしたかったのか。
あらためて噛みしめる柚真人の思いは忌々しさと苦々しさに彩られる。
暁圭吾が行方不明になったのは、まだ高校生だった柚真人が、暁の先妻の子にして己の当時の精神的な主治医であった水月を訪ねて、過去にあった出来事のすべてを知った直後だった。当時は、そのことが発覚して、断罪を恐れて逃亡したのだろう、と思われていた暁圭吾だ。
だが、違うな、と今になってうかがい知れる。暁圭吾は、たぶん柚真人を恐れているのだ。自らの手で、柚真人の前世を暴き、封じ、その先の人生を壊すような罠をしかけておきながら。いやだからなのか。暁圭吾は柚真人を恐れた。何より、皇柚真人の本性を、暁圭吾は知っていたのだから。
自ら呪を仕掛けたのだから、柚真人が覚醒すること自体は、暁圭吾も知っていたはず。
ただ、その後、柚真人が鎮護官の監視下のもと、皇の宮司として生き延びる道を得た。それは、暁圭吾にとっては計算外だったのだろう。そして柚真人に報復されると思ったのか。それを恐れ、己が身を守ろうと思ったのか。
そんなところなのだろうなと、柚真人は推測した。
暁圭吾の中には皇の家、皇の一族、勾玉の血脈に対する、さまざまな強いマイナスの感情があった。恨みか、憎しみか、劣等感か、具体的にはわからないが、そういった類のものが降り積もるように。
なにしろ、暁は、能力を自身が継いでない上に後継者も生めなかったということから、半ばは無理やりに皇から後妻を娶らされている。おまけに後に柚真人が知った事実として、暁圭吾は柚真人の実父、あの狂気の男、皇満と、若いころから仲が良かった――たとえば今の柚真人と飛鳥がそうであったように。
二人は共通して、皇の家の生業や仕来りと勾玉の血脈に対する不満を抱えていた。そして、柚真人という、稀代の能力をもって生まれた皇の後継者に対する羨望も。それらが彼らの中で契機になり、行き場のない不満の向かう矛先を、滅茶苦茶にしたい、壊したい、という願望が生まれたのだろうから。
報復の可能性だって考えるだろうし、その恐れも抱くはずだ。
事実、彼らの目論見が少し別の方向へ傾けば、皇の一族は壊滅し、柚真人も処刑処分のようなことになっていた可能性もなくはなかった。
まあ、その後、俺の始末や事の顛末が上手くいかなかったからといって、こんなもので俺をどうにかしようとしてくれるあたり――人生無駄にしてるな、というのが柚真人の感慨であるが。
柚真人としては、今となっては暁圭吾のことなどどうでもよかった。こんなふうに下手なちょっかい出してこなければ、興味すらなかったことだった。
なのに。
維月まで、化け物を生み出すための贄に使ったとなれば、柚真人でなくとも、黙ってはいまい。人としても、まがりなりにも皇の一族の名を継ぐ者としても、許されることではない。
暁としては、柚真人を煽り立てて挑発して、禁を破らせようという算段であるのかもしれない。そうでなければこのままここで柚真人がこのクモ女に取り殺される公算が高いのは、現状、柚真人にも認識できる状況だ。
むろん、やすやすそんな結末を受け入れるつもりはないし、暁の思惑に乗ってやるつもりもないが――。
「わたし、食べるなら美味しく食べたいのよ、お兄ちゃん」
地面に、槌打つようにその脚を突き立てて来ながら、クモ女が焦れている。
美味しく? 冗談じゃねえ、と柚真人は上から降ってくる脚を避ける。
玉砂利が跳ねて、ばらばらとあたりに飛び散った。
クモがまた脚を振り上げるので、柚真人が柏手を、ぱん! と打つと、今度はその脚は音に弾かれたようになり、クモ女が、
「ああん!」
と不満そうな声を上げて一歩下がった。
柏手の凛とした音は、事実、穢れをまとう化生にとっては衝撃波のようなものを与える。
そうしながら、気持ち悪い声を上げるな、気持ち悪い声を、と柚真人が思うのは、あいかわらずその声が司のものとして聞こえるからである。
美味しく食べたい。そういう表現になる、欲を持て余して淫靡さを含んだような声色は、柚真人の神経を逆なでするものでしかなかった。
司の声で、そんな、男に欲情を促すような、舌舐めずりするような声を聞かせられては、反吐が出る。
「お兄ちゃん。いつまであたしを我慢させるの。あたしと、うんと気持ちいいことしよう、ってばぁ。 お兄ちゃんのぜんぶ、あたしにちょうだい」
正直、キレそうだ、という気分もあった。いくら己の妄想や欲望や願望が抜かれている結果とはいえ、よりにもよって司が俺に向かってそんなことを言うかボケ。
けれどそれこそ、キレたら終わりだ。暁圭吾の思うツボでしかない。
ではどうすればこのクモ女の支配下にあるところで、こいつを黙らせぶちのめせるか。
それは柚真人自身、ここまできておよそ初めて体験するといっていい、己の本性との葛藤でもあった。あらゆるものを力でねじ伏せ、従え、逆らうものは完膚なきまでに蹂躙してきた、緋の鬼としての記憶も力も、今は柚真人の中にある。それが、目の前の小煩い化生などさっさと捻りつぶせと自分の中で暴れ騒ぐのだ。しかし己が皇柚真人であるからには、これを制御しなくてはならない。
そして同時に――柚真人はわずかばかり、自分の中にある前世の記憶の別の部分についても遠く想いを馳せるような心地になっていた。かつて、緋のと呼ばれ同族からは畏れられ人からは忌まれた鬼が、草薙と呼ばれた退魔の巫女と恋に落ちた頃のこと。かつての自分は、彼女に恋をし、彼女に慕しさを覚えてから、人にちかく寄ってあろうとした。今の状況は、それに似ているのだ。
緋の鬼は、そもそもはそうなる前に、何度も彼女と戦った。そうして彼女に惹かれていった。やがて絶対に相容れぬ存在であったはずの退魔の巫女を、心の底から大事にしたいと思った時、驚いたことに、それ以外の――人を餌として弄び暴虐の限りを尽くし玩具のように犯しては喰い散らかしていた鬼としての――欲求を抑えることができた。彼女に対して、おそらく自分でも初めて覚えた、彼女を愛おしく想うとしか表現できない気持ちの一心で。
彼女は、とても強く清らかな巫女だった。自分ですらなんどもその力に阻まれ、圧倒され、やがてはその力を惜しむようになり、その力に灼かれるように惹かれていった。――彼女は剣の巫女でもあった。その彼女であれば、この程度の虫の化生など、いつも携えていた退魔の剣で、一撃、いっそ美しくすべてを浄化することだろう。
くそ、と柚真人は歯噛みした。この前世の記憶は、厄介なことに、現状、むしろ余計な知識という側面も柚真人にもたらしている。それが自分の中で暴れるせいで、どうにもこうにもこいつを引き裂いてしまえ、というような思考に意識が傾く。もちろん抑えつけてはいるが、その労力が、柚真人の宮司としての思考力を削ぐ。
俺、を、煽る方法としては最適な方法を選んだんだな、暁の野郎。
とも、柚真人はこの時になって、納得した。
幼い自分と向き合ったあの頃から、暁は頭だけは回る男だったのだろう。そうして自らの頭の良さを知っているから、こうして面倒な策を弄したがる。
せめて。
今現在、暁圭吾の居場所がわかればな。
柚真人は思った。まあまあ詮無きこととも認識しつつではあったが。
つまるところ、暁圭吾が今回の事の次第の首謀者で、この化生をここへ送り込んだ術者でもある。であれば、術者を叩くのが手っ取り早い。叩けるなら、現実の現世のどこかにいるはずの暁圭吾を叩きたい。
なんとか、神社にいるはずの飛鳥か、――緋月にはこの件を今このまま伝えるわけにはいかなかろう――優麻に、連絡が取れれば。
という話なのだが、その手段がない。
☆
こちらににじり寄ってこようとする化け物を押し返す。
現状、柚真人に取れる手段は、柏手ひとつで、柚真人は先ほどからそれ一本の攻防を繰り返していた。
柏手は歴とした祓いの手段で、奏でる音にきちんと気合をこめればそれなりの威力はあるのである。
ただ、とはいえ閉ざされた異界の中でその主を撃退するとまではいかない。
このまま防戦一方ではらちが明かない。とは、柚真人自身も苦々しく試案していた。
もし、ここが本当にいつもの神社の境内なら、まず皇の池の水がある。この水が使えれば、たいがいのものは退けられるし、このクモの怪にもダメージは与えられるはずだった。しかし、ここは見てくれは神社の内のようでも、その光景を写し取られた空間に過ぎない。となると、ここには柚真人自身以外、祓いの手となるものがないのだ。そして当の柚真人自身は、その力を著しく制限されている。
そうでなければ、この程度の虫を、引き裂くことも、焼き払うことも、今の柚真人には可能だ。だが、それは人の、皇の宮司としての行為ではなく。自身が、鬼として目の前の者と対峙すれば、という話になる。そんなことをすれば、柚真人は一発で勾玉の血脈の継承者から危険分子に認定される。
それをわかっているからの、嬲るような襲い掛かり方を、相手もしてきている。
何か。手
はないか、と柚真人は考えている。
それにしても、だ。
維月に『育ててもらった』といったクモ女。それがどういうことを意味するか――ということにも、柚真人は思いを巡らせていた。ここまでのことをするくらいだ。だとするとおそらく、暁圭吾は、蟲毒の成れの果てとなったクモに、維月を喰わせた。つまり維月を苗床にして、クモを育てたのだろう。皇の霊力を持つ女を糧として蟲毒の生き残りを育てれば、そりゃ、この程度の化け物にはなっただろうと推察できる。
そうまでして。
俺をどうにかしたかったのか。
あらためて噛みしめる柚真人の思いは忌々しさと苦々しさに彩られる。
暁圭吾が行方不明になったのは、まだ高校生だった柚真人が、暁の先妻の子にして己の当時の精神的な主治医であった水月を訪ねて、過去にあった出来事のすべてを知った直後だった。当時は、そのことが発覚して、断罪を恐れて逃亡したのだろう、と思われていた暁圭吾だ。
だが、違うな、と今になってうかがい知れる。暁圭吾は、たぶん柚真人を恐れているのだ。自らの手で、柚真人の前世を暴き、封じ、その先の人生を壊すような罠をしかけておきながら。いやだからなのか。暁圭吾は柚真人を恐れた。何より、皇柚真人の本性を、暁圭吾は知っていたのだから。
自ら呪を仕掛けたのだから、柚真人が覚醒すること自体は、暁圭吾も知っていたはず。
ただ、その後、柚真人が鎮護官の監視下のもと、皇の宮司として生き延びる道を得た。それは、暁圭吾にとっては計算外だったのだろう。そして柚真人に報復されると思ったのか。それを恐れ、己が身を守ろうと思ったのか。
そんなところなのだろうなと、柚真人は推測した。
暁圭吾の中には皇の家、皇の一族、勾玉の血脈に対する、さまざまな強いマイナスの感情があった。恨みか、憎しみか、劣等感か、具体的にはわからないが、そういった類のものが降り積もるように。
なにしろ、暁は、能力を自身が継いでない上に後継者も生めなかったということから、半ばは無理やりに皇から後妻を娶らされている。おまけに後に柚真人が知った事実として、暁圭吾は柚真人の実父、あの狂気の男、皇満と、若いころから仲が良かった――たとえば今の柚真人と飛鳥がそうであったように。
二人は共通して、皇の家の生業や仕来りと勾玉の血脈に対する不満を抱えていた。そして、柚真人という、稀代の能力をもって生まれた皇の後継者に対する羨望も。それらが彼らの中で契機になり、行き場のない不満の向かう矛先を、滅茶苦茶にしたい、壊したい、という願望が生まれたのだろうから。
報復の可能性だって考えるだろうし、その恐れも抱くはずだ。
事実、彼らの目論見が少し別の方向へ傾けば、皇の一族は壊滅し、柚真人も処刑処分のようなことになっていた可能性もなくはなかった。
まあ、その後、俺の始末や事の顛末が上手くいかなかったからといって、こんなもので俺をどうにかしようとしてくれるあたり――人生無駄にしてるな、というのが柚真人の感慨であるが。
柚真人としては、今となっては暁圭吾のことなどどうでもよかった。こんなふうに下手なちょっかい出してこなければ、興味すらなかったことだった。
なのに。
維月まで、化け物を生み出すための贄に使ったとなれば、柚真人でなくとも、黙ってはいまい。人としても、まがりなりにも皇の一族の名を継ぐ者としても、許されることではない。
暁としては、柚真人を煽り立てて挑発して、禁を破らせようという算段であるのかもしれない。そうでなければこのままここで柚真人がこのクモ女に取り殺される公算が高いのは、現状、柚真人にも認識できる状況だ。
むろん、やすやすそんな結末を受け入れるつもりはないし、暁の思惑に乗ってやるつもりもないが――。
「わたし、食べるなら美味しく食べたいのよ、お兄ちゃん」
地面に、槌打つようにその脚を突き立てて来ながら、クモ女が焦れている。
美味しく? 冗談じゃねえ、と柚真人は上から降ってくる脚を避ける。
玉砂利が跳ねて、ばらばらとあたりに飛び散った。
クモがまた脚を振り上げるので、柚真人が柏手を、ぱん! と打つと、今度はその脚は音に弾かれたようになり、クモ女が、
「ああん!」
と不満そうな声を上げて一歩下がった。
柏手の凛とした音は、事実、穢れをまとう化生にとっては衝撃波のようなものを与える。
そうしながら、気持ち悪い声を上げるな、気持ち悪い声を、と柚真人が思うのは、あいかわらずその声が司のものとして聞こえるからである。
美味しく食べたい。そういう表現になる、欲を持て余して淫靡さを含んだような声色は、柚真人の神経を逆なでするものでしかなかった。
司の声で、そんな、男に欲情を促すような、舌舐めずりするような声を聞かせられては、反吐が出る。
「お兄ちゃん。いつまであたしを我慢させるの。あたしと、うんと気持ちいいことしよう、ってばぁ。 お兄ちゃんのぜんぶ、あたしにちょうだい」
正直、キレそうだ、という気分もあった。いくら己の妄想や欲望や願望が抜かれている結果とはいえ、よりにもよって司が俺に向かってそんなことを言うかボケ。
けれどそれこそ、キレたら終わりだ。暁圭吾の思うツボでしかない。
ではどうすればこのクモ女の支配下にあるところで、こいつを黙らせぶちのめせるか。
それは柚真人自身、ここまできておよそ初めて体験するといっていい、己の本性との葛藤でもあった。あらゆるものを力でねじ伏せ、従え、逆らうものは完膚なきまでに蹂躙してきた、緋の鬼としての記憶も力も、今は柚真人の中にある。それが、目の前の小煩い化生などさっさと捻りつぶせと自分の中で暴れ騒ぐのだ。しかし己が皇柚真人であるからには、これを制御しなくてはならない。
そして同時に――柚真人はわずかばかり、自分の中にある前世の記憶の別の部分についても遠く想いを馳せるような心地になっていた。かつて、緋のと呼ばれ同族からは畏れられ人からは忌まれた鬼が、草薙と呼ばれた退魔の巫女と恋に落ちた頃のこと。かつての自分は、彼女に恋をし、彼女に慕しさを覚えてから、人にちかく寄ってあろうとした。今の状況は、それに似ているのだ。
緋の鬼は、そもそもはそうなる前に、何度も彼女と戦った。そうして彼女に惹かれていった。やがて絶対に相容れぬ存在であったはずの退魔の巫女を、心の底から大事にしたいと思った時、驚いたことに、それ以外の――人を餌として弄び暴虐の限りを尽くし玩具のように犯しては喰い散らかしていた鬼としての――欲求を抑えることができた。彼女に対して、おそらく自分でも初めて覚えた、彼女を愛おしく想うとしか表現できない気持ちの一心で。
彼女は、とても強く清らかな巫女だった。自分ですらなんどもその力に阻まれ、圧倒され、やがてはその力を惜しむようになり、その力に灼かれるように惹かれていった。――彼女は剣の巫女でもあった。その彼女であれば、この程度の虫の化生など、いつも携えていた退魔の剣で、一撃、いっそ美しくすべてを浄化することだろう。
くそ、と柚真人は歯噛みした。この前世の記憶は、厄介なことに、現状、むしろ余計な知識という側面も柚真人にもたらしている。それが自分の中で暴れるせいで、どうにもこうにもこいつを引き裂いてしまえ、というような思考に意識が傾く。もちろん抑えつけてはいるが、その労力が、柚真人の宮司としての思考力を削ぐ。
俺、を、煽る方法としては最適な方法を選んだんだな、暁の野郎。
とも、柚真人はこの時になって、納得した。
幼い自分と向き合ったあの頃から、暁は頭だけは回る男だったのだろう。そうして自らの頭の良さを知っているから、こうして面倒な策を弄したがる。
せめて。
今現在、暁圭吾の居場所がわかればな。
柚真人は思った。まあまあ詮無きこととも認識しつつではあったが。
つまるところ、暁圭吾が今回の事の次第の首謀者で、この化生をここへ送り込んだ術者でもある。であれば、術者を叩くのが手っ取り早い。叩けるなら、現実の現世のどこかにいるはずの暁圭吾を叩きたい。
なんとか、神社にいるはずの飛鳥か、――緋月にはこの件を今このまま伝えるわけにはいかなかろう――優麻に、連絡が取れれば。
という話なのだが、その手段がない。

