勾玉遊戯:緋の杜の鬼と巫女の物語

01
 
 
 冬至祭の翌日だった。
 年末年始はそれでなくとも忙しいので、通常の神社業務以外の依頼事をなるべく入れないようにしてはいる。
 しかし、どうしても、なんとかならないか、との嘆願をされ、とある呪物の引き取りを受け入れることになった。
 多忙きわまるスケジュールの隙間、くだんの呪物なるものを携えてやってきたのは、若い、インドア系だろうなと思われる男性だった。
 これなんですが、と柚真人の目の前に差し出されたのは、掌に乗るくらいの小さな木箱であった。
 みたところ、観光地の土産物などによくあるからくり小箱のようだった。そして柚真人が察した通り、男は言った。
 これは開かないからくり箱で、中に何が入っているのかがわかりません、と。
 いわくとしては、最近亡くなった身内の人間の遺品の中にあったもので、なんとなく目につき、何も知らずにただの細工物だと思ってもらいうけた。だが、次第にこの箱の中から妙な音がしたり声がしたりするようになり、それに悩まされるようになったのだという。
 箱は、その場で振ってみたりしても、べつに音がしたり、中に何かが入っているような気配はしなかった。しかし男性は、ただ置いておくだけなのに、ときおり中から音や声がするのだ、と訴えた。
 その後、他の親戚に聞いても、箱については何も知っている人がいない。亡くなった人本人の、他の持ち物や遺品を調べても、この箱にゆかりのあるものや情報は出て来ない。そんな時、近くにあった神社のことを思い出したのだとか。
 特に亡くなった人に関する、もっとありていにいえばオバケやユウレイに関する困りごとをなんとかしてくれる神主がいると噂される神社がある、と。
 身元の証明や、その小箱の持ち主だったという死亡者の情報まできちんと提示されたので、柚真人は呪物を引き取ることを承諾した。
 男の依頼は、箱の由来や不可思議な現象などについてはどうでもいい、詳しく知りたいわけではない、とにかくこの不気味な箱と縁を切りたい、箱はそちらで処分して欲しい、とのことだった。
 男が箱を置いていった後、柚真人はひとまず、それを神社の保管庫に置いておくことにした。
 こういったいわくのある物を受け入れることはままあるので、神社にはそれを保管するための区画がある。特に今は年の瀬で、月末が迫っていることもあり、保管庫には他にも数点、他所からもちこまれたいわくつきの物がしまってあった。
 それらのものは月に一度、月末の祭禮で、宮司である柚真人が神社の水で清めて焚き上げる。
 ただ、今は師走で、とくに他にもすることが多い。
 なので、箱についてもそれ以上とくに検分することなく、とりあえず、ひとまず、という具合で、置いておくことにした柚真人だった。
 もし。
 その箱が、もっとはっきりと禍々しい気配を有していたら。
 そしてこの忙しい年の瀬間際の持ち込みでなければ。
 柚真人の対処は違っていただろう。
 でも、柚真人が箱を引き受け、少し触って探ってみたところでも、箱からは何も感じ取れなかったし、男が訴えていたような現象も感じることができなかった。
 これは呪物だ、いわくつきなものだ、何かがおかしい、と持ち込んだ人間が訴える場合でも、それが所有者本人の思い込みにすぎないということもある。
 箱は――、息をひそめたように静かだった。