「よかった、思い出してくれたんだね。本当に忘れられてたら僕泣いちゃうところだった」
おどけているのか本気なのか。
どちらともつかないトーンに、私は理由もなくゾクリとして足が後退する。
だが目ざとく気づかれ、逃がさないとでもいわんばかりに長い腕で抱きしめられてしまう。
「どこいくの。やっと会えたのに。また離れるなんて許さないよ」
言っている意味がわからなかった。
羽生先輩の胸に鼻がうずまって、嗅ぎ慣れた石けんのにおいだけが頭を支配する。
「先輩、ここはどこですか……」
「なあに?どこだっていいじゃないか」
「よくありません。状況把握ができないんです」
空のオレンジを見上げるまで、私は何をしていた?
こんな場所知らない。
羽生先輩はなぜ私を探していたの。
しばらくの沈黙が流れる。
お互いどう切り出したらいいのか探り合っていた。
