鼻腔をくすぐる出汁の匂い。
ここはあの世。
天国か地獄かなんてわからないけど。羽生先輩がいるのだから、きっと地獄ではないはず。
食べるのが正解なのだろうか。わからない。
ふいに脇腹が痛んでおさえると、肌には血の伝う感覚。
また出血して地面にでも垂れたに違いない。そんなこと今はどうでもいい。死んでいるのだから。
静かに箸を持った。
その際ふと、隣の男を見やる。
美味しそうに幸せそうに蕎麦を口に含む姿。
あの世に理屈など通用しないんだ。
どうせ
どうせ。
羽生先輩の横顔を見ていたら、なんだか目の前の事象がどうでもよくなってきた。
「いただきます……」
丼を持って、出汁を啜る。
舌に染み入る温かさ。
誰を咎めることもない、優しい味がした。

