驚いた。
暖簾の中には麺と汁を煮込むだけの機械があるだけで、誰一人として人がいない。

漂うものは湯気だけ。
それなのに、テーブルの上にはすでに二人分のかけ蕎麦が置かれていた。
空の色に隠れてしまいそうな行灯がとろとろと揺れている。


「……」

「永遠ちゃん食べないの?冷めちゃうよ」


羽生先輩は手を合わせてさっさと食べ始めてしまった。
そんな彼を見ながら、得も言えぬ恐怖が込み上げてくる。


「あの……これ」

「うん?」

「誰もいないのに……いったいどうして」


出来たてのかけ蕎麦を指さす。
どこにもいない店主。置かれた蕎麦。
いくらあの世だからって意味不明すぎる…


「さぁ、分からない。永遠ちゃんがお腹空いたって言ったから出てきてくれたんじゃないかな?」

「なに言ってるんですか」

「まぁまぁ細かいことは気にしないで食べなよ。せっかくのお蕎麦だよ」


さすがに焦れったく思ったのか、羽生先輩は私の手をつかんでほぼ強制的に椅子へと座らせた。