「蕎麦だって!永遠ちゃんお腹空いたって言ってたでしょ。食べていこうよ」

「いや……お金ありませんし」

「大丈夫だよ。ほら、値段なんて書いてないし」

「そういう問題じゃないでしょう」


倫理観というか、そういうのものは無いのだろうか。
蕎麦を作るにもお金がかかる。
それを思うと無銭飲食なんてできない。

羽生先輩の存在まるごとに違和感をおぼえた。
果たしてこの人はこんなに軽い人だったろうか?


「永遠ちゃん、ここはあの世だよ」


もやもやとする思考に、羽生先輩の声が落ちる。


「もうなにも考えなくていいんだ」


それだけ言うと、先輩はひと足先に暖簾をくぐっていってしまった。


「あ、ちょっと」


私が止めようとしても届かず、「かけ蕎麦二丁ください」とずいぶん身勝手な声だけが聞こえてくる。
またそうやって…


「永遠ちゃん、早くこっちおいでよ」


楽しげに私を誘う羽生先輩。
注文をしたからには品が出されてしまう。出されたからには食べなければならない。

………もういいや、お金はあとから何とかしよう。

ヤケクソとはこういうことをいうのだろう。ひとつ大きくため息をついて、暖簾をくぐった。