けれど宵は違った。
「使える力だと思うよ」
さらりと言われた一言が、胸の奥へ静かに沈んでいく。長いあいだ閉ざされていた場所へ、温かな雫が落ちるように。
「むしろ厄介なのは見えない人間の方だ」
宵は肩を竦めた。
「目の前で誰かが傷ついていても気づかない。気づいても見なかったことにする。そういう人間ならいくらでもいる」
そこでふっと笑う。
「その点、君は向いてる」
向いている。使える。価値がある。それらはどれも、透子がこれまで向けられたことのない言葉だった。
喉の奥が熱くなる。泣きたいわけではないのに、目の奥がじわりと滲んだ。
そんな透子を見て、宵はそっと目を細める。
「花嫁さん」
「……はい」
「君の実家は、人を見る目がないね」
あまりにも自然な口調だった。
失礼な言葉のはずなのに、透子は反論できなかった。
「君みたいな人間を無価値だと思っていたなら、相当だよ」
宵は呆れたように笑う。
「少なくとも僕なら見逃さない」
その言葉に、透子は息を止めた。
見逃さない――たったそれだけの言葉だった。
それなのに胸の奥で、何かが静かにほどけていく。
名前を呼ばれたわけではない。愛されたわけでもない。けれど、誰にも見つけてもらえなかったものを見つけてもらえた気がした。
ずっと否定され続けてきたものへ、初めて価値があると言われた気がした。
それだけのことなのに、どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。
「泣く?」
不意に落ちてきた声に、透子は慌てて瞬きをした。
「泣きません」
「そう?」
「泣きません」
念を押すように言うと、宵は可笑しそうに笑った。
「残念だな」
「どうしてですか」
「少し興味があった」
「何にですか」
「君の泣き顔」
透子は呆れて言葉を失った。
「悪趣味です」
「よく言われる」
悪びれた様子もなく返され、透子はますます呆れる。けれど宵の笑みはどこか穏やかだった。
いつものように人を遠ざけるための笑みではなく、ほんの少しだけ温度を帯びた笑みだった。
透子はそっと胸元へ手を当てる。
好きになってはいけない。その言葉は今も胸の奥にある。
けれど、こんなふうに見つけられてしまったら困ると思った。
自分でも価値がないと思っていたものを拾い上げられ、そのままでいいのだと告げられてしまったら。
これ以上どうやって気持ちに蓋をすればいいのか、もう分からなくなってしまう。
「使える力だと思うよ」
さらりと言われた一言が、胸の奥へ静かに沈んでいく。長いあいだ閉ざされていた場所へ、温かな雫が落ちるように。
「むしろ厄介なのは見えない人間の方だ」
宵は肩を竦めた。
「目の前で誰かが傷ついていても気づかない。気づいても見なかったことにする。そういう人間ならいくらでもいる」
そこでふっと笑う。
「その点、君は向いてる」
向いている。使える。価値がある。それらはどれも、透子がこれまで向けられたことのない言葉だった。
喉の奥が熱くなる。泣きたいわけではないのに、目の奥がじわりと滲んだ。
そんな透子を見て、宵はそっと目を細める。
「花嫁さん」
「……はい」
「君の実家は、人を見る目がないね」
あまりにも自然な口調だった。
失礼な言葉のはずなのに、透子は反論できなかった。
「君みたいな人間を無価値だと思っていたなら、相当だよ」
宵は呆れたように笑う。
「少なくとも僕なら見逃さない」
その言葉に、透子は息を止めた。
見逃さない――たったそれだけの言葉だった。
それなのに胸の奥で、何かが静かにほどけていく。
名前を呼ばれたわけではない。愛されたわけでもない。けれど、誰にも見つけてもらえなかったものを見つけてもらえた気がした。
ずっと否定され続けてきたものへ、初めて価値があると言われた気がした。
それだけのことなのに、どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。
「泣く?」
不意に落ちてきた声に、透子は慌てて瞬きをした。
「泣きません」
「そう?」
「泣きません」
念を押すように言うと、宵は可笑しそうに笑った。
「残念だな」
「どうしてですか」
「少し興味があった」
「何にですか」
「君の泣き顔」
透子は呆れて言葉を失った。
「悪趣味です」
「よく言われる」
悪びれた様子もなく返され、透子はますます呆れる。けれど宵の笑みはどこか穏やかだった。
いつものように人を遠ざけるための笑みではなく、ほんの少しだけ温度を帯びた笑みだった。
透子はそっと胸元へ手を当てる。
好きになってはいけない。その言葉は今も胸の奥にある。
けれど、こんなふうに見つけられてしまったら困ると思った。
自分でも価値がないと思っていたものを拾い上げられ、そのままでいいのだと告げられてしまったら。
これ以上どうやって気持ちに蓋をすればいいのか、もう分からなくなってしまう。


