「その、航琉くんに、思ってることが……」
「はい」
「……いや、その、……他の人と恋愛したことないからわかんなくて……」
「だめですよ! 他の人と恋愛したら!」
「しない……」
何をどう言ったらいいのか。言うべきじゃない気がする。
「う〜〜〜〜ん……」
「僕に、何かあれば、直します。気がつかなくて、すみま」
「あ、違う、違う、そうじゃなくて。そういうのだったら言うし、俺にも言ってね。今考えてんのはそうじゃなくて……」
謝られそうになった気配を感知して遮ったはいいものの、考えてること言えねぇ……。
「……?」
不安そうに首を傾げられている。不安にさせるのは心苦しい。
「本当、違くて、航琉くんが不安になる必要はなくて……間違ったこと言いそうで……航琉くんが間違ってるんじゃなくて、俺が間違ってて……」
「いいんじゃないですか……? 間違ってても。知りたいです」
「う〜〜〜ん……間違ったまま言葉にすると、それで固定されちゃう気がして……」
感じた気持ちをそのまま捕まえたつもりで実は違っていて、間違えたまま突き進んでしまうのは危うい。七不思議巡りを伝承巡りにシフトチェンジ出来たのは、『悪事を働きたい』と感じ取りかけていたのは実は不正解で、正解は『計画を立てて実行したい』『ちょっと意味の分からないことがしたい』であるとわかったからだ。
嫌がられてみたい、とか殺意を向けられたい、とかは、なんか違っている気がする。ピタッとはまってない。
「では、間違えないものから少しずつ出していきませんか。僕を見て、今どう思いますか?」
俺は顔を上げて航琉くんを見る。
王子様スマイル。俺に見られることを意識するとき、航琉くんはかっこつけているのか練習したらしき笑顔を浮かべる。俺はいつもの顔が好きなんだけど、俺のために意識して向けてくれるのは嬉しい。
それにしても圧倒的、美だ。俺が国なら傾いてる。時代が時代なら彫刻や絵にして崇める人が出てきそう。
「かっこいい、と思う……」
パフォーマンスとか芸術品とか、凄いものを見ると凄いしか思えないように、航琉くんを直視するとしばらくはかっこいいで頭がいっぱいになる。
「ふふ。とても、よいことです」
かっこいいなぁ……。
「燈李さんが好きになってくれたから、この見た目で良かったと思います」
「俺も、航琉くんが好きなら男で良かったなーって思う」
俺を見ていた航琉くんの目が、大きく見開かれた。
「ほん、と、に……?」
「へっ!? うん、本当に」
大きな目は水面みたいに見えた。揺れる瞳は部屋の電気を反射して、その灯りがキラキラと輝いている。
航琉くんの口元は震えていて、微笑もうとして上手くいかないみたいになっていた。
性別に関しては、今更じゃないのか? 俺は航琉くんを女の子だと思ったことはないし、女の子扱いをされていると思ったこともない。
「普段性別とかそんな考えないけど、俺は今の航琉くんが好きだし、航琉くんは今の俺が好きなんだろ? 今の俺で良かったなって思うよ。歳食っても好きだけど!」
「……うれ、しい、嬉しいです……」
今度は航琉くんが目を閉じて少し下を向いてしまった。顔の向きは俺を見ていたときのままだから、真横に居るけど頭は俺に垂れている状態だ。
今撫でるのはちょっと違う気がして、俺はその頭に自分の頭を寄せてみた。体の側面がぴったりくっついて、あったかい。
航琉くんは存在感があって、動物的な側面もあって今を生きている感が強いから見過ごしてしまっていたけど、航琉くんには航琉くんだけが見てきた景色がある。どんな景色で、何を思って生きてきたのか、聞いてみたいな。
「僕も燈李さんの棺桶に入りたいです……」
……。
「なんだって???」
予測のついていなかった発言に、頭の中が数秒フリーズしてしまった。
「……あ〜〜〜〜……待って今理解と理解出来ないが一度に来ちゃってる。理解出来ないってか、よくわかんないから理解出来るくらいまで噛み砕きたいほう。ちょっと待ってくれ、順番に片すから」
「はい。ゆっくりいきましょう」
「おう。棺桶に入るって言った?」
理解のほうは一旦置いておこう。理解したのは俺自身のことだ。今凄く嬉しく感じちゃって、満足度凄くて、ピタッとはまったものがある。俺はやっぱり別に嫌悪感や殺意を向けられたいわけじゃない。
理解出来ないのは、言われた言葉の意味である。
「はい。入りたいです」
「俺の葬式中に棺桶の中に入り込むってこと?」
「はい。骨になって、ひとつになりたい……」
「火葬場の人大迷惑だと思う」
「ですよねぇ……なので!」
航琉くんは顔を上げて、ぴしっと背筋を伸ばして俺と向き合う姿勢をとった。
「僕より長生きするか、僕が棺桶に入り込む力がないくらい足腰の弱くなったお爺さんになるまでは、死んじゃだめですよ」
「はい。長生きします」
頬が緩みながらも航琉くんの姿勢を真似して謹んで敬語で返事をすれば、満足そうに、ふふふと笑顔を返してくれた。
「一緒に燃やされるのは駄目でも、骨になった後で誰かに混ぜてもらえたりは出来ないものでしょうか……」
「骨壷から出すの!? それは、大丈夫なのかな……ガイコツってゾンビとかの仲間な感じで、怖くない?」
「感染症等ですか? 燃やしているので大丈夫だと思います。僕の母方の実家は、お墓に埋葬するとき骨壷から骨を出して直に入れます」
「へー! 大丈夫なんだ」
なら、その埋葬かなり良いかも。
「慣れない人には気味悪がられたり、特殊な考えのように見られたりしますが、衛生面の問題はありませんし、その地域では一般的です」
「俺は割と好きだな、それ。混ざるんじゃなくて重なってくっぽいけど、仲良くみんなでくっついて寝られる感じだ。骨壷でも同じ部屋だからそこまで変わんないとは思うけど、くっついてんの好きだからなー」
「僕は混ざれれば墓地や埋葬はどうでも……」
「快く混ぜてくれる人、いるかなぁ……」
「いますかねぇ……」
航琉くんの希望に近くて一番現実的なのはその骨壷から出して直に埋葬だと思うけど、墓に関しては今考えることじゃないよなぁ……俺らが死ぬ頃の墓地ってどうなってるのかわかんないし……。
「理解が来た、というのは?」
「ん? ああ、さっきのか」
棺桶に入りたいと言われて、理解は難しかったけど嬉しく感じちゃって、ピタッとはまった、ピンときた、しっくりきた感覚があった。
俺は航琉くんに、『強い感情を向けられたい』んだ。それを殺意と混同しちゃっていた。殺意や嫌悪感より、まぁよくわかんないけど骨を混ぜたいほうが強そうで良い。殺意や嫌悪は多数に向けることも出来そうだけど、骨は俺だけだろ。マロちゃんもかな。俺は混ぜるのに関してはどうでもいいから、混ざりたかったら混ざろうなマロちゃん。
「んー。解決しちゃったから、言うほどじゃなくなっちゃった。俺はおかしくなってんだけど、危なくはなさそう」
「えっ……聞きたかったです……」
「航琉くんを好きすぎておかしくなってるってこと! 治んない! 責任とって!」
俺は笑顔を見せてそう言ってみる。
「責任っ!? どう、取れば……!?」
「好きにして〜〜〜」
ゴロン、と背中をベッドに横たわらせてみた。航琉くんがちょっと驚いた顔でこちらを見て、首を傾げている。
「……?」
航琉くんは少し考えてから、俺と同じように横たわり、体をぴたっとくっつけてきた。
「んふふ」
犬っぽくて、思わず笑ってしまった。
俺もなるだけ身を寄せて、もっとぴったりくっついてみる。
暖かい。
心地よくて、とても穏やかだ。
航琉くんは、御伽話の王子様じゃないと思う。読ませてもらったラブコメ漫画の王子様キャラでもない。
でも、そんなところが
「すごく好き」
「僕も、すごく好きです」
俺の唯一、たった一人の恋人なのだ。
「はい」
「……いや、その、……他の人と恋愛したことないからわかんなくて……」
「だめですよ! 他の人と恋愛したら!」
「しない……」
何をどう言ったらいいのか。言うべきじゃない気がする。
「う〜〜〜〜ん……」
「僕に、何かあれば、直します。気がつかなくて、すみま」
「あ、違う、違う、そうじゃなくて。そういうのだったら言うし、俺にも言ってね。今考えてんのはそうじゃなくて……」
謝られそうになった気配を感知して遮ったはいいものの、考えてること言えねぇ……。
「……?」
不安そうに首を傾げられている。不安にさせるのは心苦しい。
「本当、違くて、航琉くんが不安になる必要はなくて……間違ったこと言いそうで……航琉くんが間違ってるんじゃなくて、俺が間違ってて……」
「いいんじゃないですか……? 間違ってても。知りたいです」
「う〜〜〜ん……間違ったまま言葉にすると、それで固定されちゃう気がして……」
感じた気持ちをそのまま捕まえたつもりで実は違っていて、間違えたまま突き進んでしまうのは危うい。七不思議巡りを伝承巡りにシフトチェンジ出来たのは、『悪事を働きたい』と感じ取りかけていたのは実は不正解で、正解は『計画を立てて実行したい』『ちょっと意味の分からないことがしたい』であるとわかったからだ。
嫌がられてみたい、とか殺意を向けられたい、とかは、なんか違っている気がする。ピタッとはまってない。
「では、間違えないものから少しずつ出していきませんか。僕を見て、今どう思いますか?」
俺は顔を上げて航琉くんを見る。
王子様スマイル。俺に見られることを意識するとき、航琉くんはかっこつけているのか練習したらしき笑顔を浮かべる。俺はいつもの顔が好きなんだけど、俺のために意識して向けてくれるのは嬉しい。
それにしても圧倒的、美だ。俺が国なら傾いてる。時代が時代なら彫刻や絵にして崇める人が出てきそう。
「かっこいい、と思う……」
パフォーマンスとか芸術品とか、凄いものを見ると凄いしか思えないように、航琉くんを直視するとしばらくはかっこいいで頭がいっぱいになる。
「ふふ。とても、よいことです」
かっこいいなぁ……。
「燈李さんが好きになってくれたから、この見た目で良かったと思います」
「俺も、航琉くんが好きなら男で良かったなーって思う」
俺を見ていた航琉くんの目が、大きく見開かれた。
「ほん、と、に……?」
「へっ!? うん、本当に」
大きな目は水面みたいに見えた。揺れる瞳は部屋の電気を反射して、その灯りがキラキラと輝いている。
航琉くんの口元は震えていて、微笑もうとして上手くいかないみたいになっていた。
性別に関しては、今更じゃないのか? 俺は航琉くんを女の子だと思ったことはないし、女の子扱いをされていると思ったこともない。
「普段性別とかそんな考えないけど、俺は今の航琉くんが好きだし、航琉くんは今の俺が好きなんだろ? 今の俺で良かったなって思うよ。歳食っても好きだけど!」
「……うれ、しい、嬉しいです……」
今度は航琉くんが目を閉じて少し下を向いてしまった。顔の向きは俺を見ていたときのままだから、真横に居るけど頭は俺に垂れている状態だ。
今撫でるのはちょっと違う気がして、俺はその頭に自分の頭を寄せてみた。体の側面がぴったりくっついて、あったかい。
航琉くんは存在感があって、動物的な側面もあって今を生きている感が強いから見過ごしてしまっていたけど、航琉くんには航琉くんだけが見てきた景色がある。どんな景色で、何を思って生きてきたのか、聞いてみたいな。
「僕も燈李さんの棺桶に入りたいです……」
……。
「なんだって???」
予測のついていなかった発言に、頭の中が数秒フリーズしてしまった。
「……あ〜〜〜〜……待って今理解と理解出来ないが一度に来ちゃってる。理解出来ないってか、よくわかんないから理解出来るくらいまで噛み砕きたいほう。ちょっと待ってくれ、順番に片すから」
「はい。ゆっくりいきましょう」
「おう。棺桶に入るって言った?」
理解のほうは一旦置いておこう。理解したのは俺自身のことだ。今凄く嬉しく感じちゃって、満足度凄くて、ピタッとはまったものがある。俺はやっぱり別に嫌悪感や殺意を向けられたいわけじゃない。
理解出来ないのは、言われた言葉の意味である。
「はい。入りたいです」
「俺の葬式中に棺桶の中に入り込むってこと?」
「はい。骨になって、ひとつになりたい……」
「火葬場の人大迷惑だと思う」
「ですよねぇ……なので!」
航琉くんは顔を上げて、ぴしっと背筋を伸ばして俺と向き合う姿勢をとった。
「僕より長生きするか、僕が棺桶に入り込む力がないくらい足腰の弱くなったお爺さんになるまでは、死んじゃだめですよ」
「はい。長生きします」
頬が緩みながらも航琉くんの姿勢を真似して謹んで敬語で返事をすれば、満足そうに、ふふふと笑顔を返してくれた。
「一緒に燃やされるのは駄目でも、骨になった後で誰かに混ぜてもらえたりは出来ないものでしょうか……」
「骨壷から出すの!? それは、大丈夫なのかな……ガイコツってゾンビとかの仲間な感じで、怖くない?」
「感染症等ですか? 燃やしているので大丈夫だと思います。僕の母方の実家は、お墓に埋葬するとき骨壷から骨を出して直に入れます」
「へー! 大丈夫なんだ」
なら、その埋葬かなり良いかも。
「慣れない人には気味悪がられたり、特殊な考えのように見られたりしますが、衛生面の問題はありませんし、その地域では一般的です」
「俺は割と好きだな、それ。混ざるんじゃなくて重なってくっぽいけど、仲良くみんなでくっついて寝られる感じだ。骨壷でも同じ部屋だからそこまで変わんないとは思うけど、くっついてんの好きだからなー」
「僕は混ざれれば墓地や埋葬はどうでも……」
「快く混ぜてくれる人、いるかなぁ……」
「いますかねぇ……」
航琉くんの希望に近くて一番現実的なのはその骨壷から出して直に埋葬だと思うけど、墓に関しては今考えることじゃないよなぁ……俺らが死ぬ頃の墓地ってどうなってるのかわかんないし……。
「理解が来た、というのは?」
「ん? ああ、さっきのか」
棺桶に入りたいと言われて、理解は難しかったけど嬉しく感じちゃって、ピタッとはまった、ピンときた、しっくりきた感覚があった。
俺は航琉くんに、『強い感情を向けられたい』んだ。それを殺意と混同しちゃっていた。殺意や嫌悪感より、まぁよくわかんないけど骨を混ぜたいほうが強そうで良い。殺意や嫌悪は多数に向けることも出来そうだけど、骨は俺だけだろ。マロちゃんもかな。俺は混ぜるのに関してはどうでもいいから、混ざりたかったら混ざろうなマロちゃん。
「んー。解決しちゃったから、言うほどじゃなくなっちゃった。俺はおかしくなってんだけど、危なくはなさそう」
「えっ……聞きたかったです……」
「航琉くんを好きすぎておかしくなってるってこと! 治んない! 責任とって!」
俺は笑顔を見せてそう言ってみる。
「責任っ!? どう、取れば……!?」
「好きにして〜〜〜」
ゴロン、と背中をベッドに横たわらせてみた。航琉くんがちょっと驚いた顔でこちらを見て、首を傾げている。
「……?」
航琉くんは少し考えてから、俺と同じように横たわり、体をぴたっとくっつけてきた。
「んふふ」
犬っぽくて、思わず笑ってしまった。
俺もなるだけ身を寄せて、もっとぴったりくっついてみる。
暖かい。
心地よくて、とても穏やかだ。
航琉くんは、御伽話の王子様じゃないと思う。読ませてもらったラブコメ漫画の王子様キャラでもない。
でも、そんなところが
「すごく好き」
「僕も、すごく好きです」
俺の唯一、たった一人の恋人なのだ。
