「……って感じで、かなり落ち着いてはきたんだよ」
ベッドの端に腰掛け、俺は『おかしくなってて』の諸々を航琉くんに話した。精神があんまり安定してなかったこと、ヤミポンのこと、七不思議巡りを伝承巡りにシフトチェンジさせたこと。
伝承巡りは航琉くんと一緒に行くこともあったし、まとめた紙を見せることも日頃からあるから、趣味になった経緯に納得のいった様子だ。
航琉くんは隣に座り、視線を合わせてゆっくりと頷きながら聞いてくれた。
……落ち着いてはきたんだ、落ち着いて"は"。
話した内容に関してはもう充分落ち着いたと言っても過言じゃない。問題はまだ話せてないことだ。
目下その問題の『おかしくなってて』は現在進行形。しかもこれは、以前と違うことを認識して以前と似たようなものにシフトチェンジさせるとか、試してみて自分の気持ちを知って心の整理をつけるとかが不可能。
解決方法が見当もつかないまま、今なお『おかしくなって』いる。おかしいんだか普通なんだかもわかんない。おかしいと思う。
航琉くんの視線を感じ、俺は顔を両手で覆って俯いた。
「ど、どうかしましたか」
「う〜〜〜ん……言いにくい……だいぶ今その、さっき言ったのとは別件でおかしいから……」
「おかしくなってる燈李さんのこと、知りたいです」
「うう〜〜〜ん……」
俺は両手をそのまま上にスライドさせて、頭を抱えた。
「ちょっと、待ってね、考える時間がほしい……」
「待ちます」
航琉くんはきちんと座って待ちの姿勢だ。
俺は口を閉ざして、目も閉じて、どうにかならないものかと思考の渦に身を投じる。
きっかけは、学校帰りの商店街デート。
デートっつっても手繋いで歩いて喋るくらいのもんだけど……ちょうどお惣菜屋さんのコロッケが揚げたてで、食べ歩きも出来ますよとお店の人に声を掛けられて、小腹も空いていたからそうしようかと店先に行ったとき。
「美味しそうですね」
と、航琉くんが並べられている揚げたてコロッケを見ながら言った。
本当に、全然、なんてことない言葉だ。誰だって言う。俺も美味しそうなものを見たら言う。
なのに俺は、航琉くんの言ったそれを、俺に向けてほしいと思っちまった。
お年頃のせいかと思って、やり過ごした。そのときは。魅力的に見られたい、ってのと同じだ。航琉くんにとって俺の見た目はそこまで悪くないと思うし、コロッケと対抗してどうする。コロッケになりたいわけじゃないし。揚げたてコロッケは美味くて、思考はそっちに行ったから問題はなかった。
明確に『おかしく』なってしまったのは、学校でのことだ。
かつて航琉くんが殺意を向けた二人とは菓子折り以降これといって喋ることはなかったけど、すれ違えば軽く手をあげて挨拶代わりにするくらいの仲にはなっていた。
そのときも廊下でそうしていて、俺の側にいた航琉くんが不機嫌そうな顔をした。
「あの人たちは、嫌いです」
去って行ったそいつらを見て航琉くんが嫌そうにそう言ったとき、俺はあろうことか、それすら向けてほしいと感じた。
その不機嫌さとか、奴らに向けた殺意とか、こっちに向けたらいいのに。
航琉くんは顔と名前を覚えるのは得意じゃなかった気がしたので、嫌いってことは今もなんか言われたりしてるのかと思って聞くとそうではなく、屋上では俺のタマシイの一部が入っていたからかヤミポンの声が聞こえていたし俺が奴らを認識したから航琉くんも思い出して覚えただけだったそうで、そこは安心した。
けど、殺意を向けてほしいって、なんなんだ俺は?
嫌われたいわけでは絶対にない。殺されたい欲望があるわけでもない。
だけど嫌がったり、不機嫌になったり、殺意を持ったりの対象を、羨ましいなと思ってしまう。
もしや全ての感情を向けてほしいのか? とも考えたけど、悲しまれるのは嫌だなぁ……。だからおかしなことを言って困らせたり、嫌がることをやったり、出来ないことを要求して悲しませたりはしたくない。
しかし本当に、殺意を向けてほしいって何なんだ。他の人には絶対に思わないし、思いつくこともないのに。
俺にとっての恋愛の定義って、『他の人には思いも至らないし向けてほしいとも思わないものを向けてほしいと思うこと』なのかな……航琉くん以外と恋愛をしたことがないから、これが俺の普通なのか、おかしな状態なのかがわからない……。
ベッドの端に腰掛け、俺は『おかしくなってて』の諸々を航琉くんに話した。精神があんまり安定してなかったこと、ヤミポンのこと、七不思議巡りを伝承巡りにシフトチェンジさせたこと。
伝承巡りは航琉くんと一緒に行くこともあったし、まとめた紙を見せることも日頃からあるから、趣味になった経緯に納得のいった様子だ。
航琉くんは隣に座り、視線を合わせてゆっくりと頷きながら聞いてくれた。
……落ち着いてはきたんだ、落ち着いて"は"。
話した内容に関してはもう充分落ち着いたと言っても過言じゃない。問題はまだ話せてないことだ。
目下その問題の『おかしくなってて』は現在進行形。しかもこれは、以前と違うことを認識して以前と似たようなものにシフトチェンジさせるとか、試してみて自分の気持ちを知って心の整理をつけるとかが不可能。
解決方法が見当もつかないまま、今なお『おかしくなって』いる。おかしいんだか普通なんだかもわかんない。おかしいと思う。
航琉くんの視線を感じ、俺は顔を両手で覆って俯いた。
「ど、どうかしましたか」
「う〜〜〜ん……言いにくい……だいぶ今その、さっき言ったのとは別件でおかしいから……」
「おかしくなってる燈李さんのこと、知りたいです」
「うう〜〜〜ん……」
俺は両手をそのまま上にスライドさせて、頭を抱えた。
「ちょっと、待ってね、考える時間がほしい……」
「待ちます」
航琉くんはきちんと座って待ちの姿勢だ。
俺は口を閉ざして、目も閉じて、どうにかならないものかと思考の渦に身を投じる。
きっかけは、学校帰りの商店街デート。
デートっつっても手繋いで歩いて喋るくらいのもんだけど……ちょうどお惣菜屋さんのコロッケが揚げたてで、食べ歩きも出来ますよとお店の人に声を掛けられて、小腹も空いていたからそうしようかと店先に行ったとき。
「美味しそうですね」
と、航琉くんが並べられている揚げたてコロッケを見ながら言った。
本当に、全然、なんてことない言葉だ。誰だって言う。俺も美味しそうなものを見たら言う。
なのに俺は、航琉くんの言ったそれを、俺に向けてほしいと思っちまった。
お年頃のせいかと思って、やり過ごした。そのときは。魅力的に見られたい、ってのと同じだ。航琉くんにとって俺の見た目はそこまで悪くないと思うし、コロッケと対抗してどうする。コロッケになりたいわけじゃないし。揚げたてコロッケは美味くて、思考はそっちに行ったから問題はなかった。
明確に『おかしく』なってしまったのは、学校でのことだ。
かつて航琉くんが殺意を向けた二人とは菓子折り以降これといって喋ることはなかったけど、すれ違えば軽く手をあげて挨拶代わりにするくらいの仲にはなっていた。
そのときも廊下でそうしていて、俺の側にいた航琉くんが不機嫌そうな顔をした。
「あの人たちは、嫌いです」
去って行ったそいつらを見て航琉くんが嫌そうにそう言ったとき、俺はあろうことか、それすら向けてほしいと感じた。
その不機嫌さとか、奴らに向けた殺意とか、こっちに向けたらいいのに。
航琉くんは顔と名前を覚えるのは得意じゃなかった気がしたので、嫌いってことは今もなんか言われたりしてるのかと思って聞くとそうではなく、屋上では俺のタマシイの一部が入っていたからかヤミポンの声が聞こえていたし俺が奴らを認識したから航琉くんも思い出して覚えただけだったそうで、そこは安心した。
けど、殺意を向けてほしいって、なんなんだ俺は?
嫌われたいわけでは絶対にない。殺されたい欲望があるわけでもない。
だけど嫌がったり、不機嫌になったり、殺意を持ったりの対象を、羨ましいなと思ってしまう。
もしや全ての感情を向けてほしいのか? とも考えたけど、悲しまれるのは嫌だなぁ……。だからおかしなことを言って困らせたり、嫌がることをやったり、出来ないことを要求して悲しませたりはしたくない。
しかし本当に、殺意を向けてほしいって何なんだ。他の人には絶対に思わないし、思いつくこともないのに。
俺にとっての恋愛の定義って、『他の人には思いも至らないし向けてほしいとも思わないものを向けてほしいと思うこと』なのかな……航琉くん以外と恋愛をしたことがないから、これが俺の普通なのか、おかしな状態なのかがわからない……。
