-33-
ストラップは、まだ俺が持っている。執着は悪だと思うし、暁に知られたら
「捨てろ。それに魂は宿っていない。少なくとも僕はそこに居ない。捨てるタイミングを逃すといつまでもそのままになる。エスカレートするとゴミ屋敷まっしぐらだ」
とか言われそうだから、言ってない。幸い聞かれてないので、実際は「好きにしろ」程度かもしれないけど、なんとなく。
『死ぬ気はないけど万が一何かあったら遺影にしてくれ』と書いた付箋紙をラミネートの上から貼ったヒーローショーのときの写真と一緒に『棺桶に入れてほしいものコーナー』に入れている。金具とプラスチックの部分はダメだけど、写真だけなら平気だから。彫刻刀をぶっ刺したせいで既にかなりボロボロだけど、これ以上ボロくなるの防止でプラスチックケースには入れたまま。
『棺桶に入れてほしいものコーナー』は堂々と自室のテーブルの上に設置した。こういうのは隠すとシリアスになりそうだし、火葬しちゃってから気付かれても遅いし、見える場所に置くが吉だ。
あれからヒーローショーは何度も行っていて、遺影予定の写真は更新され、それまでの写真は全部棺桶に入れるものとしてどんどん積み重なっている。その奥底に、ストラップがある。
「これ、見てもいいですか?」
航琉くんが遊びに来たとき、そう聞いてきた。
ヒーローショーの写真は俺と航琉くんとヒーローの三人が映っているものが多く、思い出のアルバムとしての機能も果たしている。光莉と母さんを誘ったときのもの、大介と遥さんと航琉くんと俺の四人で行ったときのものもある。
「いいよー」
航琉くんに見られて困るものはないし、俺は軽く返事をした。
航琉くんは一枚一枚手に取って楽しそうに見て、底にあるストラップに気付いて
「あ……」
と、動きを止める。
「捨てらんなくて。入れてあんの」
自分の情けなさを感じて、誤魔化すように軽く笑って見せた。スパッと決めてパパッと捨てたほうが男前だとは思う。普段の片付けはそうなんだけど、ストラップに対しては出来ずにいる。
「寂しいですか……?」
心配そうに顔を覗き込まれた。
航琉くんは俺のこういう行いに対して、情けないとかヘンとかは、絶対に言わない。
「寂しい……のかな。暁は居るし、ヤミポンが居た頃に戻るボタンがあっても押そうとは思わないし、慣れないだけ……だと思う。慣れれば平気だよ」
すぐ勝手に消えちゃう輪郭だけの頃よりも、会えて顔が見えて声が聞けて、一緒に遊べてご飯が食べられる今の方がずっと良い。
「燈李さんは、もしかしたら物事をちっちゃくして受け取る癖があるのかもしれません」
「ちっちゃく?」
「小さく、の意味です。『大したことない』と思うことはありませんか?」
「バレ、てんの? ソレ……」
驚きで目を見開いて固まる俺に、航琉くんは思い出すように目線を動かした後再びこちらを見て言った。
「随分前に、光莉さんから聞いていて。僕から見てもそう思うときはあったので……その、あまりプラスなことではないので言うのは良くないかなと思ってはいたのですが……」
つまり航琉くん的にはプラスじゃないことで、俺を傷つけそうだから言わないようにしてくれていた、と……。
「さんきゅ。そういうのって聞けるときと聞けないときあるから、言わないでくれてありがとう。今は大丈夫。ナイスタイミング」
「タイミング……は、難しいので、今後聞けないときは言ってもらえると助かります……」
眉間に皺を寄せて難しい顔だ。
「ん。そーする」
俺は笑って航琉くんの頭を撫でた。眉間の皺は取れて、嬉しそうに目を閉じて微笑んでいる。
航琉くんは、たぶん瞬時に状況を読むことは得意ではない。だけど航琉くんの待つ力で、全力で大切にしてくれる。それが俺は嬉しい。
良く見て、時間を掛けて、想像を働かせて、時には聞いて、真っ直ぐに向き合ってくれる。
人の気持ちがわからないときが多くある、と前に言っていた。だからなのか、決めつけないでそのままを受けとめてくれる。それは良さだと、俺は思う。
「大袈裟に受け取るよりは、良いと思ってんだけどなー……」
「マイナスなことも、感じた気持ちはそのまま捕まえると後で引きずりにくい、というのが僕の経験則です」
「うーん……」
気持ちの言語化は得意なほうだ。『ホニャララだからホニャララ』と理由を見つけて状態を測ることはある。『ホニャララだから問題ない』とか『ホニャララと似たようなもの』とか、やりがち……かもしれない。
言語化しない状態で、ただ感情をキャッチするのは、もしかして苦手か……?
「でも、それで喚くのはかっこ悪い気がする……」
「そうなんですか?」
「そうじゃないのかな……」
これ、人生の課題、ってヤツか?
「なんか俺、おかしくなっててさ」
「ほう?」
「だいぶ良くなってきてんだけどねー……」
ストラップは、まだ俺が持っている。執着は悪だと思うし、暁に知られたら
「捨てろ。それに魂は宿っていない。少なくとも僕はそこに居ない。捨てるタイミングを逃すといつまでもそのままになる。エスカレートするとゴミ屋敷まっしぐらだ」
とか言われそうだから、言ってない。幸い聞かれてないので、実際は「好きにしろ」程度かもしれないけど、なんとなく。
『死ぬ気はないけど万が一何かあったら遺影にしてくれ』と書いた付箋紙をラミネートの上から貼ったヒーローショーのときの写真と一緒に『棺桶に入れてほしいものコーナー』に入れている。金具とプラスチックの部分はダメだけど、写真だけなら平気だから。彫刻刀をぶっ刺したせいで既にかなりボロボロだけど、これ以上ボロくなるの防止でプラスチックケースには入れたまま。
『棺桶に入れてほしいものコーナー』は堂々と自室のテーブルの上に設置した。こういうのは隠すとシリアスになりそうだし、火葬しちゃってから気付かれても遅いし、見える場所に置くが吉だ。
あれからヒーローショーは何度も行っていて、遺影予定の写真は更新され、それまでの写真は全部棺桶に入れるものとしてどんどん積み重なっている。その奥底に、ストラップがある。
「これ、見てもいいですか?」
航琉くんが遊びに来たとき、そう聞いてきた。
ヒーローショーの写真は俺と航琉くんとヒーローの三人が映っているものが多く、思い出のアルバムとしての機能も果たしている。光莉と母さんを誘ったときのもの、大介と遥さんと航琉くんと俺の四人で行ったときのものもある。
「いいよー」
航琉くんに見られて困るものはないし、俺は軽く返事をした。
航琉くんは一枚一枚手に取って楽しそうに見て、底にあるストラップに気付いて
「あ……」
と、動きを止める。
「捨てらんなくて。入れてあんの」
自分の情けなさを感じて、誤魔化すように軽く笑って見せた。スパッと決めてパパッと捨てたほうが男前だとは思う。普段の片付けはそうなんだけど、ストラップに対しては出来ずにいる。
「寂しいですか……?」
心配そうに顔を覗き込まれた。
航琉くんは俺のこういう行いに対して、情けないとかヘンとかは、絶対に言わない。
「寂しい……のかな。暁は居るし、ヤミポンが居た頃に戻るボタンがあっても押そうとは思わないし、慣れないだけ……だと思う。慣れれば平気だよ」
すぐ勝手に消えちゃう輪郭だけの頃よりも、会えて顔が見えて声が聞けて、一緒に遊べてご飯が食べられる今の方がずっと良い。
「燈李さんは、もしかしたら物事をちっちゃくして受け取る癖があるのかもしれません」
「ちっちゃく?」
「小さく、の意味です。『大したことない』と思うことはありませんか?」
「バレ、てんの? ソレ……」
驚きで目を見開いて固まる俺に、航琉くんは思い出すように目線を動かした後再びこちらを見て言った。
「随分前に、光莉さんから聞いていて。僕から見てもそう思うときはあったので……その、あまりプラスなことではないので言うのは良くないかなと思ってはいたのですが……」
つまり航琉くん的にはプラスじゃないことで、俺を傷つけそうだから言わないようにしてくれていた、と……。
「さんきゅ。そういうのって聞けるときと聞けないときあるから、言わないでくれてありがとう。今は大丈夫。ナイスタイミング」
「タイミング……は、難しいので、今後聞けないときは言ってもらえると助かります……」
眉間に皺を寄せて難しい顔だ。
「ん。そーする」
俺は笑って航琉くんの頭を撫でた。眉間の皺は取れて、嬉しそうに目を閉じて微笑んでいる。
航琉くんは、たぶん瞬時に状況を読むことは得意ではない。だけど航琉くんの待つ力で、全力で大切にしてくれる。それが俺は嬉しい。
良く見て、時間を掛けて、想像を働かせて、時には聞いて、真っ直ぐに向き合ってくれる。
人の気持ちがわからないときが多くある、と前に言っていた。だからなのか、決めつけないでそのままを受けとめてくれる。それは良さだと、俺は思う。
「大袈裟に受け取るよりは、良いと思ってんだけどなー……」
「マイナスなことも、感じた気持ちはそのまま捕まえると後で引きずりにくい、というのが僕の経験則です」
「うーん……」
気持ちの言語化は得意なほうだ。『ホニャララだからホニャララ』と理由を見つけて状態を測ることはある。『ホニャララだから問題ない』とか『ホニャララと似たようなもの』とか、やりがち……かもしれない。
言語化しない状態で、ただ感情をキャッチするのは、もしかして苦手か……?
「でも、それで喚くのはかっこ悪い気がする……」
「そうなんですか?」
「そうじゃないのかな……」
これ、人生の課題、ってヤツか?
「なんか俺、おかしくなっててさ」
「ほう?」
「だいぶ良くなってきてんだけどねー……」
