憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!


 髪とファッションをキメて通学路を歩きながら、俺は平成ヒーローについて熱く語った。中の人に俺を知ってもらうためだ。断じてただの趣味の話ではなく。喋り足りないがとても充実した時間だった。スマホは最初のうちは〈おい〉とか〈その話はいいから〉とか〈それより〉とか合いの手を挟んできたが、途中からはずっとだんまりだった。気配はしたからじっくりと聴き入ってくれていたのだろう。
「おはよー燈李ー」
「おはようございます」
 登校すると靴箱近くには大介と航琉くんがいた。俺も「おはよー」と返しながらそちらに向かう。大介は丁度来たところみたいで靴を履き替えている。航琉くんは既に上履きを履き、一年生用の靴箱ではなく俺の靴箱の近くに居た、ってことは俺を待っていたようだ。
 なんとなく見ちゃったけど鞄にお守りはついてない。なんだ、あんなに嬉しそうにしてたのに。まぁ、気にしてないけど。
「お昼をご一緒したいのですがよいでしょうか」
「んー、大介、どう?」
「え、二人でどっか行ったりって話じゃないの」
 昼食は大抵教室で大介と食べていたから、そういった発想はなかった。流石彼女持ちだ。ちなみに大介の彼女こと遥さんは基本的に生徒会に行っているため昼休みの逢い引きは難しく、その分放課後にラブラブしているらしい。
「なるほどなー。そっちはどういう意図で聞いてきたの?」
「よろしければお二方がいつも通りに過ごす教室の昼休みに参加させていただきたいと思っています」
「えっ? そうなの? 俺はいいけど、いいの? 燈李と二人っきりにならなくて」
「二人きりにもなりたいですが、普段のお姿も見たいです。二人きりは、またお誘いします」
「大介がいいなら俺もいいよ」
「ありがとうございます」
 航琉くんはそう言うと、ニコリと笑顔を見せた。固さはあるけれど昨日よりも口角は上がっていて、きちんと"笑顔"って感じだ。表情筋を動かして気持ちを伝えようとしてくれているのが分かる。大介は珍しいものを見たかのように固まっちゃってるし、その反応を見ていたら俺も遅れて気恥ずかしさがやってきた。そういや愛の告白をされ済みで、ということは今のこれは熱烈なアタックを受けているということなのだ。
 航琉くんは一礼をして去っていく。彼とすれ違った何人かは彼に見惚れ、何人かは……彼と俺のほうを見て、数人同士でニヤニヤと笑った。指を刺し、見下すようなそれは微笑ましさからではない笑い方だ。
「ドーセイアイってやつぅ? うっわぁ〜」
 聞こえる声量で、何がどうとは明確に言わない逃げ道を残した言葉だ。怒りに行ったってはぐらかされるのが目に見えている。全く、いつ時代を生きてるつもりなんだよ?
 そいつらは歩きながらだったし、俺達も教室に向かないといけないし、今はハンドサインで「くたばれ」のポーズをしておく……というのは言い訳だ。言われた内容もだけど、何かを言われること自体にショックを受けたのもあって、一瞬固まってしまっていた。ハンドサインは固まった思考回路が搾り出した精一杯の抵抗だ。
 ブン殴る手前くらいまでやっておけばよかった。次からはそうしよう。

 昼休み。大介と喋りながら弁当を出していると、教室の入り口でこちらを覗っている航琉くんが目に入った。タイミングを図ってるのかな。いつもみたいに唐突に入って来ればいいのに。よくわからないけど目が合ったので手招きしてみれば、おずおず……といった感じで俺達の机にやってきた。
「……あの、本当に、お昼をご一緒しても良いんでしょうか」
「へ? いいよ。なんで?」
 そっちから提案してきたのに、急にどうしたんだ? 大介も首を傾げている。航琉くんは周囲に目を向けていて、申し訳なさそうに小さくなっているように見える……。
「もしかして、今朝の?」
 あの通りすがりの、こっちのことなんも知らない奴の、嫌な言葉。あの音量じゃ、そりゃ聞こえてたよな。
「申し訳ないです。僕が居たら、嫌な気持ちにさせてしまう」
「そんなことない!」
 デカい声が出た。
「どう考えても航琉くんは悪くないだろ!」
「えっ……? あ、え、と」
 大介が大きく頷いているのを視界の端に捉えながら、俺は航琉くんを見据えて続けた。
「別にお前が相手じゃなくても誰かと恋愛をしたかもしれないし、そのときは俺が自分で言いふらして回ったかもしれないし、そしたらああいう奴らから今朝と同じ反応をされる。お前は悪くないよ」
「そう、ですか」
 あくまで"誰かと恋愛をしたら"の仮定の話だ。"変身して敵を倒す"くらいに俺にとっては現実味のない話だけど、航琉くんが悪くないことを引き合いに出すには合っていると思う。
 航琉くん、いつも以上に口下手というかまごついている様子で、ほんの少し頬がピンク色になっているような気のせいなような。
「あ、あの、ト、トモ」
 ジリリリリリリ!!!
「うわぁっ! 燈李、音量デカすぎ! びっくりするだろ」
 航琉くんがモゾモゾと何かを言おうとしていたとき、俺のスマホの着信が爆音で響いた。
 画面を見るが……何も書かれていない。着信音は勝手に切れて、
〈話がある。屋上に来い〉
 と、瞬時には肉声と区別がつかない、合成音声の声がした。中の人だ。
 これからが昼の楽しいひとときなのに……。でも俺も話したいと思っていたところだ。5分休みに何度話しかけても無視しやがって。
「悪い、ちょっと行ってくる。先食べてて」
 二人にそう言い、俺は教室を出た。後ろで大介が航琉くんに「がんばれっ!」と励ますように応援の声を掛けているのが聞こえる。
 俺も航琉くんの恋を応援したい。中の人に出てきてもらわないと話にならない。