憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

 非常階段を降り、扉を通ってもと来た道を帰るように図書室に向かう廊下を歩く。
「カッターナイフがあって。片付け中だったのでそのまま持ってきていたんです。無いよりはあったほうが何かあれば戦えるかなと」
「? うん?」
 航琉くんは制服のポケットからカッターを出して、刃は出していないけど、自身の首や顔に向けた。
「戦う相手はいませんでしたが……。あのとき、燈李さんから反応がなかったらこちらの首や顔を刺そうかと思っていました」
「え!!?? はっ!!???」
「首を刺したら血が吹き出してびっくりしてこっちを見るかなと。顔も同じです。好きな見た目のモノが壊れたら、びっくりするでしょう?」
「やめてやめて怖い怖いしまってそれとにかくカッターしまおうしまえる?」
「貴方が見てくれないならこの見た目に価値なんてないし、見てくれるなら修復不可能なくらい……目玉のひとつくらい取れてたほうが……なんてね。やりませんよ」
 カッターをポケットにしまい、航琉くんはふふと微笑んだ。
「実際は、やろうとしてもきっと痛みで出来なくて、自分に失望するんです。想像をするだけして、出来ない。ちっちゃな人間です」
 やりかねないな、とは思う。さっき俺の反応がなかったら……いや、考えないでおこう。人間誰しもテンションおかしくなると普段出来ないこともやっちゃう可能性がある。
「俺は、人間の航琉くんが好きだよ」
「……!」
 きっと、そんなことをやろうとしたとき、真っ先にそれをしたら俺が傷付くことを考えるだろう航琉くんのことが。……それで余計苦しめそうだし、そんな選択肢が出てくること自体本来論外だ……。
「失望させたり、苦しめたりしたくないから、俺はしっかりしないとね」
「はい。ふふ、嬉し……」
「航琉くん……っ!?」
 図書室の前で、航琉くんは倒れた。ゆっくりと、落ちていくかのように。
 支えようとして伸ばした手が、触れそうになった瞬間ビクリと怯えて止まる。
 それを気にしている場合じゃない。すぐに屈み込んで意識を確認する。息はある。顔色が悪い。声掛けに呻いて反応はしてくれるけど、目は開かない。
 肩に担ごうとして、腕を持った。
 反対側の腕の近くに、人がいる気配がした。
 半透明の輪郭。俺と同じくらいの背丈。僅かにだけど、以前よりもその姿はぼやけていない。
 フワッとした髪、折れそうなほどに細い体、その顔は……
 ――……、……。
 何かを言っている。空耳に間違えそうな声。しっかりと意識を向ければ聞くことが出来る……。なんて、言っている?
 僕は、役に立たない、だから捨てたほうが
「聞こえない。聞こえないよ、ヤミポン」
 認めない。そんな言葉。
 彼は悲しそうに、微笑んだ。
 ――きゃははっ! 
 子供の笑い声。
 いつもは泣いてる声が、笑っている。
 ――きゃははっ! きゃはははっ!
 楽しそうに。
 その気配は、航琉くんと俺を見ている。
 ――きゃははははっ……!