図書室を出て廊下の奥、非常口は外の非常階段に繋がっている。
鉄骨製の階段は、上るたびにカン、カン、と音がした。
俺一人の足音だ。今は、そうだ、一人だと知る。航琉くんはいない。ヤミポンも、気配を感じ取れない。
「噂では図書室の霊は本のコピーを何枚も取ってるって聞いたけど……」
――コピー? しないよ。読めば大抵覚える。同じものがいくつもあっても捨てることになって後が大変だ。
「尾鰭はひれだなぁ……」
一人だと思いたくなくて、その子に話しかけた。返事はしてくれる。だけどどこか、寂しい感じがした。
階段の一番上に辿り着く。柵をよじ登って越えれば屋上だ。
その子は屋上の方ではなく、屋上の縁の方へ行き、俺を手招いた。
暗い。空が影って、雲が出てきている。
――水墨画みたいな空だね。僕は好きだ。星も、灯りも見えなくなって、帰る場所も行くべきところもわからない。独りだと思い知らされる。それが相応しいと言われているみたいで、安らげる。
柵のない場所。遮るもののない視界で、随分と下の方に暗い地面が見える。
――分不相応なものは落ち着かない。ここからの眺めも気に入った。簡単に来られることもね。いつだって現実から逃避が出来そうだ。ねぇ、お兄さん。
「……何……?」
眩暈が、する。酷い睡眠不足のときのような、気分の悪さ。
――僕と一緒に
――燈李、
――死んでくれる?
サァッと風が吹いた。彼の髪は、風に揺れることがない。
眩暈がする。
まるで現実味のない、物語の世界のようだと思った。
