憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!


 美術部の野外展示場。
 野球部の声が遠くに聞こえる少し開けた場所は、どことなく屋上に似ている。
 その人はそこに居た。
 『夜明け』。その絵を見つめ、立っている。
「スミスズさん、ですか」
 どう声を掛けたらいいのか、掛けた後に何を話せばいいのか考えあぐねていたら、航琉くんが先に尋ねてしまった。
「そうだけど、何か用?」
 振り返る猫っ毛がフワリと風に揺れる。
 背は僅かに俺より高く、体型は折れそうな程に細い。
 彼は一瞬俺らの格好に驚いたけど、そこまで気には留めなかった。
「君達が俺を探してる人? 人に聞いて回ってたみたいだね。ほんっと、色んな人から言われたよ、探されてるって。俺が何かやったってわけ?」
 中音域の柔らかい声を、意識してやや低めに出しているような喋り方だ。俺が普段かっこつけて低めに声を出してるから、そう思うのかもしれないけど。
 この声、どこかで。
「会ったこと、ある……? っすか、俺ら」
「は? ナンパ? 生憎俺には恋人がいるし、兄弟はいないし似た見た目の親戚も居ない。大体、一目惚れなんて信用出来るわけがないだろ。第一印象最悪だ」
「いや、違うッス」
「そうなんですか……?」
 俺は一目惚れ発言を否定し、航琉くんは一目惚れは第一印象最悪発言にショックを受けて俺に質問してきている。
「俺は最悪だとは思わないよ、大丈夫。で、一目惚れではないッス」
 航琉くんを宥め、墨涼さんのほうに向く。
「それは失礼。一目惚れをされたことがあるものでね」
 自慢か? 確かに見た目は悪くない。アニメキャラみたいな色の頭髪に多量のピアス。服装は令和の可愛い系チャラ男だ。平成のカッコいい系チャラ男ファッションとしては対抗したくなってくるけど、十中八九令和を生きる俺のクラスメイトなんかは墨涼さんのほうがカッコいいと言うだろう。
「去年の春の寒い日に、屋上にいましたか」
 俺の内心で密かに対抗意識が燃えかかっていたとき、航琉くんが聞いていた。
「あぁ、あの自殺未遂。見られてたんだ」
「じさっ……、俺は、アンタが落ちたんじゃないかと……声を掛けてたら、助けられたんじゃないか……止められてたんじゃないかって」
「生きてるけど? 何それ。死んだみたいに。君が声を掛けていようがいまいが、何をしようが俺には関係がなかった。それだけだろ」
「関係、ないって……」
 そりゃ、そうだけど……
「要件は終わり? つまんない話題だったな」
「待って。もうひとつ」
 本当に、この人は助かったのか?
「七不思議を追っていたって、本当?」
「キョウ!」
 その答えを聞く前に、俺達の後ろからがっしりとした体型の大学生らしき男性が墨涼さんに駆け寄ってきた。
 墨涼暁……スミスズキョウと読むようだ。
「ゴメン、後輩に引き留められちゃって。待った?」
「遅い。お陰で下らない連中に絡まれた」
「なっ……、下らないって何だよ!」
 男性は俺とキョウさんの間のピリついた空気に、困惑している。短く整えられた、一度も染めたことのなさそうな髪。おっとりとした雰囲気の人だ。どことなく、身長とかは航琉くんに似てなくもない。
「追ってたよ、七不思議。願いは叶った」
「そんな、まさか」
 キョウさんは男性の腕をぐいと引き、自身の腕を絡ませる。
「求めていたものは最初から近くにあった、そんなチープなものだけどね」
 俺を一瞥し、歩き出そうとした。
「あ……」
「何?」
 男性が俺を見て、声を漏らした。
「いや、……友達に、見えた気がして」
「そんなことあるわけないだろ。行こう」
 引き留める理由が思い浮かばないうちに、二人は歩いて行ってしまった。
 ――「タイセイ、久しぶり。卒業以来?」――
 ――「先輩、絵飾らせていただきましたよ」――
 眩暈が、する。別の場所、別の視点、色んな場所で、何人もの視点から、二人に話しかける幻覚が見える。
「……う……」
「燈李さん?」
 航琉くんの声で、今、ここに、自分がいると、意識が戻ってきた。
「あ……少し、ボーっとしちゃって……俺達も文化祭、回ろうか」
「はい」
 あの彼が死ななくて良かったと思うけど、妙な違和感を抱えたまま、快晴の空はいつもなら清々しいのに気分が悪くて仕方がなかった。