-6-
〈生きていない場合は、どうしたらいいわけ?〉
机に置いていたスマホから、合成音声の声がした。それ程不自然ではないけど、よく聞くと抑揚が独特だ。
柔らかめの中音域の男性の声。中の人が俺の体を使っていたときの声色に似ている。
スマホ画面が光り、壁紙にしている平成ヒーローが輝いている。大介につけてもらった落とし物のストラップもその光を眩しそうに受け止めていた。このストラップはあのあとよく見たけど、『T.A』のイニシャルにこれといった特徴は見受けられなかった。
「ポ、ポルターガイスト……?」
〈御名答。正解だ。苦労したよ。キミってば鈍すぎる。話しかけても聞こえないみたいだからそろそろ諦めようかと思ってたところだ。こっちも色々試したけど……モノを動かすのは簡単じゃない。これならどうにかなりそうで良かったよ〉
「え、でも子供の声は聞こえたけど」
〈……見えてるの?〉
『見えてた』じゃなくて『見えてるの』という聞き方ってことは、この場には居るのか。
「見えてはないけど、時々聞こえる。なんで助けてやんねーの」
〈ああいった類の輩は同じ言葉を繰り返してるだけだ。印象に残った物事を再生し続けている。単純で分かりやすいからキミみたいなのにも感知出来るのかもな。何にせよソレに対してこちらからアクションを起こす意味はない〉
「でも」
〈それが要件? つまらない話題だな〉
要件は色々ある。主に『なんなんだお前』な内容についてだ。とりあえず『何者なんだ』の意味じゃなく『何様なんだ』の方向からツッコミたい。
「お前、性格悪いだろ」
〈初めて言われたよ。お褒めにあずかり光栄だね〉
真面目だと思ってたのに! コイツ、外ヅラが良いタイプか。
〈僕の性格よりキミの生活を気にしたほうがいい。こんな時間だし、寝たら? 朝起きられないだろ〉
いや、相変わらず真面目だ。
「色々聞きたいんだけどな。確かにこのタイミングで寝坊したら光莉が気にする。ひとつだけ質問なんだけど」
〈何?〉
「お前は俺の二重人格なの?」
〈違う。赤の他人だ〉
あっさりと。だろうとは思ってたけど。
「なら、ありがとう」
〈は?〉
俺は布団に潜りながら言った。
「航琉くん、助けてくれて。一番はこれが言いたかった。じゃ、おやすみ」
〈……おやすみ〉
なんとなく笑みが溢れ、そのまま「ふふっ」と笑い声が出てしまった。
〈何?〉
「いや、寝る直前におやすみって言っておやすみって返ってくるの、良いもんだなと思って」
〈何だそれ〉
「おやすみー」
〈はいはい、おやすみ〉
ジリリリリリリリ!!!
「何!!??」
安眠を妨げる爆音に叩き起こされ、俺はベッドから転げ落ちた。
〈ポルターガイストだ。スマホくらい操作出来る〉
「7時じゃん!!!」
〈遅かったか?〉
「いや、大変適切な時間。でも……あと、5分……寝かせてくれてもよかったのに……」
〈5分怠けるなら5分余裕を持って行動しろよ〉
「ド正論!!!」
仕方がないので顔を洗いに洗面所に向かう。光莉も丁度起きたようで、廊下で顔を合わせた。
「お、お兄ちゃん……?」
どうやら早起きの兄、つまり俺らしくない行動をとっている俺のことが心配らしい。
「大丈夫、俺だ。まだ髪も服もどうにもなってないけど。先どうぞ」
光莉は明らかにホッとした顔で、洗面所に行った。すぐに終わるだろうから、俺はドアの近くで待っていることにする。
〈……悪かった。二重人格なんて……その、変なことをご家族や友人に言ってしまって〉
光莉の様子を見ていたのだろう、スマホから中の人のポルターガイストが引き起こす合成音声が聞こえた。
〈幽霊に取り憑かれていて今まさにその幽霊の僕が体を動かしている……なんて言うよりは良いと思って……〉
「俺も同意見、それに一票だよ。議員二人満場一致で可決だ。次からもよろしく頼む」
〈は? 次?〉
洗面所のドアが開き、化粧水を顔に叩き込みながら光莉が出てきた。
「お兄ちゃん、誰かと通話? あっ! カレからモーニングコール!?」
「あらゆる意味で違う、かな……」
通話でもないしカレでもないし、想定される彼(おそらく航琉くん)はカレ(恋人)ではないし、モーニングコール……なのか? これは。
光莉は「ひゅーっ! フゥー!」とテンション高くリビングに向かった。入れ替わりで俺も顔を洗う。
〈妹さん、なんだか凄いな。キミの家族は全員あんな感じなのか? 僕がキミの体を使っていたときはこういった感じはなかったように思うが〉
「そりゃいつもの俺と違って真面目っぽい相手にふざけられないだろ。あんな感じだよ、母さんも」
〈父親は?〉
「死んだ」
〈! 悪い、よく考えもせず立ち入ったことを聞いた〉
「いいよ、随分前のことだから。それに今後のことも考えて、俺の諸々は知っといてもらったほうがいいし。うちんち遺影も仏壇もなくてわかりにくいよなー。友達来たときに気まずいから置かなくなったんだ」
〈そう、か……。うん? 今後って何のことだ〉
「俺の体使うとき面倒がないように」
〈どういう……〉
「お兄ちゃーん!」
スマホと会話をしながら、我が妹光莉を真似て顔に色々と塗りたくって叩き込んでいると、リビングから声が掛かった。
「パン焼くー?」
「焼くー! 今行く!」
余裕のある朝、焼いたパンが食べられるのも悪くない。
〈生きていない場合は、どうしたらいいわけ?〉
机に置いていたスマホから、合成音声の声がした。それ程不自然ではないけど、よく聞くと抑揚が独特だ。
柔らかめの中音域の男性の声。中の人が俺の体を使っていたときの声色に似ている。
スマホ画面が光り、壁紙にしている平成ヒーローが輝いている。大介につけてもらった落とし物のストラップもその光を眩しそうに受け止めていた。このストラップはあのあとよく見たけど、『T.A』のイニシャルにこれといった特徴は見受けられなかった。
「ポ、ポルターガイスト……?」
〈御名答。正解だ。苦労したよ。キミってば鈍すぎる。話しかけても聞こえないみたいだからそろそろ諦めようかと思ってたところだ。こっちも色々試したけど……モノを動かすのは簡単じゃない。これならどうにかなりそうで良かったよ〉
「え、でも子供の声は聞こえたけど」
〈……見えてるの?〉
『見えてた』じゃなくて『見えてるの』という聞き方ってことは、この場には居るのか。
「見えてはないけど、時々聞こえる。なんで助けてやんねーの」
〈ああいった類の輩は同じ言葉を繰り返してるだけだ。印象に残った物事を再生し続けている。単純で分かりやすいからキミみたいなのにも感知出来るのかもな。何にせよソレに対してこちらからアクションを起こす意味はない〉
「でも」
〈それが要件? つまらない話題だな〉
要件は色々ある。主に『なんなんだお前』な内容についてだ。とりあえず『何者なんだ』の意味じゃなく『何様なんだ』の方向からツッコミたい。
「お前、性格悪いだろ」
〈初めて言われたよ。お褒めにあずかり光栄だね〉
真面目だと思ってたのに! コイツ、外ヅラが良いタイプか。
〈僕の性格よりキミの生活を気にしたほうがいい。こんな時間だし、寝たら? 朝起きられないだろ〉
いや、相変わらず真面目だ。
「色々聞きたいんだけどな。確かにこのタイミングで寝坊したら光莉が気にする。ひとつだけ質問なんだけど」
〈何?〉
「お前は俺の二重人格なの?」
〈違う。赤の他人だ〉
あっさりと。だろうとは思ってたけど。
「なら、ありがとう」
〈は?〉
俺は布団に潜りながら言った。
「航琉くん、助けてくれて。一番はこれが言いたかった。じゃ、おやすみ」
〈……おやすみ〉
なんとなく笑みが溢れ、そのまま「ふふっ」と笑い声が出てしまった。
〈何?〉
「いや、寝る直前におやすみって言っておやすみって返ってくるの、良いもんだなと思って」
〈何だそれ〉
「おやすみー」
〈はいはい、おやすみ〉
ジリリリリリリリ!!!
「何!!??」
安眠を妨げる爆音に叩き起こされ、俺はベッドから転げ落ちた。
〈ポルターガイストだ。スマホくらい操作出来る〉
「7時じゃん!!!」
〈遅かったか?〉
「いや、大変適切な時間。でも……あと、5分……寝かせてくれてもよかったのに……」
〈5分怠けるなら5分余裕を持って行動しろよ〉
「ド正論!!!」
仕方がないので顔を洗いに洗面所に向かう。光莉も丁度起きたようで、廊下で顔を合わせた。
「お、お兄ちゃん……?」
どうやら早起きの兄、つまり俺らしくない行動をとっている俺のことが心配らしい。
「大丈夫、俺だ。まだ髪も服もどうにもなってないけど。先どうぞ」
光莉は明らかにホッとした顔で、洗面所に行った。すぐに終わるだろうから、俺はドアの近くで待っていることにする。
〈……悪かった。二重人格なんて……その、変なことをご家族や友人に言ってしまって〉
光莉の様子を見ていたのだろう、スマホから中の人のポルターガイストが引き起こす合成音声が聞こえた。
〈幽霊に取り憑かれていて今まさにその幽霊の僕が体を動かしている……なんて言うよりは良いと思って……〉
「俺も同意見、それに一票だよ。議員二人満場一致で可決だ。次からもよろしく頼む」
〈は? 次?〉
洗面所のドアが開き、化粧水を顔に叩き込みながら光莉が出てきた。
「お兄ちゃん、誰かと通話? あっ! カレからモーニングコール!?」
「あらゆる意味で違う、かな……」
通話でもないしカレでもないし、想定される彼(おそらく航琉くん)はカレ(恋人)ではないし、モーニングコール……なのか? これは。
光莉は「ひゅーっ! フゥー!」とテンション高くリビングに向かった。入れ替わりで俺も顔を洗う。
〈妹さん、なんだか凄いな。キミの家族は全員あんな感じなのか? 僕がキミの体を使っていたときはこういった感じはなかったように思うが〉
「そりゃいつもの俺と違って真面目っぽい相手にふざけられないだろ。あんな感じだよ、母さんも」
〈父親は?〉
「死んだ」
〈! 悪い、よく考えもせず立ち入ったことを聞いた〉
「いいよ、随分前のことだから。それに今後のことも考えて、俺の諸々は知っといてもらったほうがいいし。うちんち遺影も仏壇もなくてわかりにくいよなー。友達来たときに気まずいから置かなくなったんだ」
〈そう、か……。うん? 今後って何のことだ〉
「俺の体使うとき面倒がないように」
〈どういう……〉
「お兄ちゃーん!」
スマホと会話をしながら、我が妹光莉を真似て顔に色々と塗りたくって叩き込んでいると、リビングから声が掛かった。
「パン焼くー?」
「焼くー! 今行く!」
余裕のある朝、焼いたパンが食べられるのも悪くない。
