-24-
航琉くんが、ヘンだ。
周りと比べてどうこうではなく、いつもと様子が違うという意味で。
昨日はあんまり寝付けなくて、リクエストはなかったのに夜遅くまで『おはなし』をしていた。
子供の霊はずっと起きていたし、ヤミポンは気配が薄くて寝てるのか寝ていないのか分からなかったから、俺も限界まで喋ってしまっていた。
そして寝不足アンド髪型がキマってないアンド遅刻アンド声がちょっと不調。遅刻はよくやってたから気にしないけど、ここ最近は寝過ごしそうなときヤミポンが起こしてくれてたから、居なくなったわけじゃないのに『居なくなるとこうなるんだな』みたいな感じで落ち込む。
「昨日の、ことだけど」
通学中に声を掛けてみたら、返事だけはくれた。
〈覚えていない〉
それだけ。そこからは、だんまりだった。
多分、嘘だ。本当に覚えていないなら、何があったか聞くんじゃないか?
覚えていない、だから聞くな、聞いても答えない、という意味なのだろう。
何も、教えてくれない。
そして今、昼休み。
髪を直しにトイレに向かっていたら廊下で航琉くんとかち合った。
「燈、李さん……?」
目を大きく見開き、明らかに動揺した顔だ。
「あれ、メッセージ送れてなかったかな。髪整えてくるから、昼メシは大介と先に食べててくれる?」
声、不調。実は普段は男前なのがカッコイイと思って、地声として違和感がないくらいの低めを意識している。『おはなし』のときはドス効いちゃうと怖いから、やや高め意識。
昨日喋りすぎたからか、低めが出しにくい……。あんまカッコよくねぇなぁ……。
「わかり、ました……」
青ざめた顔をされてしまった。ちょびっと高いくらいでそこまでおかしな声じゃないと思うんだけどな。
「なんか、ヘン? あ、えーと、俺の声とか」
「いえ! ……ヘンじゃ、ないです」
なんか、ヘンだと思う。航琉くんの様子が。
とりあえず一旦は別れて髪を普段と同じクオリティにしてから教室に戻ると、いつも通り大介と航琉くんがくっつけた机を囲んで昼食をとっていた。
「髪、復活!」
「おかえりー」
俺も座って弁当を取り出す。
航琉くん、無言だし顔色悪い。メシも進んでない。
「ど、どうかした? 具合悪い?」
「い、え……大丈夫です」
「さっきからその調子で。飲み物は飲んでくれたんだけど、メシは微妙みたい。好き嫌いあったっけ?」
大介はモリモリと自分の弁当を食べている。
「ないです……」
「だよねぇ」
暗いけど会話はいつも通りっぽいな……?
「食べさせてやろうかなーと思ったんだけど、それは俺の役割じゃないだろ? ってことで燈李ヨロシク!」
「あっ、俺か。そうだよな。はい、あーん」
俺の弁当のおかずを箸に取り航琉くんの口元に運ぶと、ガタガタッと椅子から転げ落ちそうになるくらいビックリさせてしまった。
わぁ、青ざめてた顔が真っ赤。
「食べない?」
「食べ、ます……っ!」
恋バナ大好きな大介がニヤついてこっちを見ている。恋バナどころか人のイチャつきを見て楽しめるんだから、心が広い。
でもなんか、航琉くんがやっぱりヘンだ。いつもと違う。
「ラブコメみたいで良かったなー!」
昼休みは残り半分を過ぎていたので、航琉くんには後は自分で食べてもらって俺も自分の弁当を急ぎ気味に食べて解散した。
航琉くんはずっと様子がおかしかった。無言の無表情で俺のことをじっと見つめたかと思えば、目を逸らしたり、俯いて箸が止まったり。声掛けて促して完食してくれたけど、心ここに在らずって感じだった。
心ここに在らず何か別のことを考えているのかと思いきや、普段は昼休みが終わる五分前には教室に帰るのに今日は
「離れたく、ないです」
と、椅子から立ちあがろうとしない。そして表情筋の生命力が失われている。どうしたんだ、本当に。表情筋が動かないくらい他のことに意識が向いている? にしては俺のこと結構な頻度で見てくるんだよな……。
若人を非行に走らせるわけにはいかないのでいっそのこと俺が航琉くんの教室に行って一緒に授業を受けるか! と、提案したけど丁度そのとき教室に先生が早めに来てしまい、聞かれていて俺らの愛を引き裂かれた。つまり注意を受けて大人しく……表情筋動いてないから分かりにくかったけどおそらくションボリしながら、航琉くんは自分の教室へと帰って行った。
そこでさっきの大介の言葉に戻る。
大介は先程の俺の航琉くんへの食事介助をいたく気に入ったようだ。箸を持って食べ物を運ぶポーズをしている。
「ここにもラブコメ好きが一人居たか……」
「ん? あぁ、もう一人航琉くんだろ? 俺が勧めたんだよね。ラブコメ参考にするといいよって」
「お前かよ入れ知恵!」
王子様スマイルとか運命だとか、思えば最初の頃はやってこなかったもんな!
「燈李にとっても結構良いんじゃね? ラブコメな航琉くん」
「う……っ、まぁ、そりゃ……否定はしねぇけど……」
面白いよなー面白いこと教えたら面白いことしそう、と笑いながら言われたので、人の彼氏で遊ぶなよ……とツッコミを入れておく。でも正直、健康と生活に影響が出ない範囲なら段階を追いつつ色々やりたい気はあるから入れ知恵してもらって構わない気持ちはある。調子に乗られても困るけど。
「今日の航琉くん、この前のときみたいだったな」
「この前? いつ?」
無表情なのは"この前"というよりも"随分前"だ。あんなにも顔が固い航琉くんは久しぶりに見た。
「ほら、この前の三連休の後の何日か。あのときも航琉くん元気なさそうだったし、燈李はちょっとヘンだったし……」
チャイムが鳴って、先生には容赦なく授業を始められてしまった。
大介から詳しく聞きたかったけど、先生の目が厳しくて授業中に話すことは出来なかった。
航琉くんが、ヘンだ。
周りと比べてどうこうではなく、いつもと様子が違うという意味で。
昨日はあんまり寝付けなくて、リクエストはなかったのに夜遅くまで『おはなし』をしていた。
子供の霊はずっと起きていたし、ヤミポンは気配が薄くて寝てるのか寝ていないのか分からなかったから、俺も限界まで喋ってしまっていた。
そして寝不足アンド髪型がキマってないアンド遅刻アンド声がちょっと不調。遅刻はよくやってたから気にしないけど、ここ最近は寝過ごしそうなときヤミポンが起こしてくれてたから、居なくなったわけじゃないのに『居なくなるとこうなるんだな』みたいな感じで落ち込む。
「昨日の、ことだけど」
通学中に声を掛けてみたら、返事だけはくれた。
〈覚えていない〉
それだけ。そこからは、だんまりだった。
多分、嘘だ。本当に覚えていないなら、何があったか聞くんじゃないか?
覚えていない、だから聞くな、聞いても答えない、という意味なのだろう。
何も、教えてくれない。
そして今、昼休み。
髪を直しにトイレに向かっていたら廊下で航琉くんとかち合った。
「燈、李さん……?」
目を大きく見開き、明らかに動揺した顔だ。
「あれ、メッセージ送れてなかったかな。髪整えてくるから、昼メシは大介と先に食べててくれる?」
声、不調。実は普段は男前なのがカッコイイと思って、地声として違和感がないくらいの低めを意識している。『おはなし』のときはドス効いちゃうと怖いから、やや高め意識。
昨日喋りすぎたからか、低めが出しにくい……。あんまカッコよくねぇなぁ……。
「わかり、ました……」
青ざめた顔をされてしまった。ちょびっと高いくらいでそこまでおかしな声じゃないと思うんだけどな。
「なんか、ヘン? あ、えーと、俺の声とか」
「いえ! ……ヘンじゃ、ないです」
なんか、ヘンだと思う。航琉くんの様子が。
とりあえず一旦は別れて髪を普段と同じクオリティにしてから教室に戻ると、いつも通り大介と航琉くんがくっつけた机を囲んで昼食をとっていた。
「髪、復活!」
「おかえりー」
俺も座って弁当を取り出す。
航琉くん、無言だし顔色悪い。メシも進んでない。
「ど、どうかした? 具合悪い?」
「い、え……大丈夫です」
「さっきからその調子で。飲み物は飲んでくれたんだけど、メシは微妙みたい。好き嫌いあったっけ?」
大介はモリモリと自分の弁当を食べている。
「ないです……」
「だよねぇ」
暗いけど会話はいつも通りっぽいな……?
「食べさせてやろうかなーと思ったんだけど、それは俺の役割じゃないだろ? ってことで燈李ヨロシク!」
「あっ、俺か。そうだよな。はい、あーん」
俺の弁当のおかずを箸に取り航琉くんの口元に運ぶと、ガタガタッと椅子から転げ落ちそうになるくらいビックリさせてしまった。
わぁ、青ざめてた顔が真っ赤。
「食べない?」
「食べ、ます……っ!」
恋バナ大好きな大介がニヤついてこっちを見ている。恋バナどころか人のイチャつきを見て楽しめるんだから、心が広い。
でもなんか、航琉くんがやっぱりヘンだ。いつもと違う。
「ラブコメみたいで良かったなー!」
昼休みは残り半分を過ぎていたので、航琉くんには後は自分で食べてもらって俺も自分の弁当を急ぎ気味に食べて解散した。
航琉くんはずっと様子がおかしかった。無言の無表情で俺のことをじっと見つめたかと思えば、目を逸らしたり、俯いて箸が止まったり。声掛けて促して完食してくれたけど、心ここに在らずって感じだった。
心ここに在らず何か別のことを考えているのかと思いきや、普段は昼休みが終わる五分前には教室に帰るのに今日は
「離れたく、ないです」
と、椅子から立ちあがろうとしない。そして表情筋の生命力が失われている。どうしたんだ、本当に。表情筋が動かないくらい他のことに意識が向いている? にしては俺のこと結構な頻度で見てくるんだよな……。
若人を非行に走らせるわけにはいかないのでいっそのこと俺が航琉くんの教室に行って一緒に授業を受けるか! と、提案したけど丁度そのとき教室に先生が早めに来てしまい、聞かれていて俺らの愛を引き裂かれた。つまり注意を受けて大人しく……表情筋動いてないから分かりにくかったけどおそらくションボリしながら、航琉くんは自分の教室へと帰って行った。
そこでさっきの大介の言葉に戻る。
大介は先程の俺の航琉くんへの食事介助をいたく気に入ったようだ。箸を持って食べ物を運ぶポーズをしている。
「ここにもラブコメ好きが一人居たか……」
「ん? あぁ、もう一人航琉くんだろ? 俺が勧めたんだよね。ラブコメ参考にするといいよって」
「お前かよ入れ知恵!」
王子様スマイルとか運命だとか、思えば最初の頃はやってこなかったもんな!
「燈李にとっても結構良いんじゃね? ラブコメな航琉くん」
「う……っ、まぁ、そりゃ……否定はしねぇけど……」
面白いよなー面白いこと教えたら面白いことしそう、と笑いながら言われたので、人の彼氏で遊ぶなよ……とツッコミを入れておく。でも正直、健康と生活に影響が出ない範囲なら段階を追いつつ色々やりたい気はあるから入れ知恵してもらって構わない気持ちはある。調子に乗られても困るけど。
「今日の航琉くん、この前のときみたいだったな」
「この前? いつ?」
無表情なのは"この前"というよりも"随分前"だ。あんなにも顔が固い航琉くんは久しぶりに見た。
「ほら、この前の三連休の後の何日か。あのときも航琉くん元気なさそうだったし、燈李はちょっとヘンだったし……」
チャイムが鳴って、先生には容赦なく授業を始められてしまった。
大介から詳しく聞きたかったけど、先生の目が厳しくて授業中に話すことは出来なかった。
