憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

 ヤミポンはまずは本を手に取らず、館内を見て周るつもりみたいだ。
 歴史の棚と文学の棚の背表紙を見てから、新着のコーナーと特設コーナーへ。飾られている本の表紙を眺めて、それから図書館の雰囲気を感じるように館内全体を歩き、またこの階に戻ってきた。
 初めのうちは緊張感があったけど、本当に図書館が好きみたいだ。ここに居るだけで幸せが全身に漲る感覚がある。特に豪奢な内装でもないし、やっぱり俺にはただ本が沢山あるだけにしか思えないから、それに反して心臓が高鳴って顔が綻ぶのは不思議な感じだ。ほっぺたがポカポカしているのもわかる。見たかったなー、顔。俺の顔だけど。
 絵本コーナーを通り過ぎようとして足が止まったとき、暖かなものが胸に広がるのも感じた。手に取ったり、わかりやすく視線を向けたりしてくれればどの本に興味があるか分かったんだけど、そういうことはしてくれなかった。おはなしのレパートリーは俺の好みで増量するしかないか。今度近所の図書館に行ってみよう。ヤミポン喜ぶかもしれないし。
 子供の霊に距離の制限はないようで、絵本コーナーに留まっていた。佇んでいるだけで本を触ろうとはしない。読み聞かせ、してやりたいな……今度、絵本を借りてウチでやろう。
 ヤミポンは子供の霊が近くに居ないことに対して普段なら「せいせいする」くらいは言いそうだけど、館内に夢中になって気付いていないようだった。子供の霊にも、そして最初は気にしていた後ろをついていく航琉くんのことも今となっては見向きもせず、ゆったりと再び訪れた歴史の棚の間を歩いている。
 ぎこちなかった足取りと呼吸は、時間と共にいつの間にかヤミポン自身が自分の体を扱ってるみたいに自然な動きになっていた。
 一周目の、ざっと目を通すような歩き方ではなく、止まったり歩いたりしながら背表紙の文字を視線で追う。

 読んだことのない本がずらりと並んでいる。
 発見との出会い、選択の自由、どこかへ繋がる扉。そのうちの一冊に、手を伸ばす。
 無骨な手。
 女のようなか細いものとは違う。
 この手は……この体は、自分のものではない。
 自ら捨てておきながら、今更何を。
「わっ、ヤミポンさん? どこへ……」
「出る。もう充分だ」
 出たところで、向かう所もない。とにかくここに居たくなかった。
 五歩後ろをついてくる気配も煩わしい。
 この体の温度さえ、気分が悪い。