憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

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 スミスズさんに関しては在校生に聞いてもわからない人ばかりだった。既に卒業していて後輩と関わりがなかったのなら、当然と言える。
 先生達にも聞いてみたけど、進路や住所は個人情報保護の観点から教えることは出来ないと言われてしまった。当時の担任も既に他の学校に行っていて、どういった性格をしていてどのように変化したのかは分からなかった。
 学科を受け持った先生達はいるけど彼は先生に心を開くような生徒ではなく、授業中も目立たなかったそうだ。成績は良かったし多少の髪型や服装の変化は高校生なら普通のことで、気に留めていなかった、と。
 部活動には入っていなかった。ただ、彼が時折美術部の部室に入っていく姿を複数の先生が見ている。だからといって今いる美術部部員に聞いても、誰も何も知らなかった。

「プールの閉鎖時期に泳ぐ幽霊、美術室の目が動く石膏像、図書室に居る子供の霊、家庭科準備室の手縫いの人形が動く……」
 ヤミポンが俺とやりとりをしてもしなくても状況は変わらず俺の体から離れられないようで、大金を掛けて本物かどうかもわからない除霊師とやらに会いに行くよりはとりあえず手近な七不思議に挑んでその願いとして叶える方向に決まり、改めてどの場所に行くか検討中だ。
「それらも燈李さんが言い出しっぺなんですか?」
「いんや、この辺りは全部人づてに聞いた話だよ。ピアノの霊もだし、鏡の妙な現象も。何人かが言ってることだから、信憑性……集団パニックってやつで不思議な現象を見ちゃう確率の高い場所なのかなと思ってる」
〈石膏像の目が動く……だから何なんだ? 随分と下らないな〉
 ヤミポンが不機嫌そうな合成音声で聞いてくる。
「だから何と言われちゃうと他も全部そうなるから、こういうのツッコミ厳禁だ。七不思議、あくまで不思議な出来事の噂なんだから」
〈見間違えだろ。不思議でもなんでもない。他にいくらでも行くべき不思議な場所があるんじゃないのか。花壇に死体が埋まってるとか、誰もいない体育館でボールが跳ねる音がするとか、足だけの霊がグラウンドを走っているとか〉
「それ全部俺が一年のときに広めたやつだ」
 ――……チッ
 聞こえたぞ。舌打ち。 
「……ヤミポン、美術室の像が怖いの?」
〈は? どうやって怖がれと言うんだ目が動くくらいで。不思議さの度合いにおいては僕のほうが格上だ〉
 そこ張り合うのか……。格上なのはいいとして、やっぱり不機嫌そうに見える。ヤミポンの輪郭は腕を組んでそっぽを向いている。子供の霊は近くには居るけど、相変わらず輪郭はぼんやりとしていて、そこに居ることだけしかわからない。
 航琉くんにはヤミポンや子供の霊の透明な輪郭は見えていないようで、ヤミポンが話す間はスマホをじっと見つめていた。
「前から思っていましたが、綺麗……ですね、そのストラップ」
 T.Aのサインの入った、夕焼けか朝焼けかの絵を写真に撮ったストラップはなんだかんだ俺のスマホに馴染んでいる。
「あぁ、これ? ご自由に持っていっていい古い落とし物入れにあったのを大介が貰って、俺に渡ってきたやつ。ヤミポンは好みじゃないんだっけ」
〈見せるな。趣味が悪いとすら思うよ。それで、家庭科準備室の人形も特に曰く無しか?〉
 プールの霊、図書室の子供の霊、美術室の石膏像、いずれも『見た』という噂があるだけで、ピアノの霊のようなエピソードは聞かない。
「人形は曰くアリ。噂いわく、孤独な生徒が友達として人形を作り大切に扱った。人形には魂が宿った。けど、その生徒には人間の友達が出来て人形は置いて行かれ、魂の宿った人形は造り主を求めて動く……とかなんとか」
〈学校以外の場所でも可能な怪談話だな。そしてありきたりだ〉
 まぁそうだと思う。でも噂なんだからしょうがない。
「ちょっと可哀想ですね、そのお人形さん」
〈殺してやったほうがいいかもな〉
 はい? なんでそうなる?
「八つ裂きとかですか?」
〈航琉くんは話が早い。これが燈李なら『なんで』と言い出すところだ〉
「言い出すよ。なんでそうなるんだよ?」
 航琉くんが顎に手をあて、少し考えてから説明を始める。
「捨てられたわけですよね。そのお人形さんは」
「まぁ、そうだと思う」
〈造り主が不要になったんだ。一緒に生きていくことは叶わない。かといって自分でどこにも行けない。人形だからな。永遠に家庭科準備室に留まる……考えただけでもぞっとする〉
「それにしたって八つ裂きはちょっと……」
「分かりやすいと思ったのですが、だめでしたか」
「シュミが悪くない……?」
〈絞殺や撲殺は不可能じゃないか? 人形側からしても死んだ気分になれるのは八つ裂きが手っ取り早そうだがな〉
「死んだ気分って……死んだ気分になったら、死んだことになるの?」
 そんな話をしながら、俺達は今プールに向かっている。
 プールと美術室と図書室に関しては部活動の終了時刻頃に見たという証言が多かった。今は夕方、十月中ば。プールの入り口は閉鎖中。勿論簡単な南京錠は俺に通用しない。屋上と同じタイプだ。これならちょっとした道具と技術があれば……。
 ……屋上、か。
〈おい?〉
「どうかしましたか?」
 鞄に手を入れたまま、動きを止めてしまっていた。
「あ、えーと」
 屋上で、俺達は出会った。
 屋上で願いが叶うなら、そこでヤミポンが俺から解放されるなら、俺はヤミポンを屋上に置いていくことになるのか。
「……今日は、やめにしない?」
〈は? ここまで来ておいて何を〉
「道具! 忘れちゃって。開けられないから」
「わかりました。解散ですか?」
 こういうとき、航琉くんの素直さには助けられている。相当嫌なことではない限り、責めたり質問したりせずそのまま了承してくれる。
「そう、だね。そうしよう」
〈……〉
 腕組みをした透明な輪郭に、じっと見つめられている感覚はあった。
 道具を家に置いているところを見たことがない、鞄の奥を探せばあるんじゃないか、本当に忘れたなら一旦帰って再集合したらどうか……うんぬん、言いたそうなことは思い付く。言われたら上手く躱す気でいたけど、それも見透かされていそうだ。
 後ろめたさもあってチラリと様子を伺ってみると、ヤミポンは煙が空気に溶けるみたいに姿を消した。
 俺の中に戻ったのだろう。ヤミポンは会話の必要性がないと判断したらしいときは姿を消す。
 最近、こういう消え方が多い。
 以前は夜に俺の部屋で呼びかけるとどこかから出てきてくれていて、駄弁って適当なところで電気を消して寝て、いつの間にか姿が見えなくなっているのが殆どだった。今も夜はそうだ。
 学校では航琉くんも交えて会話をするからか、呼ばれて出てきて、要件が終わるとフッと消える。
 俺はその消える瞬間が好きじゃない。今のもだ。見たくないものを見てしまった。
「燈李さん? どうかしましたか」
「……どうもしてないよ。帰ろう」
「? はい」
 こういうときも、航琉くんに助けられていると思う。わざわざ言うことでもないし、あんまり深く追求されたくもなかった。少し首を傾げて、ただ居てくれる。
「航琉くん、動物っぽいところあるよなー……」
「マロちゃんと育っていますからね」
 マロちゃんか。航琉くん家の小さめのわんこ。似てるっちゃ似てるかなぁ?
「両親からは時々マロちゃんのほうが人間的だと言われます」
「嘘ぉ!?」
「ふふ」
 あ、笑った。
 航琉くんの笑顔は今ではもう珍しいものじゃないけれど、見ると胸のあたりから暖かな鼓動が広がっていく感覚がする。
 好きだなぁ……。
 そう、言えたらいいんだけど。口に出すのが難しいまま、状態は付き合う前とそんなに変わってはいない。