「燈李、ほんとにどうしちゃったの?」
昼休み。大介が心配と憧れを込めて話しかけてくる。
俺の体はというと、いまだに俺の名前で呼ばれることに慣れていないようで数秒遅れて反応した。
「僕は……」
「それ! その『僕』もだし、服装もだし、勉強出来るし、アホなこと言わないし! 光莉ちゃんも気にしてるって大地が言ってたよ」
光莉は俺の妹、大地とは大介の弟で光莉の同級生だ。
俺の中の人は嘆き始めた大介に気圧されている。
「『冬角燈李です! フユツノとかフユスミじゃなくてフユカドっす! 冬にタンスのカドにぶつかると痛い! って覚えてもらって、トモリはそのまま覚えてくれ!』って自己紹介したテキトーっぷりはどこ行ったんだよぉ!!」
「え、えーと」
そうそう、大介はそれで『トモリ、名前覚えたぜ!』って話しかけてくれて仲良くなったんだ。ノリも合うし良いやつで、最高のダチなのだ。だから俺の中の人も仲良くすれば良いのにと思うけど、
「うーん、ちょっとした二重人格?」
なんて雑にかわそうとする。
「えぇ……?」
ほら、大介困っちゃったじゃん。
「もしかして、あれのこと? あの後輩くんの好みからやんわり外れようとしてる、とか」
"あれ"と示された方向、教室の出入り口にそいつは来ていた。
仮に俺の中の人を屋上に居た怪異とすると、そいつはもっと怪異だと思う。怪異突然告白美形野郎。あのとき屋上に居た、顔の整った後輩だ。
あのときの俺は平成ファッションだったから、少なくともこのクラスの連中よりはセンスがあるけど俺のファッションに惚れたわけではないだろう。
「こんにちは」
顔の整ったそいつは整った声でそう言いながら顔の整ったまま俺の席の近くに来る。整ったまま、というのは眉一つ動かしていないという意味だ。彫刻みたいに全く歪みがない。
――「僕は花芽木航琉、はなめきわたるです」――
屋上での告白の後自己紹介をされたが俺の中の人はそそくさとその場を離れ、俺の生徒手帳で住所を確認し自宅に帰り、スケジュール帳を見て時間通りにバイトに行き、真面目に仕事をし、帰り道で荷物の多い高齢者を助け、家に着いて行儀良く食事をし、きちんと翌日の予習をして何事もなかったかのように寝た。
はなめきわたる……キラメキが冴え渡ってそうな名前だけど、キラキラってよりもスンッて感じだ。
白い肌、サラッとした黒髪、黒猫みたいな目力の瞳、均衡の取れた体格……。
なんと座高が低いから屋上のあのとき背が低めに見えただけで、俺よりも割と背が高い。一緒に起立着席したくないタイプだ。
「好きです」
この見た目でそれを言われたら老若男女問わずどうにかなっちゃいそうだが、俺の中の人は
「どうも」
と笑顔でかわす。毎度のことながら尊敬するよ……。そう、毎度この後輩、航琉くんは休日を除き一週間毎日昼休みに訪れては人前で告白してくるのだ。眉一つ動かさず。
「恋人として交際を申し込みたいです」
航琉くんは淡々と続ける。
「貴方のことをご友人知人の方々から伺いました。変身ヒーローが好き、七不思議に挑んでいる。それらジャンルを僕は学び始めています。色々とお話しも出来ると思います。恋人になりませんか」
「うーん、僕のほうからは解答致しかねるかな……」
「なぜですか」
「それもコメントは控えさせていただくよ」
「では友人関係から」
「前にも言ったよね。恋人は要らないし、友達はもっと要らない」
なぁ、中の人よ。それはちょっと可哀想なんじゃないか。
出会いがいくらドラマチックでも、そこからの交流がダメダメならダメダメだろ。友達にくらい、なってもいいのに。
航琉くんは顔には出ないけど、多分毎度落ち込んでる。動きがピタリと止まっている。
「そうですか」
声色は変わらないけど、ほんの少し肩を落として教室を出ていく。
ごめんな、コイツきっと鈍感なんだ。オシャレな俺は航琉くんが毎日きちんと髪や眉を整えて来ていることがわかる。日々上達もしてる。
屋上で会ったときはそうじゃなかったから、航琉くんは俺の中の人に好きになってもらおうと頑張っているんだ。
共通の話題だって考えてきてくれている。とはいえ変身ヒーローはちゃんと平成に限定して学んでくれているのか……そもそも中の人は変身ヒーローに興味があるのか?
「友達くらい、なってやったらいいのに」
航琉くんの背中を見送った大介がそう言いながら俺を見て、怯えた顔で固まった。
「……要らない」
とても冷たい声だった。俺自身も俺の体の声だと気付くのに、時間が掛かってしまったくらいだ。
チャイムの音がし、昼休みが終わる。
大介は気まずそうに黒板のほうに向き、俺の体は一瞬呼び止めようとする手の動きをしたから、中の人はマズイことを言ったってくらいは分かったらしい。
昼休み。大介が心配と憧れを込めて話しかけてくる。
俺の体はというと、いまだに俺の名前で呼ばれることに慣れていないようで数秒遅れて反応した。
「僕は……」
「それ! その『僕』もだし、服装もだし、勉強出来るし、アホなこと言わないし! 光莉ちゃんも気にしてるって大地が言ってたよ」
光莉は俺の妹、大地とは大介の弟で光莉の同級生だ。
俺の中の人は嘆き始めた大介に気圧されている。
「『冬角燈李です! フユツノとかフユスミじゃなくてフユカドっす! 冬にタンスのカドにぶつかると痛い! って覚えてもらって、トモリはそのまま覚えてくれ!』って自己紹介したテキトーっぷりはどこ行ったんだよぉ!!」
「え、えーと」
そうそう、大介はそれで『トモリ、名前覚えたぜ!』って話しかけてくれて仲良くなったんだ。ノリも合うし良いやつで、最高のダチなのだ。だから俺の中の人も仲良くすれば良いのにと思うけど、
「うーん、ちょっとした二重人格?」
なんて雑にかわそうとする。
「えぇ……?」
ほら、大介困っちゃったじゃん。
「もしかして、あれのこと? あの後輩くんの好みからやんわり外れようとしてる、とか」
"あれ"と示された方向、教室の出入り口にそいつは来ていた。
仮に俺の中の人を屋上に居た怪異とすると、そいつはもっと怪異だと思う。怪異突然告白美形野郎。あのとき屋上に居た、顔の整った後輩だ。
あのときの俺は平成ファッションだったから、少なくともこのクラスの連中よりはセンスがあるけど俺のファッションに惚れたわけではないだろう。
「こんにちは」
顔の整ったそいつは整った声でそう言いながら顔の整ったまま俺の席の近くに来る。整ったまま、というのは眉一つ動かしていないという意味だ。彫刻みたいに全く歪みがない。
――「僕は花芽木航琉、はなめきわたるです」――
屋上での告白の後自己紹介をされたが俺の中の人はそそくさとその場を離れ、俺の生徒手帳で住所を確認し自宅に帰り、スケジュール帳を見て時間通りにバイトに行き、真面目に仕事をし、帰り道で荷物の多い高齢者を助け、家に着いて行儀良く食事をし、きちんと翌日の予習をして何事もなかったかのように寝た。
はなめきわたる……キラメキが冴え渡ってそうな名前だけど、キラキラってよりもスンッて感じだ。
白い肌、サラッとした黒髪、黒猫みたいな目力の瞳、均衡の取れた体格……。
なんと座高が低いから屋上のあのとき背が低めに見えただけで、俺よりも割と背が高い。一緒に起立着席したくないタイプだ。
「好きです」
この見た目でそれを言われたら老若男女問わずどうにかなっちゃいそうだが、俺の中の人は
「どうも」
と笑顔でかわす。毎度のことながら尊敬するよ……。そう、毎度この後輩、航琉くんは休日を除き一週間毎日昼休みに訪れては人前で告白してくるのだ。眉一つ動かさず。
「恋人として交際を申し込みたいです」
航琉くんは淡々と続ける。
「貴方のことをご友人知人の方々から伺いました。変身ヒーローが好き、七不思議に挑んでいる。それらジャンルを僕は学び始めています。色々とお話しも出来ると思います。恋人になりませんか」
「うーん、僕のほうからは解答致しかねるかな……」
「なぜですか」
「それもコメントは控えさせていただくよ」
「では友人関係から」
「前にも言ったよね。恋人は要らないし、友達はもっと要らない」
なぁ、中の人よ。それはちょっと可哀想なんじゃないか。
出会いがいくらドラマチックでも、そこからの交流がダメダメならダメダメだろ。友達にくらい、なってもいいのに。
航琉くんは顔には出ないけど、多分毎度落ち込んでる。動きがピタリと止まっている。
「そうですか」
声色は変わらないけど、ほんの少し肩を落として教室を出ていく。
ごめんな、コイツきっと鈍感なんだ。オシャレな俺は航琉くんが毎日きちんと髪や眉を整えて来ていることがわかる。日々上達もしてる。
屋上で会ったときはそうじゃなかったから、航琉くんは俺の中の人に好きになってもらおうと頑張っているんだ。
共通の話題だって考えてきてくれている。とはいえ変身ヒーローはちゃんと平成に限定して学んでくれているのか……そもそも中の人は変身ヒーローに興味があるのか?
「友達くらい、なってやったらいいのに」
航琉くんの背中を見送った大介がそう言いながら俺を見て、怯えた顔で固まった。
「……要らない」
とても冷たい声だった。俺自身も俺の体の声だと気付くのに、時間が掛かってしまったくらいだ。
チャイムの音がし、昼休みが終わる。
大介は気まずそうに黒板のほうに向き、俺の体は一瞬呼び止めようとする手の動きをしたから、中の人はマズイことを言ったってくらいは分かったらしい。
