憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

‐20‐
「僕も七不思議を追おうと思います。燈李さんが辛くない方法を見つけることを、願いにします」
 翌日の放課後の中庭。夕焼けのオレンジ色が校舎の窓々に注がれている。
 俺とヤミポンと航琉くんで話しているとき、航琉くんはそう言った。
 けど一旦、その数十分前に遡る。
 恋人宣言のことを考え、話の流れのムードとか必要か? とか、場所はどうなんだ? とか、流石に人前はちょっとなぁ、とか思い、昼休みは通常通りに過ごし、放課後中庭に航琉くんを呼び出して、どうやって話を切り出せばいいんだ? と俺が悩んでいたときに、
〈コイツはタイミングを見計らいすぎて流している〉
 と、ヤミポンが言い出した。
「なるほど……?」
 と、航琉くん。
〈その場の空気なんてものはこの際気にしている場合じゃないだろう。十中八九、彼は気にしないぞ〉
「僕ですか? その場の空気を分かったことがないです」
 だろうなぁ……。
「……ヤミポンと航琉くんフツーに喋ってるけど、説明は要らないカンジ?」
「あの後少し話しました。幽霊さんですよね」
〈あぁ。で、だ。さっさと済ませろ。モジモジしてたら老人になる〉
「そんなに長い間モジモジする気はない……とは言い切れない……うぐぐ……」
「待ちます」
〈待たせすぎだろ〉
「待たせるのは、申し訳ないから……! その、ほんと、ごめん、ロマンチックな言い方も出来ないし、色々やっぱ怖い部分はあるし、航琉くんが怖いわけじゃなくてその、昨日の、アレコレなカンジの、」
〈御託が長い!〉
「ヤミポンのが移った気がする!」
〈はぁぁ?〉
「だからっ! 航琉くん!!」
「はい!」
「恋人として、よろしくお願いいたします……」
 半分ヤケクソ、半分照れで、俺は顔が熱いのを感じたまま、お辞儀をして右手を差し出した。
「はいっ!」
 航琉くんは俺の右手を両手で包み込むように握った。チラと様子を伺ってみれば、ニコニコと幸せそうにされている。
 だから、幸せそうにされると嬉しくなっちゃうんだって……独り占め、したいとも思うしさぁ!
 とりあえず元気なときはしんどくないし、父さんのことを思い出すよりも今の幸せのほうが勝つし、慣れていくしかない……。
 好きだと言ったら、どんな顔をしてくれるんだろう。
 いつか、今までもらった気持ちを言葉にしてちゃんと返せるようになりたい。
「いつか、言えるようになるから……いつも言ってくれてた、言葉を」
「? 好きです? あ、言って、大丈夫ですか……?」
 今は言われて嬉しいほうが勝っちゃうなぁ……。
「そっちから言ってもらうぶんには大丈夫。言われてしんどいときは言う」
「わかりました。他に、恋人としてNGな行動はありますか。18禁は18歳になってから、は覚えています」
「そうだなぁ。それはそのまま継続するとして、航琉くんはやらないとは思うけど、いきなり抱きつくとかは今のところダメにしとこう。俺は問題ないけどヤミポンが嫌だろ」
〈正直握手も嫌だが、不本意ながらキミの体を間借りしている身だ。譲歩は出来る〉
「わかりました」
〈握手や抱擁以外であっても身体の接触は避けたい。僕は彼が嫌いだ〉
「えっ……」
「なんで?」
〈毎日毎日白昼堂々人前で告白されて好印象を抱けるか?〉
「俺は正々堂々としてて天晴れだと思ってたけど。面倒向かってキライとか言うほうが印象は良くない。航琉くん落ち込むだろ」
「いえ、その……」
「明らかにションボリしちゃっているのくらい、わかるぞ」
「……前は燈李さん以外の誰に嫌われようがどうでも良かったのですが……今は、そうですね……ヤミポンさんとも仲良くなれればと思っていたので……落ち込んでいます……」
〈……〉
 ヤミポンの透明な輪郭が腕を組んでうなっているように見えた。罪悪感にかられていそうな雰囲気だ。
〈……言葉の、アヤだ。燈李、僕は彼のことを恋愛的に好きになることはないから安心してくれ、という意味も込めた配慮のつもりだった。言葉を間違えた。……すまない〉
 ヤミポンは俺の名前を呼ぶようになって、友達っぽいな〜! と嬉しいけど、そう言うときっと『会話相手が増えて識別が必要なだけだ。名前にそれ以下も以上もない』とか言いそうだから黙っておいた。
 二人が和解したところで、現在に戻る。
 七不思議に関しては、俺は言わなきゃならないことがあるんだ。
「あの、さ。七不思議のことなんだけど……追い詰められてから告白するようなことじゃないから今言うんだけど、噂の出所は俺なんだ」
「えっ」
〈は?〉
 うーん、いたたまれない気持ち。
「集団パニックについては知ってた。それで、噂を信じる人が増えれば不思議な出来事が起こるんじゃないかと思って……不思議な出来事が起これば、幽霊の父さんだって居るかもしれないだろ? 今思うと突拍子もない発想だけどさ……会えたらと思って……」
「そう、だったんですね」
「だから、願いは叶わない。俺の創作話だから」
「でも」
〈今までの七不思議二箇所は僕達の妄想だと? 僕の存在は? キミ達の幻聴か?〉
「それは……だいぶ、かなり希望なんだよな……ヤミポンは明らかに俺の想像の範疇を超えた知識を持ってるから、妄想にしてはちょっと賢すぎるというか」
〈何度も言っているが、僕はキミの心が生み出した幻覚でも副人格でもない。それとずっと言おうと思っていたが僕を示して『二重人格』と呼ぶのは合ってない。二重人格は人格が二つある状態を表すもので、便宜上片方の人格としている僕のことは交代人格とか副人格とか〉
「賑やかだなー。通話?」
 ヤミポンが訥々と説明をしているとき、大介が中庭を通り掛かった。遥さんとゴミ拾いデート、つまり生徒会活動の手伝いの最中だったようだ。
「これ俺の二重人格。交代人格?」
〈はっ?〉
「へー。ハイテクな二重人格だ」
 大介は俺の扱いに慣れている。
〈凄い流し方をしたな……〉
「燈李と友達やってっとね、わかんない部分はある程度流さないと話が脱線して迷子になって事故るから……」
〈脱線して迷子……あの触手プレイの流れか……〉
「触手プレイの話は盛り上がったなー! どっから脱線した話題だったか忘れたけど。俺は触手になりたい側。水槽で遥ちゃんに管理されんの」
「俺は触手に奉仕されたい側だなー」
〈これは話の脱線事故じゃないのか? ドン引きだ。どう思う、カレピッピは〉
「触手プレイ……頑張ります」
〈まともなのは僕だけか?〉
「大介くーん! こっち来られるー?」
「今行くー! んじゃね! あっ! カレピッピ? おめでとー!」
 大介は颯爽と遥さんのほうへ走って行く。振り返って俺と航琉くんを見て祝福されたので、
「さんきゅー!」
 と、俺も手を振って見送った。航琉くんも「ありがとうございます!」と大きな声で嬉しそうに返事をしている。
「……願いを叶えた人が居ると、噂に聞いたことがあります」
 大介が去ってから少しして、航琉くんが言った。
「え」
「これも出所は燈李さんですか?」
「いや、違う。初めて聞いた。でも尾鰭はひれだと思うよ。噂だし、七不思議だって俺の知らないものも沢山出てきてる」
「探してみる価値はあると思います」
〈ナァナァになってるけど、僕がここから離れる方法もそろそろ探してもらわないと。願いが叶ううわさが本当なら、これも七不思議が叶えてくれるかもしれないな〉
 やっぱり、ヤミポンが離れる方法を探さなくちゃならないか……。
 俺はとりあえず、頷いておく。
「それと……」
 航琉くんはスマホを出しながら、話を続けた。
「これは噂ではなく証言です。ここ数日何人かに聞いて回ったり、メッセージでやりとりをしたりして調べました」
「?」
 何のことだろう。
「去年の春、曇りの寒い日の屋上の人影。目撃者がいます」
「えっ……」
「去年の桜の時期の、曇りの寒い日は限られています。校庭を使っていた当時の2年と3年の野球部員が見ていたそうです。当時の2年、つまり今の3年生は非常階段を降りてきた人物の顔しか覚えていませんでしたが、その先輩の卒業生に連絡を取ってもらい、誰なのかも分かりました。卒業生と同学年の当時の3年、今は進学していれば大学や専門学校1年にあたる年齢の『確かスミスズって苗字だったと思う』と。男性だそうです。もう一人、一緒に降りてきた人がいたそうですがあまり印象に残る顔ではなく覚えていないと。こちらも男性だったとのことです」
「スミスズ……」
「生きています。燈李さんが助けられなかったのは事実かもしれませんが、彼が助からなかったわけじゃない」
 ――生きている?
「そっ、か……」
 本当に? じゃあ落ちて見えたのは?
 本当に、彼は助かったのか?
「スミスズさんの卒業後の進路まではわかりませんでした。野球部の卒業生も親しかったわけではなく、名前と顔が一致する程度だと。ただ、彼も七不思議を追っていたという噂があり、その前後では人が変わったように服装が変化したそうです」
「ホラーなことに遭遇すると正気を失うとか豹変するとかはよくある定番だ。それも俺が流した七不思議の噂話だよ……」
 俺は目眩がしそうになって、額に手を当てた。情報量が多すぎる。
 願いは本当に叶う? 屋上には本当に人が居た? その人物は生きていて、七不思議を追っていて、豹変してる? 
〈……〉
 ――う、う、う
 子供が、泣いている。空耳と間違うくらい微かな声だ。航琉くんには聞こえていない。
「卒業アルバムの写真を送ってくれました。こちらです」
 俺は見せられたスマホの画面を覗き込む。
「スミスズ……あきら? さとる……?」
『墨涼 暁』、カメラを睨むような目付きの生徒の写真の下には、そう名前が記載されていた。