憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

-19-
 ーー「燈李さんが、沢山居たらいいのに」ーー
 ……確かに……浮気は嫌で唯一無二が怖いなら、それは一番理想かもしれない……。
 夢の中でその光景が見られたら、俺は幸せと思うだろうか……。
 そんなことを思いながら、俺は眠りへと落ちていた。
 そして妙な夢をみる。

 何もない空間。
 色の付いた液体の入る、大きなボトルを持っている。
 液体はオレンジジュースに似ているけど、これはジュースじゃない。疲れたら減るし、寝たり食べたりして元気になれば元の量に戻るもの。
 周りを見渡す。
 何人かの、人がいる。
 その人達のボトルの液体が少なくなっていた。
 誰かが俺のボトルからその人達のボトルに液体を注いていく。
 その人達のボトルの中身は、違う色をしていたけどいいのかな……。

 ーーいたい
 ーーいたいよぅ……
「ん……」
〈起こしたか〉
「いや、普通に尿意」
 夜中、ふと目が覚めると子供の霊の泣く声が聞こえた。良かった。泣いてるのは心配だけど、居ることはわかった。
 一旦トイレに行く。ちなみにトイレ中ヤミポンは俺の体から出てなるだけ遠く……といってもドアの外ギリギリくらいだけど……に待機している。
「出してきた。航琉くんは……俺の幻覚だった?」
〈キミの母君が車で送って行った。『噂のカレピッピね!?』『カレピッピでは、ないと思います』『両想いなんでしょ?』『おそらく』『じゃあカレピッピだ』などという会話をしていたよ〉
「あー……うん……」
 母さんと航琉くんがしそうな会話だ……。
〈カレピッピなのか否か、半端な状態では彼を不安にさせるんじゃないか。さっきの僕と同じように、言葉に抵抗があっても状況を認めることはできるだろ。何なら友情関係よりも恋愛関係のほうがハッキリさせておいたほうが良い。友情は言葉にすると胡散臭いが、恋愛は言葉にしたほうが良い……とは思う。一応〉
 なんか歯切れが悪いな。
「胡散臭い?」
〈主題はそこじゃない。恋人なのか否かくらい、言っておいてやれ。終わりにするにも前に進むにも行かなくなるだろう〉
「……こんなんで、恋人になっていいもんかね」
〈『……と、言っているぞ』とメッセージ〉
「あ、おい!」
〈送っておいた〉
 即座にスマホの通知音が鳴った。夜中なのに。寝ててくれよ。
 通知画面には
『勿論良いです』
 と表示されている。
「ハァ〜〜……もう……」
 メッセージで、しかも人づてで済ませるなんて……こんな大事なことを……不覚だ……。
『明日ちゃんと、恋人としてよろしくって言うから。おやすみ』
 己の不覚さに不甲斐なさへの憤りから勢いでそう送って、送った後に明日言わなきゃならないのか……と気付いて頭を抱えた。言いたくないとかではなく、単純に恥じらいがある。
「ああ〜〜〜……」
〈何を悶えているんだ?〉
「いや、なんか、こう……ぐぬぬ……」
 ーーよかった
「……?」
 今聞こえた声が子供のものなのかヤミポンのものなのか、聞き間違えようもないはずなのに、分からなかった。
「そういやヤミポンも起きてたの?」
〈なんとなく、な〉
 心配してくれてるんだろうな。透明な輪郭の子供の霊も、俺の様子を伺っている気がする。申し訳ない気持ちだけど、友達宣言をさせちゃったのでその心配は有り難く受け取っておこう。
 そう思いながら俺が黙っていたら、心配をかけたことに対して罪悪感を抱いていると思われたのかもしれない。寝ていないことを取り繕う口調でヤミポンは言った。
〈元々、不眠症のきらいがあるんだ〉
「えっ」
〈屋上では寝ていたというよりも意識が無いに近い状態だった。キミの体に入ってからは、生きてた頃と同じだ。眠るのは得意じゃない〉
「生きてた頃……」
〈僕は幽霊だ。忘れたのか?〉
「忘れてないけど……」
 生きていた頃。つまり今は死んでいるというのを意識すると、悲しい気持ちにはなる。今、生きてるみたいに話してるのに、死というのは本来なら二度と会えないということだから、いつそうなってもおかしくない気がして、悲しい。
〈キミの……〉
 ーーおはなし……
「ん?」
〈……いい。子供優先だ。そうだろ?〉
「おはなしはするけど、えーと、ちょっと待っててな。ヤミポンの話もちゃんも聞きたい」
 俺は子供の霊のいるほうを向いて、少し待つように頼んでからヤミポンのほうを向く。
 俺と同じくらいの背丈の、透明な輪郭だ。死んだのは、同じくらいの年齢の頃だろうか。
〈……キミの……。……ハァ……別にわざわざ言うことじゃない〉
「え、気になるよ。普段ズケズケ言う癖に」
〈……今のは……文句を言いたいわけじゃない〉
 普段文句つけてるって自覚はしてんだな……。
「じゃあ、何だ……? なんか怖いんだけど」
〈違う! 違う。怖い話ではなくて〉
 ーーおはなしして
〈黙れっ!〉
「ごめん」
〈違う! キミじゃない! ……キミの、声は……〉
 輪郭が頭を抱えているように見える。フワッとした髪が手で押さえられてクシャッとなっていそうだ。
〈キミの、声があるときは……眠れたんだ〉
「へっ? ああ!」
 確かに寝てたっぽい印象はある。
〈キミの声は力が入りにくくなって……〉
「もっと素直な言い方しようよ」
〈……別にキミの声質自体が特別優れているというわけではないと考えている。声を生業とするならあの彼……航琉くんのほうが一般的に『いい声』だろう〉
 御託が長い。
〈だが……ハァ……なんでかな〉
 俺は既に語り聞かせのレパートリーを頭に浮かべてるぞ。
〈気持ちが、落ち着く。キミの声を聞いていると、眠れる……こともある〉
 おはなしのときはヤミポンもいつも寝てた気するけどな。言わないでおいてやるか。でもちょーっぴり、イジワルはしてやろう。恥ずかしいところを見られたし、航琉くんを勝手に呼び出したお返しだ。
「ふーん……? それで、何してほしい?」
〈はっ!?〉
「今話してるし声は出してるけど」
〈お前……!〉
 俺の口調が移ってるのか、元々実は口が悪いのか。すっごく睨まれている気もするけど、相手は透明なので目付きまではわからない。
〈……お……〉
「お?」
〈……お話しを、してもらえないか……〉
 俺はにっこり笑って答えてやる。ここからは優しくしてやるべきだ。
「勿論、いいよ!」