努力は認めるんだけど、ヤミポンの俺のフリのヘタクソっぷりはやっぱり心配で、ここ数日の学校生活はどうだったかのな……と、予習復習を欠かさないヤミポンの勉強中に無意識に俺は"思い出そう"とした。
――「燈李さん……とは呼べない。ですよね、幽霊……さん……?」――
――「だとしたら、何? キミには話しかけられたくない」――
「不愉快だ」
俺が"思い出し"ているとき、俺の体の声がそれを遮った。
「起きているな? そうだろ。いつからだ」
……気まずいな、黙っとこうかな。
「おい、返事をしろ」
ってか、返事するも何も、スマホ出されても俺ポルターガイストのやり方わかんないぞ。
「今のはフラッシュバ……、……白昼夢や不意の思い出し笑い云々とは違う。自分とは全く異なるものが介在している不快感があった。キミだろう」
『だから ぽるたーがいすとのやりかたが わかんないんだって』
右手に意識を向けたら、案外簡単に動かすことが出来た。ノートに手早くひらがなで書いてみる。
「……これも不愉快だな。なぜ全身を取り戻そうとしない? 右手が出来るなら、全身も出来るはずだ」
『おまえが つかってたほうがいい』
「なぜ、そう思う」
『ひとをたすけられるだろ』
「……ハァ」
これ見よがしのデカい溜息をつかれた。
「マイナス思考のせいでプラスなものが見えていないのは馬鹿の極みだな」
そんなもん、人間あるあるだろ。
「こっちは3日も表に出るのは久しぶりなんだ。疲れてる。具合が悪くなりそうだ」
えっ。
「あっ」
〈ちょろいな、キミは〉
「だぁぁ、やられた……騙したのかよ……」
〈それで、体調は? 幽霊に取り憑かれて体まで動かされていたんだ。影響がないわけがない〉
「ん? んー。ちょっと眠いくらいだけど」
〈そうか……〉
「話してもよかったのに」
久々だな、この感じ。夜にヤミポンと話すの。リラックスして、悪態ついて。それでも友達じゃないってヤミポンは言うんだろうけど。
「母さん達に、俺に何があったのか。母さんはその辺りのこと知ってるし、光莉にもわざわざ隠してるわけじゃないから。俺のことに守秘義務とかないし、いーよ触手プレイが好きとか吹聴しても」
〈後半は何の話だ? ……あのとき何が起こったかを話して、何故それが引き起こされたのかも僕はわからないまま僕がキミの家族から手厚い世話を焼かれるわけだな。僕がキミの副人格ならまだしも、赤の他人で事情も知らず関与もしていない幽霊が世話を焼かれたところで効果も意味もない〉
「触手プレイは……考えるだろ……現代日本で過ごしてたら割とメジャーな……」
〈話を逸らすな。言ったな? 守秘義務はないと〉
「え、まぁ、今んところヤミポンに知られてて誰かに隠したいことはないと思う」
〈何があった? キミの過去に〉
「なんで聞くの。……友達でもないくせに」
〈は? あぁ……キミは妙なこだわりがあるな……〉
こだわりがあるのはそっちだろ。
〈単なる知り合いにも心配する権利はある。……踏み込む権利までは、ないか……〉
ヤミポンは割と頭が良いので、自分で考えて自分で納得している。
隠してないけど、上手く言えないこともある。友達なら聞かれれば言おうと思っていても、単なる知り合いには頑張って言葉にしようとは思えないことも。
「単なる知り合いなら、言いたくない」
ヤミポンの輪郭はいつの間にか数歩離れたところに居て、片手で頭を抱える仕草をした。
〈……ハァ。わかった。今は負けを認めよう〉
「え、まじ」
〈ただし、僕もキミと同じで言葉にするのは好きじゃない。気分が悪くなる。だからキミがソレだと言うのなら、ソレでいい〉
すっげぇ分かりにくいな。あと俺は別に言葉にするのが好きじゃないとかじゃなくて、怖いだけなんだけど。とりあえずそこら辺のことは飲み込んで、意図を汲み取るか。チャンスは今しかなさそうだ。
「つまり、ダチ? 俺ら」
〈……名称をわざわざ付ける必要性を感じないが、分類するならそうせざるを得ないだろうな。これで充分か?〉
「おお……」
〈で? キミの過去だが?〉
友情を認めたことに恥じらっているのか、急かしぎみに合成音声が喋る。
「……そんなに、聞きたいもんかなぁ……分かってると思うけど、楽しい話じゃないよ」
〈共有をすることが大切だと、昨日キミの母君と妹君が言っていた。僕は応えられなかったが……あのときはキミが言うところの守秘義務があると思っていたからな。だが僕も母君と妹君にある程度は同感だ。言うこと自体が辛いものもあるだろう。言える部分だけでいい。話してはもらえないか〉
「別に……」
別に、言えないことはないんだ。頭ん中を言葉にするのは得意なほうだし。ただ、言ったことがないだけで。
「辛くはないと思うよ。言うくらい」
〈キミは……無自覚なところがある。辛くなったら止まれ、は無理か。症状が先で自覚の方が後に来る。いい、代わろう。逃げたくなったら代わる。自称副人格の務めだ〉
「さ、さんきゅう……?」
難しいこと言ってんなぁ。
「どこから、話そうかな……」
〈『父さん』、おそらく……というか確実に、キーワードだ〉
「あぁ……うん……」
俺は少しだけ、目を閉じる。
……父さん。
――「燈李さん……とは呼べない。ですよね、幽霊……さん……?」――
――「だとしたら、何? キミには話しかけられたくない」――
「不愉快だ」
俺が"思い出し"ているとき、俺の体の声がそれを遮った。
「起きているな? そうだろ。いつからだ」
……気まずいな、黙っとこうかな。
「おい、返事をしろ」
ってか、返事するも何も、スマホ出されても俺ポルターガイストのやり方わかんないぞ。
「今のはフラッシュバ……、……白昼夢や不意の思い出し笑い云々とは違う。自分とは全く異なるものが介在している不快感があった。キミだろう」
『だから ぽるたーがいすとのやりかたが わかんないんだって』
右手に意識を向けたら、案外簡単に動かすことが出来た。ノートに手早くひらがなで書いてみる。
「……これも不愉快だな。なぜ全身を取り戻そうとしない? 右手が出来るなら、全身も出来るはずだ」
『おまえが つかってたほうがいい』
「なぜ、そう思う」
『ひとをたすけられるだろ』
「……ハァ」
これ見よがしのデカい溜息をつかれた。
「マイナス思考のせいでプラスなものが見えていないのは馬鹿の極みだな」
そんなもん、人間あるあるだろ。
「こっちは3日も表に出るのは久しぶりなんだ。疲れてる。具合が悪くなりそうだ」
えっ。
「あっ」
〈ちょろいな、キミは〉
「だぁぁ、やられた……騙したのかよ……」
〈それで、体調は? 幽霊に取り憑かれて体まで動かされていたんだ。影響がないわけがない〉
「ん? んー。ちょっと眠いくらいだけど」
〈そうか……〉
「話してもよかったのに」
久々だな、この感じ。夜にヤミポンと話すの。リラックスして、悪態ついて。それでも友達じゃないってヤミポンは言うんだろうけど。
「母さん達に、俺に何があったのか。母さんはその辺りのこと知ってるし、光莉にもわざわざ隠してるわけじゃないから。俺のことに守秘義務とかないし、いーよ触手プレイが好きとか吹聴しても」
〈後半は何の話だ? ……あのとき何が起こったかを話して、何故それが引き起こされたのかも僕はわからないまま僕がキミの家族から手厚い世話を焼かれるわけだな。僕がキミの副人格ならまだしも、赤の他人で事情も知らず関与もしていない幽霊が世話を焼かれたところで効果も意味もない〉
「触手プレイは……考えるだろ……現代日本で過ごしてたら割とメジャーな……」
〈話を逸らすな。言ったな? 守秘義務はないと〉
「え、まぁ、今んところヤミポンに知られてて誰かに隠したいことはないと思う」
〈何があった? キミの過去に〉
「なんで聞くの。……友達でもないくせに」
〈は? あぁ……キミは妙なこだわりがあるな……〉
こだわりがあるのはそっちだろ。
〈単なる知り合いにも心配する権利はある。……踏み込む権利までは、ないか……〉
ヤミポンは割と頭が良いので、自分で考えて自分で納得している。
隠してないけど、上手く言えないこともある。友達なら聞かれれば言おうと思っていても、単なる知り合いには頑張って言葉にしようとは思えないことも。
「単なる知り合いなら、言いたくない」
ヤミポンの輪郭はいつの間にか数歩離れたところに居て、片手で頭を抱える仕草をした。
〈……ハァ。わかった。今は負けを認めよう〉
「え、まじ」
〈ただし、僕もキミと同じで言葉にするのは好きじゃない。気分が悪くなる。だからキミがソレだと言うのなら、ソレでいい〉
すっげぇ分かりにくいな。あと俺は別に言葉にするのが好きじゃないとかじゃなくて、怖いだけなんだけど。とりあえずそこら辺のことは飲み込んで、意図を汲み取るか。チャンスは今しかなさそうだ。
「つまり、ダチ? 俺ら」
〈……名称をわざわざ付ける必要性を感じないが、分類するならそうせざるを得ないだろうな。これで充分か?〉
「おお……」
〈で? キミの過去だが?〉
友情を認めたことに恥じらっているのか、急かしぎみに合成音声が喋る。
「……そんなに、聞きたいもんかなぁ……分かってると思うけど、楽しい話じゃないよ」
〈共有をすることが大切だと、昨日キミの母君と妹君が言っていた。僕は応えられなかったが……あのときはキミが言うところの守秘義務があると思っていたからな。だが僕も母君と妹君にある程度は同感だ。言うこと自体が辛いものもあるだろう。言える部分だけでいい。話してはもらえないか〉
「別に……」
別に、言えないことはないんだ。頭ん中を言葉にするのは得意なほうだし。ただ、言ったことがないだけで。
「辛くはないと思うよ。言うくらい」
〈キミは……無自覚なところがある。辛くなったら止まれ、は無理か。症状が先で自覚の方が後に来る。いい、代わろう。逃げたくなったら代わる。自称副人格の務めだ〉
「さ、さんきゅう……?」
難しいこと言ってんなぁ。
「どこから、話そうかな……」
〈『父さん』、おそらく……というか確実に、キーワードだ〉
「あぁ……うん……」
俺は少しだけ、目を閉じる。
……父さん。
