憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

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 あれから3日間、俺は意識を失っていた。何故3日だと分かるのかというと、現代社会はスマホのロック画面や朝のニュース番組が目に入れば結構な確率で日付が表示されているからだ。
 3日間、ついでに今も、ヤミポンが俺の体を使いソツなく日々をこなしていたらしい。たぶん。
 今は母さんと光莉と俺(inヤミポン)の、家族揃っての夕食中。俺の好物の唐揚げが山ほど大皿に詰まれ、ヤミポンは母さんと光莉の食べる速度に合わせた丁寧な食べ方をしている。
 会話の流れから察するに学校を休んだわけでも、周囲から俺の様子がおかしいと言われているわけでもなさそうだ。なにせ、俺inヤミポンの一人称が「俺」。今すぐ鏡は見られないけど、おそらく普段の俺に近い格好をしているっぽい。
「燈李、あんまり食べてないけど、どした? お母さん、いつもと味付け間違えたかな」
「えっ、そ、そんなことないよ! そんなこと、ないぜ!!」
 でもヘタクソだ。俺がヤミポンやったときのほうが数倍上手い。
 そして唐揚げは美味い。視覚聴覚程ではないけど、味覚嗅覚触覚も俺(inヤミポン)の体の感覚きちんと感じ取ることは出来る。味わおうとか嗅ごうとか触ろうとかって意思をヤミポンのほうに委ねちゃってるから、感覚が鈍いのかもしれない。味覚の好みはどうなんだろ。俺の舌の好みだとしたらヤミポンも唐揚げをかなり美味しいと思ってくれているんだろうか。それともバニラアイスが食べたいかな。
 ヤミポンは唐揚げを大皿から一つ取り、俺よりも小さい一口で口に含み、30回以上味わって噛み、飲み込んだあと、
「美味しいぜ!」
 と、言った。
 ……ソツなく、こなせてたかなぁ……? すんっごく努力をしてくれてるのは分かる。
「ね、今夜も『しりとりしながらトランプ大会』する? 昨日お母さん負けちゃったから、取り返してやる!」
 『しりとりしながらトランプ大会』は我が家の不定期恒例行事である。
 しりとりをしながら、その単語に関する話題を話して次の人の頭文字を忘れさせる等の妨害も認められている。なんなら誰のターンだったかも全員で忘れ、いつの間にか雑談トランプ大会になっている。そこで結構、学校での出来事とかお悩み相談になることもある。解決よりも共有と把握がメインな感じだ。勿論お悩み相談が無く、楽しい雑談で終わることもかなりある。
 父さんが死んで少しした後、『流れで話せることはなるだけ話そう』が我が家のルールになった。すぐさま解決しない困り事も、共有しておくだけでその先が違ってくるかもしれないからだ。
「お母さん、明日早いんでしょ? 負けは負け。お風呂入って寝なよ。私お皿洗いしとくから」
「あ、僕、じゃない俺がやるよ、やるぜ。お皿洗い」
「燈李……」
 母さんは少し『困ったなぁ』のような顔をして光莉を見て、光莉は「大丈夫大丈夫」と手をひらひらと振った。諦めたように、少し悲しげに母さんは席を立ち、俺のほうにゆっくりと近付いてそっと俺を抱きしめる。
 ヤミポンが体をこわばらせたのを、母さんも感じ取ったのだろう。いつもよりも抱きしめ方が弱い。ぎゅっ、なんて感じはなくて、壊れ物を扱うみたいに触れるか触れないかの、ただ体の周りの空間を包まれている感じだ。でも、あったかいし、母さんの匂い……うちはシャンプーも洗濯洗剤も共有だし今は全員唐揚げの匂いだけど、母さんの感じだなぁの感覚で母さんの匂いだなぁと思う。
「燈李……いつも言ってるからしつこいかもだけど……大好きだからね」
「……うん。わかってる」
 ヤミポンは母さんから視線を外したから、母さんがどんな顔をしているのか俺には分からなかった。
「光莉、大好きっ!」
「わかってるよ〜!!!」
 母さんは光莉のことも抱きしめ、風呂に向かう。視界の端で目元をこすっている後ろ姿が見えていた。
 ヤミポン、きっと昨日のトランプ大会は真面目にしりとりをしたんだろうな……。
 『話そう』のルールのお陰かうちの人間はみんなお喋り好きだ。……だから、自分のことを喋らないヤミポンに対しどうしたらいいのか分からない。
 そして俺は、喋れないときにどうしたらいいのかがわからない。