ヒーローがいた。
え、まじ? モノホンじゃん。
ちょっと待って、え、握手できんの? 今? まじで?
デカい。
いや身長が超デカいってわけじゃなくて、重厚感がある。
存在感。存在している。
ヒーローが。
「ヤッッッバイ……」
席に着きながら、俺は己の震える右手を眺めていた。座りやすい、目の前が通路になっている席だ。
「握手、しちゃったよ……」
「? はい、しましたね」
「ヤバイ、握手しちゃった……」
もうそれしか言えねぇ。ヒーローと握手しちゃったんだ、俺……。
「この通路は公演中にヒーローが通ることもあるそうです」
航琉くんが席の解説をしてくれているのを、握手の興奮冷めやらぬまま航琉くんのほうを向いて聞いているとき、俺達の真後ろの席に親子が座るのが目に入った。
若い母親と小学校低学年くらいの男の子。丁度俺がヒーローを好きになったのと同じ年頃だろう。ヒーローのオモチャを持ち、母親にヒーローの良さを熱く語っている。
「ねぇ、航琉くん。あのさ、……」
俺は思いついたことを航琉くんに言ってみる。
「……! 燈李さんが良いのであれば、僕も良いですよ」
航琉くんはニコッと笑って了承してくれた。
「あの、もしよかったらなんスけど、俺らと席の交換しませんか?」
俺は航琉くんと自分を示し、後ろの親子に提案を持ちかける。
「えっ!」
「する!」
母親のほうは驚いていたが、男の子のほうはすぐに答えてくれた。
「しようしよう!」
と、俺も言い、航琉くんも一緒に席を立つ。
「ほ、本当にいいんですか?」
「勿論!」
「ありがとうございます……!」
「ありがとー!」
母親は遠慮がちだったが、息子の満面の笑みには敵わなかったようだ。俺も嬉しい。
交換した席に座ると、航琉くんが前の親子に聞こえないよう小声で、
「本当に良かったんですか……?」
と聞いてきた。
「いいんだよ。このくらいの年齢の子って別の好きなものが出来ることも多くてさ。でも別のものを好きになって何年も経っても『あのときヒーローが大好きだった』って、温かな気持ちなることがあるんだ。その一端になれたら嬉しい」
なんか、語っちまった。気恥ずかしくなって、苦笑する。
「勿論そんなことなくて今日のことも忘れていいんだけどね! 子供にはとにかく楽しんで貰えたら嬉しい。せっかくチケット取ってくれてたのに、ごめんな」
「いえ、そんなことは」
航琉くんがじっと俺を見ている。
やっぱりたまに無表情だ。表情筋じゃないところに意識が向いているのかもしれない。
彼は自分でも見つめていたことに気付いたらしく、口元を押さえてパッと目を逸らした。まだ口は開いてなかったけど、何か言う前に止めた、ってことなのだろう。
え、まじ? モノホンじゃん。
ちょっと待って、え、握手できんの? 今? まじで?
デカい。
いや身長が超デカいってわけじゃなくて、重厚感がある。
存在感。存在している。
ヒーローが。
「ヤッッッバイ……」
席に着きながら、俺は己の震える右手を眺めていた。座りやすい、目の前が通路になっている席だ。
「握手、しちゃったよ……」
「? はい、しましたね」
「ヤバイ、握手しちゃった……」
もうそれしか言えねぇ。ヒーローと握手しちゃったんだ、俺……。
「この通路は公演中にヒーローが通ることもあるそうです」
航琉くんが席の解説をしてくれているのを、握手の興奮冷めやらぬまま航琉くんのほうを向いて聞いているとき、俺達の真後ろの席に親子が座るのが目に入った。
若い母親と小学校低学年くらいの男の子。丁度俺がヒーローを好きになったのと同じ年頃だろう。ヒーローのオモチャを持ち、母親にヒーローの良さを熱く語っている。
「ねぇ、航琉くん。あのさ、……」
俺は思いついたことを航琉くんに言ってみる。
「……! 燈李さんが良いのであれば、僕も良いですよ」
航琉くんはニコッと笑って了承してくれた。
「あの、もしよかったらなんスけど、俺らと席の交換しませんか?」
俺は航琉くんと自分を示し、後ろの親子に提案を持ちかける。
「えっ!」
「する!」
母親のほうは驚いていたが、男の子のほうはすぐに答えてくれた。
「しようしよう!」
と、俺も言い、航琉くんも一緒に席を立つ。
「ほ、本当にいいんですか?」
「勿論!」
「ありがとうございます……!」
「ありがとー!」
母親は遠慮がちだったが、息子の満面の笑みには敵わなかったようだ。俺も嬉しい。
交換した席に座ると、航琉くんが前の親子に聞こえないよう小声で、
「本当に良かったんですか……?」
と聞いてきた。
「いいんだよ。このくらいの年齢の子って別の好きなものが出来ることも多くてさ。でも別のものを好きになって何年も経っても『あのときヒーローが大好きだった』って、温かな気持ちなることがあるんだ。その一端になれたら嬉しい」
なんか、語っちまった。気恥ずかしくなって、苦笑する。
「勿論そんなことなくて今日のことも忘れていいんだけどね! 子供にはとにかく楽しんで貰えたら嬉しい。せっかくチケット取ってくれてたのに、ごめんな」
「いえ、そんなことは」
航琉くんがじっと俺を見ている。
やっぱりたまに無表情だ。表情筋じゃないところに意識が向いているのかもしれない。
彼は自分でも見つめていたことに気付いたらしく、口元を押さえてパッと目を逸らした。まだ口は開いてなかったけど、何か言う前に止めた、ってことなのだろう。
