憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

-12-
〈キミがやろうとしていることくらいわかる〉
「そう? 流石は"僕"だな」
〈う、っわ……〉
 絵本の読み聞かせで役作りは、そりゃプロの役者とまではいかないけど……多少のウソがバレない程度には得意だ。
「似てるだろ?」
〈自分の姿を見ているようで虫酸が走ったよ〉
 なら出来は上々だ。
 航琉くんと俺の家の中間地点には大きな歩道橋がある。俺の好きな場所でもある。待ち合わせはそこにした。
 連絡してすぐに向かったけど、航琉くんは既に歩道橋に来ていた。
 車が下を通ると歩道橋が揺れる。良い感じの場所だからカッコつけて選んだけど、ロケーションミスったかもしれねぇ……というのは顔に出さないでおく。
「久しぶり、だね」
 そう言った俺の姿を見て、彼は驚いたように目を見張った。航琉くんにとっては久しぶりだ。俺にとっては毎晩話してる相手。……の姿をしている俺だから、航琉くんに久しぶりと言うのは色々と嘘だけど。
「あ、えっと……燈李さん、ですよね……?」
 訝しげに、でも少し嬉しそうに、それでいて不安の混ざった表情で彼は俺を見た。
「そう、二重人格のほう。今なら……」
 本当は嫌だけど、
「いいよ、言っても。いつも抑えてくれてたんだろ?」
 言いたいなら、今だけ、ここを最後にしよう。
「燈李さん」
「でもね、最後にしよう。それで終わり。申し訳ないけれど、僕の中で決着がついたんだ。待たせてしまったよね。それも謝りたい。そして……」
「待っ、……っ待って、ください」
「なぁに」
「終わり……? 終わりっ、て……貴方が、言おうとしていることは、」
 そんなに辛そうにしないでくれ。決心が鈍ってしまう。
「キミが言ってくれるなら、僕もそれに返答をする、ということだよ」
 最悪だ。最悪な気持ちだ。最低のことをしている。なのに空は綺麗な夕焼けで、まだ明るくて、航琉くんの表情がはっきりとわかってしまう。
「……っ」
 歩道橋の下を通る車の走行音は遠く、彼の息を呑む音はそれにかき消されることなく聞こえた。
「……好、……っ」
 苦しげに俯いて、俺の方を見ることが出来ていない。
「……っ、言いたく、ありません……っ」
 絞り出すように、彼はそう言った。
「貴方にとって、僕の、気持ちは……、要らないものであると、わかっていました。……でも、それでも……っ」
 震える声色に、俺の方が泣きなくなってしまう。
 俺は幼稚園の先生なんてそれこそ幼い『なんとなく』の感情でしか誰かを好きになったことはないけれど、『好き』は大切な想いだ。
 例えば親とか友達を『大好きだ』と思っていて、それを『要らない』と言われたらきっと辛い。
 俺はそれを、こんな形で、要らないと言っていいのか?
 彼は俺を傷付けないように変わってくれたのに、彼が傷ついたときは誰が手当てをしてやれるんだろう。
 家族愛や友情は、行動で示して要らなそうにされたらその愛情の示し方は控えてみるくらいの調節が出来るけど、恋愛は関係が曖昧なときはどこかのタイミングで『要る』『要らない』をはっきりさせないといけない。
 『要らない』も『欲しい』も、言うことが出来ない。
 言葉が、喉で詰まって、声にならない。
〈デートはしよう。その後で考えようか〉
 今の俺が似せている声色と、よく似た合成音声の声が響いた。注意して聞かないと合成音声だと気付かない程、自然な抑揚の声。
「えっ」
 航琉くんが顔を上げる。
「いいんですか……?」
 泣くのを強くこらえていたのか、目元が赤い。それでいて一縷の希望の灯火を見つけたような表情に、
「……うん」
 俺は頷くしか出来なかった。

 ――……して?
「ん?」
 ――おななし、して?
「うん、いいよ」
 子供の霊は、あまり泣かなくなった。俺が一人のとき、周りが静かでいつもなら泣く声が聞こえるタイミングになると、おずおずと『おはなし』をねだるようになった。
 ヤミポンはその子供の声を嫌そうにするけど『おはなし』を始めれば気持ちが落ち着いたように、眠たそうにしているのが分かった。
 穏やかなこの時間が俺は好きだ。
 ヤミポンが俺の体を離れる方法をそろそろ探さなくちゃいけないけど、今このひとときだけでも、この時間を大切にしたい。