憑かれ告られ愛となれ、そして友となれ!

 日本史の年号の語呂合わせと、その時に何が起きたかを聞きながら(歴史人物の名前を知ってて当然のように話すからそれがどういう立場の人物なのかわからないまま話が進み、俺はついていけなかったが聞く元気はなかった)、なんとか帰宅出来た。
 体力のないときは水分栄養休養だ。冷蔵庫にあったペットボトルの水と小さいパックの野菜ジュースを拝借して自室に向かい、飲む気力のないままベッドに倒れ込む。
 カサコソと自分のものではない動きを感じるが、見る余裕もない。
 ゴトン、とベッドに倒れ込んだときに手から離れていたペットボトルが肩に当たった。ちょっと痛い。
「……?」
〈悪い、せめて飲める状態にしようかと……出来てはいないが……〉
 目を開けて見てみれば、ペットボトルと野菜ジュースが顔の近くに来ていた。野菜ジュースのストローはビニールから出ていて、飲み口に刺そうとした形跡がある。
「ポルターガイスト……」
〈死人に口無し、ならぬ死人に手なし。猫の手のほうがよっぽど役に立つ。僕は役立た……、いや、自分で飲めるか?〉
 『僕は役立たず』とでも言おうとしたのだろうか。言えば俺を困らせると思ったのかもしれない。
「さんきゅ……お陰でちょっと気力出た」
 フォローでもなんでもなく、誰かに声を掛けられるだけで気力が湧くことはある。役に立ってるよ、と伝えたかったけどそこまで言葉にする力はなく、水を飲んで目を閉じた。
〈ご家族を呼ぼうか? ポルターガイストとしてこのスマホの操作ならそれなりに出来る。看病をしてもらったほうが良い。痛いところはあるか? リビングに薬箱があったよな。僕が個人で動ければ取って来られるかもしれないのに、クソっ〉
 焦っているのか、言葉遣いが悪くなっている。俺は首を横に振り、家族を呼ぶのも薬も不要だと伝えた。寝てれば治る。
 ――いたいよ
 ――いたい
 ――いたい……
 子供の泣く声がする。
「……その子」
〈うるさいか? 黙らせようか〉
 どうやって? 黙らせるってちょっと物騒なワードだ。
「そうじゃ、なくて。痛いって、言ってるから……怪我してたり、どこか具合が悪いなら手当てしてやって……」
〈僕が? コイツの?〉
「……だめ?」
〈方法も意味もメリットもないし、駄目という尺度で考えたこともない。前にも言っただろ、これは言葉を繰り返しているだけだ。それよりもキミは休んだほうが良い〉
 ――いたい
 ――いたいよぅ
〈鬱陶しいよな、キミの側から離れさせようとしてるんだが僕自身もこれ以上遠くに行くのは不可能みたいだ。挑戦してるのに上手くいかない〉
 ――いやだ
 ――いたいよぅ
〈あぁ、このっ、いつまで泣くつもりなんだよ! 少しは黙れないのっ?〉
「いい、いいから、泣いてて、いいから」
 中の人はその子にイラついていて、その子はそれに怯え出したような気配を感じた。余裕があれば仲裁したり、詳しく聞いたりしたかったけど、今は何よりも、遠くに行くとか、離れるとかの言葉が頭に残ってしまった。
 怒らないでやって。泣いてても、騒いでもいいから。
 居なくなるほうが、悲しいから。
 何も要らないから。
「……ただ、側に……、いて……」
〈……はぁ〉
 俺の声は随分弱々しく聞こえたらしい。合成音声が優しい声色に設定されたように感じた。気を遣わせちゃったな、と思うけど、笑って自分を茶化してみせる力は出なかった。
〈そこまで悲しがられちゃ仕方ない〉
 その部分も声に出てたか……。
〈大丈夫だ。ここに居る。居る証拠に、話そうか。世界史の年号でいいか?〉