昼休み。
パパッと昼食を済ませて航琉くんのクラスを覗いてみたけど、航琉くんはそこにはいなかった。クラス内の人に聞いたところ、どこかに行ったが場所はわからないらしい。
特に行きそうな場所に心当たりはないな……思ったより俺は航琉くんのことをよく知らない。俺ばっか話してるもんなぁ……聞いてくれるのが、つい嬉しくて。航琉くんは俺じゃなくて、中の人と話がしたいだろうに。……いかんいかん、そんな風に考えてる場合じゃない。中の人と話をさせるために、航琉くんをよく知ろうとしているんじゃないか。
「花芽木って言えば……」
航琉くんを探そうと廊下に出たとき、クラスのほうから航琉くんについて話す声が聞こえてきた。
「最近ちょっと近寄りやすくなったよな。挨拶してくるし。前は顔固いわ喋らないわで怖かったけど」
「あー、わかる。コイツ笑うんだなって思った。最近結構掃除とかも手伝ってくれたりするし」
彼らの会話はそこからは別の話題に飛んでいたけど、俺はちょっぴり嬉しくなった。俺以外にも優しく接しているようだ。他の人をどうでもいいとは思わなくなってくれたのかな。
食堂や中庭、一応屋上も見たけど航琉くんは居なかった。屋上はもう行かないと言っていたし、朝のあの感じだと人目が多い場所も避けていたいのかもしれない。前に、一人になりたくて屋上に行ったと話していたっけ。校内で一人になれる場所って、あるのかな。そもそも付き纏われてたら隠れる暇もなさそうだ。
「あっ! 花芽木くん、あんなところにいたー!」
「どこどこー? あっ! ほんとだ! あの子達ずるい!」
廊下を歩いていると、窓から外を見下ろしている女子達が黄色い声でそう言った。
俺も外を見る。校舎裏の茂みに航琉くんがいる。それと、その他何人か。通学の時と同じで周りを囲まれている。
「最近断らないらしいから、私も追っかければ良かったぁー! ああーっ! 見て! 私も一緒に写真撮りたい!」
「今から行く?」
「行こ! SNSに載せよ!」
……なんだか、気の毒だ。そろそろ昼休みが終わる時間で、更に人が増えちゃうなんて。
俺は自分の教室に戻りながら、毎日あんなに色んな人に囲まれたらと考える。さっきの女子はリボンの色が3年のものだった。「らしいから」なんて噂を話す、航琉くん自身と仲が良いとは思えない口ぶり。通学中の、きっと名も知らない他校の生徒や、もっと年上の人達。
航琉くんの整った、初めて会った頃の動かない表情をふと思い出した。
ずきり、と胸が痛んだ。
