「デートをしましょう」
昼休みである。
つまり航琉くんが来る時間だ。
俺の席に訪れ、黒猫みたいな雰囲気の真顔で要望を訴えかけてくる。
「連絡先を交換しませんか」
「お、おぅ」
「行きたいところはありますか」
「と、特には」
「土日はアルバイトですよね。来月の祝日はどうですか」
「お、おぉ、わかった」
昼の光で見ると目鼻立ちがはっきりくっきりと分かり、夜見たときよりも彫刻の芸術品みたいだ。迫力がある。その迫力に見つめられ、俺は食べかけの弁当を左手に箸を右手にヘビに睨まれたカエルの如く固まり、固まったまま見つめ返すことにより迫力を直視し続け、誘導尋問か圧迫面接のような感覚に陥り、会話内容に集中が出来ず流れでデートが決まった。よく昨日までの俺の中の人はこの迫力を受け流せたものだ。
遅刻したせいで話す暇のなかった大介が、そんな俺らを見ながら
「え? なに? 進展? どういう?」
と混乱している。
「キスをしました」
「あれをキスって言うのは人名救助への冒涜だろ」
「確かに。キスしてません」
「えっ? あ、うん? 燈李? 何がどう? なに?」
「性行為における位置について決めました」
「あくまで興味があるのはどのポジションかって話な。18禁なことは18歳になってからがいいんじゃねぇかな」
「わかりました」
「ん? え? 何? 全然わかんねぇけどコレ大丈夫な会話なの? 大丈夫? 色々と?」
大介に加えて会話の聞こえたであろうクラスメイト数名にも混乱が広がったみたいだったが、航琉くんは意に介さず俺にスマホを見せてくる。
「この遊園地はどうですか」
「おー、いいねー」
スマホを覗き込むとき、航琉くんからフワリと良い香りがした。
「お前、良い香りすんのな」
俺は思ったことがそのまま口から出るタイプだ。集中してないときは特に。
「香水です。分けましょうか?」
「いいの?」
「明日お待ちします」
「さんきゅ」
俺らを見る大介が唖然としている。
「お、お前ら、それって、同じ香りをつけるって、それって」
「? かっこいいだろ? 香水つける男」
「いいのか……いいか……? お前らが良いなら、いいか……? いや、もしや、これって……!?」
混乱し続けたせいか、大介はだんだん頬を染めて微笑み始めた。口元を抑えて小声で「きゃーっ」なんて言っている。語尾にハートマークがつきそうな声だ。
航琉くんは先程の俺と同じく「?」を浮かべ、壁の時計の示す時間に気付き
「では、後ほど連絡します」
と言って教室を出て行った。
昼休み終了五分前。ちょっぴり名残惜しさはある。顔の迫力に慣れて会話が弾みそうだったところなのになぁ。
とはいえ迫力に負けて固まって間、持ったままだった弁当が残っている。会話を弾ませてる場合じゃない。
「もしかして、付き合うの? この前までテキトーにあしらってたのに、やるぅ!」
混乱を一旦落ち着かせたらしき大介が、ジュースの残りをすすりながら聞いてきた。その声色にはワクワク感が滲み出ている。大介は自分の恋バナも好きだし人の恋バナも大好きだ。残念ながらご期待には応えられない。
俺は首を横に振る。
「んーん。とりあえず友達付き合いして、『イメージと違った』って思われてフェードアウトじゃねぇかなぁ」
「えぇー? あんまり弄ぶなよな、向こうは真剣っぽいんだから」
「むぐぐ、もぐ」
げっ、まさか普通に会話してるだけで弄ぶ判定になるのか? 恋愛が絡むとなんてことないやりとりすら気のあるように感じさせちゃう?
弁当の残りを口にかきこみながらは喋れず、返答の代わりに俺は表情で気持ちを表現したが大介は違う方向に受け取ったようで、納得と同情の入り混じった顔で頷いている。
「まぁ、ワタルくん? だっけ? 彼がちょっとコワイのはわかるけど……」
「怖い?」
口の中のものを茶で流し込み、疑問文の一言だけは返せた。
「え、うん。何考えてるのかわからなくない? でもここで怖気付いたら絶対ダメだぞ! 恋ってのはほんのちょっとの勇気が何よりも大切で……あ、やべ、先生来た」
チャイムの音と共に先生が入ってきて、大介との会話は終了となる。
俺は弁当箱をしまいつつ、先程の大介の言葉に思いを馳せた。
恋云々は置いておくとして。航琉くん、怖い、かなぁ……?
中の人による自動操縦を楽しんでいた一週間のうちの平日五日間の昼休み、俺は自動操縦のお陰で自分の喋りを考えなくてよかったからある程度航琉くんを観察出来ていたと思う。
それに昨日の夜結構喋ったのと慣れもあってか、なんとなく表情も読めるようになった気がする。猫に慣れた人が猫の感情を察知出来るのと似たようなものかな。
多分彼の言葉に他意はない。表情は乏しいけど、嘘もつかないし取り繕いもしない。
だから真っ直ぐな『好きです』なんだ。
……恋愛感情、か。
昼休みである。
つまり航琉くんが来る時間だ。
俺の席に訪れ、黒猫みたいな雰囲気の真顔で要望を訴えかけてくる。
「連絡先を交換しませんか」
「お、おぅ」
「行きたいところはありますか」
「と、特には」
「土日はアルバイトですよね。来月の祝日はどうですか」
「お、おぉ、わかった」
昼の光で見ると目鼻立ちがはっきりくっきりと分かり、夜見たときよりも彫刻の芸術品みたいだ。迫力がある。その迫力に見つめられ、俺は食べかけの弁当を左手に箸を右手にヘビに睨まれたカエルの如く固まり、固まったまま見つめ返すことにより迫力を直視し続け、誘導尋問か圧迫面接のような感覚に陥り、会話内容に集中が出来ず流れでデートが決まった。よく昨日までの俺の中の人はこの迫力を受け流せたものだ。
遅刻したせいで話す暇のなかった大介が、そんな俺らを見ながら
「え? なに? 進展? どういう?」
と混乱している。
「キスをしました」
「あれをキスって言うのは人名救助への冒涜だろ」
「確かに。キスしてません」
「えっ? あ、うん? 燈李? 何がどう? なに?」
「性行為における位置について決めました」
「あくまで興味があるのはどのポジションかって話な。18禁なことは18歳になってからがいいんじゃねぇかな」
「わかりました」
「ん? え? 何? 全然わかんねぇけどコレ大丈夫な会話なの? 大丈夫? 色々と?」
大介に加えて会話の聞こえたであろうクラスメイト数名にも混乱が広がったみたいだったが、航琉くんは意に介さず俺にスマホを見せてくる。
「この遊園地はどうですか」
「おー、いいねー」
スマホを覗き込むとき、航琉くんからフワリと良い香りがした。
「お前、良い香りすんのな」
俺は思ったことがそのまま口から出るタイプだ。集中してないときは特に。
「香水です。分けましょうか?」
「いいの?」
「明日お待ちします」
「さんきゅ」
俺らを見る大介が唖然としている。
「お、お前ら、それって、同じ香りをつけるって、それって」
「? かっこいいだろ? 香水つける男」
「いいのか……いいか……? お前らが良いなら、いいか……? いや、もしや、これって……!?」
混乱し続けたせいか、大介はだんだん頬を染めて微笑み始めた。口元を抑えて小声で「きゃーっ」なんて言っている。語尾にハートマークがつきそうな声だ。
航琉くんは先程の俺と同じく「?」を浮かべ、壁の時計の示す時間に気付き
「では、後ほど連絡します」
と言って教室を出て行った。
昼休み終了五分前。ちょっぴり名残惜しさはある。顔の迫力に慣れて会話が弾みそうだったところなのになぁ。
とはいえ迫力に負けて固まって間、持ったままだった弁当が残っている。会話を弾ませてる場合じゃない。
「もしかして、付き合うの? この前までテキトーにあしらってたのに、やるぅ!」
混乱を一旦落ち着かせたらしき大介が、ジュースの残りをすすりながら聞いてきた。その声色にはワクワク感が滲み出ている。大介は自分の恋バナも好きだし人の恋バナも大好きだ。残念ながらご期待には応えられない。
俺は首を横に振る。
「んーん。とりあえず友達付き合いして、『イメージと違った』って思われてフェードアウトじゃねぇかなぁ」
「えぇー? あんまり弄ぶなよな、向こうは真剣っぽいんだから」
「むぐぐ、もぐ」
げっ、まさか普通に会話してるだけで弄ぶ判定になるのか? 恋愛が絡むとなんてことないやりとりすら気のあるように感じさせちゃう?
弁当の残りを口にかきこみながらは喋れず、返答の代わりに俺は表情で気持ちを表現したが大介は違う方向に受け取ったようで、納得と同情の入り混じった顔で頷いている。
「まぁ、ワタルくん? だっけ? 彼がちょっとコワイのはわかるけど……」
「怖い?」
口の中のものを茶で流し込み、疑問文の一言だけは返せた。
「え、うん。何考えてるのかわからなくない? でもここで怖気付いたら絶対ダメだぞ! 恋ってのはほんのちょっとの勇気が何よりも大切で……あ、やべ、先生来た」
チャイムの音と共に先生が入ってきて、大介との会話は終了となる。
俺は弁当箱をしまいつつ、先程の大介の言葉に思いを馳せた。
恋云々は置いておくとして。航琉くん、怖い、かなぁ……?
中の人による自動操縦を楽しんでいた一週間のうちの平日五日間の昼休み、俺は自動操縦のお陰で自分の喋りを考えなくてよかったからある程度航琉くんを観察出来ていたと思う。
それに昨日の夜結構喋ったのと慣れもあってか、なんとなく表情も読めるようになった気がする。猫に慣れた人が猫の感情を察知出来るのと似たようなものかな。
多分彼の言葉に他意はない。表情は乏しいけど、嘘もつかないし取り繕いもしない。
だから真っ直ぐな『好きです』なんだ。
……恋愛感情、か。
