クロエはヴェリティ伯爵家に仕える侍女長である。
リジュアを生まれた時から知っている全面的に信頼を置くリジュアの理解者でもある。
リジュアは夜会での顛末をクロエに説明した。
「白銀宮とは……また厄介な人物が出てきましたね」
「ええ」
リジュアは車窓に視線を投げた。
夜の王都の景色が窓越しに緩やかに流れていく。
馬車の車輪が石畳を叩く音が、規則正しく車内へ響いていた。
黒薔薇として振る舞うこと自体にリジュアは慣れている。
男は自分を欲し、婚約を壊す悪女だと囁かれることも。
しかしルビンのような男は前例がない。
ルビン自身の人気や評判に無関心な割には妙に鋭くリジュアへと切り込んでくる。
調子が狂うにも程があった。
「わたくしを調査されるそうよ」
しかも、あの男は本気だ。
リジュアの全てを暴いてくるような自信に溢れながらもクールな男。
『――お前を暴く』
あの時、耳元にかかったルビンの熱い吐息やだだ漏れしていた色気を孕んだ低い声色を思い出して、リジュアの身体の奥は発火したように熱を帯びた。
白銀宮は、貴族ですら恐れる王家直属機関。
一度目を付けられれば、徹底的に調べ上げられる。
しかも相手はルビンで。
「……本当に最悪だわ……」
リジュアの頭痛が増す。
「……リジュアお嬢様、これからどうなさいますか?」
クロエに問われ、しばらくリジュアは黙っていた。
「予定通り動くわ」
「ですが、リジュアお嬢様が白銀宮の調査対象になっているとなりますと……」
「わかっているわ。けれど、カリナ様を放っておけない……」
車窓に向けられているリジュアの目が細められる。
「カリナ様があの男と結婚して泣くことになるのを、みすみす見逃せないわ」
カリナの顔が亡くなった姉と重なる。
彼に愛されていると信じている純粋な顔や目。
『あの人はわたくしだけを愛してくれるの』
そう穏やかに笑っていた。
最終的には全てを奪われながらも。
「カリナ様をユウォン姉様と同じ目に合わせたくないの」
男を手玉にとる悪女と呼ばれようと、略奪する毒花と噂されても、婚約を壊す黒薔薇と評されても。
――自分が泥をかぶることで、涙を流す女が減るのなら……。
「ですが、リジュアお嬢様……」
クロエは躊躇を感じさせる口調で切り出す。
「白銀宮の中でもルビン・レオンホープ断罪官は別格のエリートだとお聞きしております」
「……そのようね」
リジュアは嘆息する。
少しの時間ルビンと接しただけでリジュアにもわかった。
ルビンは仕事の出来る男だと。
何よりも、あの若さで白銀宮の断罪官を務めているのだ。
「厄介極まりないわ……」
白銀宮の最年少断罪官ルビン・レオンホープ。
リジュアは最悪の男に目をつけられてしまった自分の運命を呪った。
リジュアを生まれた時から知っている全面的に信頼を置くリジュアの理解者でもある。
リジュアは夜会での顛末をクロエに説明した。
「白銀宮とは……また厄介な人物が出てきましたね」
「ええ」
リジュアは車窓に視線を投げた。
夜の王都の景色が窓越しに緩やかに流れていく。
馬車の車輪が石畳を叩く音が、規則正しく車内へ響いていた。
黒薔薇として振る舞うこと自体にリジュアは慣れている。
男は自分を欲し、婚約を壊す悪女だと囁かれることも。
しかしルビンのような男は前例がない。
ルビン自身の人気や評判に無関心な割には妙に鋭くリジュアへと切り込んでくる。
調子が狂うにも程があった。
「わたくしを調査されるそうよ」
しかも、あの男は本気だ。
リジュアの全てを暴いてくるような自信に溢れながらもクールな男。
『――お前を暴く』
あの時、耳元にかかったルビンの熱い吐息やだだ漏れしていた色気を孕んだ低い声色を思い出して、リジュアの身体の奥は発火したように熱を帯びた。
白銀宮は、貴族ですら恐れる王家直属機関。
一度目を付けられれば、徹底的に調べ上げられる。
しかも相手はルビンで。
「……本当に最悪だわ……」
リジュアの頭痛が増す。
「……リジュアお嬢様、これからどうなさいますか?」
クロエに問われ、しばらくリジュアは黙っていた。
「予定通り動くわ」
「ですが、リジュアお嬢様が白銀宮の調査対象になっているとなりますと……」
「わかっているわ。けれど、カリナ様を放っておけない……」
車窓に向けられているリジュアの目が細められる。
「カリナ様があの男と結婚して泣くことになるのを、みすみす見逃せないわ」
カリナの顔が亡くなった姉と重なる。
彼に愛されていると信じている純粋な顔や目。
『あの人はわたくしだけを愛してくれるの』
そう穏やかに笑っていた。
最終的には全てを奪われながらも。
「カリナ様をユウォン姉様と同じ目に合わせたくないの」
男を手玉にとる悪女と呼ばれようと、略奪する毒花と噂されても、婚約を壊す黒薔薇と評されても。
――自分が泥をかぶることで、涙を流す女が減るのなら……。
「ですが、リジュアお嬢様……」
クロエは躊躇を感じさせる口調で切り出す。
「白銀宮の中でもルビン・レオンホープ断罪官は別格のエリートだとお聞きしております」
「……そのようね」
リジュアは嘆息する。
少しの時間ルビンと接しただけでリジュアにもわかった。
ルビンは仕事の出来る男だと。
何よりも、あの若さで白銀宮の断罪官を務めているのだ。
「厄介極まりないわ……」
白銀宮の最年少断罪官ルビン・レオンホープ。
リジュアは最悪の男に目をつけられてしまった自分の運命を呪った。



