ルビンにエスコートされながら、リジュアが広間の中央へ出ると、ちょうど曲が切り替わった。
貴族たちは自然と距離を取り、視線を一点に集中させた。
社交界の黒薔薇と白銀宮の断罪官。
これほど目立ち、注目を集める組み合わせはない。
何よりも圧倒的に外貌に優れる男女は観客の視線を吸い寄せていた。
(最悪だわ……)
間違いなく明日には社交界中へと噂が広がる。
ルビンの手がリジュアの腰へ添えられる。
音楽に身を委ねつつ、近づいた男の距離にリジュアは睫毛を伏せた。
「ずいぶん慣れていらっしゃいますのね」
ルビンにしかしか聞こえない程度に声を潜ませ、リジュアが告げる。
「それなりに嗜んでいるだけだ」
「令嬢方が泣きますわ」
「――なぜ?」
「今も皆さま、こちらをご覧になっております」
ルビンが周囲へと視線を走らせる。
目を合わせた令嬢たちが、一斉に顔を赤くして嬌声をあげた。
しかしルビンは特に興味も示さない。
再びリジュアへと視線を戻す。
「お前のせいだろう」
「断罪官様のせいでもあるのでは?」
「見たかったら勝手に見ればいい」
(なんて無愛想なのかしら……)
リジュアは内心で肩を竦める。
「わたくしでなくても、ルビン様とダンスの機会をご所望する令嬢たちがたくさんいらっしゃいますわ」
「だから何だ。俺はお前が良かっただけだ」
ルビンがストレートすぎてリジュアは頬を染めることすら出来なった。
この誰もが所望する極上の男は低音の声すらも女の何かを刺激する色気が含まれている。
ルビンは他に何も関心を示さない割にはリジュアだけに距離を詰めてきた。
何かを探っているかのように。
「何ですの?」
「――いや」
ルビンが言葉を切る。
「聞いていたより普通だと」
「普通?」
「もっと男を誑かしてくる卑猥な女かと思っていた」
ルビンの余りにも露骨な表現にリジュアは苦笑いを浮かべる。
「失礼ですわ」
「違うのか?」
真顔でルビンに返される。
「だって、ルビン様に特定のお相手はいないのでしょう?」
至近距離でリジュアが扇動的に微笑めば、ルビンは視線を合わせたまま考え込むように沈黙した。
婚約を壊し、男を手玉にとる魔性の女――それが社交界の黒薔薇であるリジュア・ヴェリティだと自分の悪評を理解していた。
「――それもそうだな」
ルビンは淡々と返す。
リジュアが反応を探っても、ルビンの底意を見抜けない。
「お前の噂は知っている」
「わたくし、噂通りの危険人物かもしれなくてよ」
「その時は対処するだけだ」
「怖いわ」
言葉とは裏腹に恐怖など何も感じていないようにリジュアは嫣然と微笑む。
「先ほどから、ずっとわたくしを監視していらっしゃるようですから」
「――ああ、している」
隠しもしない。
あくまで自身の目でルビンはリジュアを見極めようとしている。
「そういうことは、もう少しお隠しになられては?」
「なぜ?」
「普通の女性だったら警戒しますもの。わたくしは普通なのでしょう?」
ルビンの碧眼を見つめながら、仕掛けるようにリジュアは口角を上げる。
通常の男なら、これだけでリジュアに溺れ、情火に身を焦がす。
けれどもルビンは相も変わらず流されない。
「お前は最初から全てを警戒しているだろう」
リジュアの足が一瞬だけ止まりそうになる。
その乱れをなかったことかのように、ルビンは自然にリードした。
「――常に身構えているように見える」
「初めて言われましたわ」
「当たっているか?」
「答え合わせは断罪官様自身がなさったら?」
「ああ。そのつもりだ」
即答だった。
ルビンには冗談も愛想もない。
打算が働いているわけでもないように感じる。
(やりづらい……)
けれど、不思議とルビンを拒絶したくはならなかった。
「婚約披露の場でお前はマッコード公爵令息を見ていなかった」
「見ておりましたけれど」
「――違う。あの男を見極めようと観察していた」
リジュアの鼓動が跳ねた。
ルビンは本当によく見ている。
――監視。
先ほどのルビンの言葉が妙に胸に重く落ちた。
「断罪官様こそ人を見るのがお好きなようですわね」
「仕事だが」
「白銀宮の方々は皆そうなのかしら?」
「――いや、俺がそうなだけだ」
表情一つ変えないルビンに、リジュアは目を瞬かせる。
白銀宮の断罪官ではなく、ルビン個人としての回答。
リジュアは不意に視線を感じた。
その先に立つのはカリナと並ぶエリオスだった。
カクテルグラス片手に穏やかに微笑みながら、こちらに向けられる目だけが冷え切っている。
(あの男は危険……)
リジュアの疑惑が確信に変わる。
「お前は、なぜあの婚約を気にしている」
貴族たちは自然と距離を取り、視線を一点に集中させた。
社交界の黒薔薇と白銀宮の断罪官。
これほど目立ち、注目を集める組み合わせはない。
何よりも圧倒的に外貌に優れる男女は観客の視線を吸い寄せていた。
(最悪だわ……)
間違いなく明日には社交界中へと噂が広がる。
ルビンの手がリジュアの腰へ添えられる。
音楽に身を委ねつつ、近づいた男の距離にリジュアは睫毛を伏せた。
「ずいぶん慣れていらっしゃいますのね」
ルビンにしかしか聞こえない程度に声を潜ませ、リジュアが告げる。
「それなりに嗜んでいるだけだ」
「令嬢方が泣きますわ」
「――なぜ?」
「今も皆さま、こちらをご覧になっております」
ルビンが周囲へと視線を走らせる。
目を合わせた令嬢たちが、一斉に顔を赤くして嬌声をあげた。
しかしルビンは特に興味も示さない。
再びリジュアへと視線を戻す。
「お前のせいだろう」
「断罪官様のせいでもあるのでは?」
「見たかったら勝手に見ればいい」
(なんて無愛想なのかしら……)
リジュアは内心で肩を竦める。
「わたくしでなくても、ルビン様とダンスの機会をご所望する令嬢たちがたくさんいらっしゃいますわ」
「だから何だ。俺はお前が良かっただけだ」
ルビンがストレートすぎてリジュアは頬を染めることすら出来なった。
この誰もが所望する極上の男は低音の声すらも女の何かを刺激する色気が含まれている。
ルビンは他に何も関心を示さない割にはリジュアだけに距離を詰めてきた。
何かを探っているかのように。
「何ですの?」
「――いや」
ルビンが言葉を切る。
「聞いていたより普通だと」
「普通?」
「もっと男を誑かしてくる卑猥な女かと思っていた」
ルビンの余りにも露骨な表現にリジュアは苦笑いを浮かべる。
「失礼ですわ」
「違うのか?」
真顔でルビンに返される。
「だって、ルビン様に特定のお相手はいないのでしょう?」
至近距離でリジュアが扇動的に微笑めば、ルビンは視線を合わせたまま考え込むように沈黙した。
婚約を壊し、男を手玉にとる魔性の女――それが社交界の黒薔薇であるリジュア・ヴェリティだと自分の悪評を理解していた。
「――それもそうだな」
ルビンは淡々と返す。
リジュアが反応を探っても、ルビンの底意を見抜けない。
「お前の噂は知っている」
「わたくし、噂通りの危険人物かもしれなくてよ」
「その時は対処するだけだ」
「怖いわ」
言葉とは裏腹に恐怖など何も感じていないようにリジュアは嫣然と微笑む。
「先ほどから、ずっとわたくしを監視していらっしゃるようですから」
「――ああ、している」
隠しもしない。
あくまで自身の目でルビンはリジュアを見極めようとしている。
「そういうことは、もう少しお隠しになられては?」
「なぜ?」
「普通の女性だったら警戒しますもの。わたくしは普通なのでしょう?」
ルビンの碧眼を見つめながら、仕掛けるようにリジュアは口角を上げる。
通常の男なら、これだけでリジュアに溺れ、情火に身を焦がす。
けれどもルビンは相も変わらず流されない。
「お前は最初から全てを警戒しているだろう」
リジュアの足が一瞬だけ止まりそうになる。
その乱れをなかったことかのように、ルビンは自然にリードした。
「――常に身構えているように見える」
「初めて言われましたわ」
「当たっているか?」
「答え合わせは断罪官様自身がなさったら?」
「ああ。そのつもりだ」
即答だった。
ルビンには冗談も愛想もない。
打算が働いているわけでもないように感じる。
(やりづらい……)
けれど、不思議とルビンを拒絶したくはならなかった。
「婚約披露の場でお前はマッコード公爵令息を見ていなかった」
「見ておりましたけれど」
「――違う。あの男を見極めようと観察していた」
リジュアの鼓動が跳ねた。
ルビンは本当によく見ている。
――監視。
先ほどのルビンの言葉が妙に胸に重く落ちた。
「断罪官様こそ人を見るのがお好きなようですわね」
「仕事だが」
「白銀宮の方々は皆そうなのかしら?」
「――いや、俺がそうなだけだ」
表情一つ変えないルビンに、リジュアは目を瞬かせる。
白銀宮の断罪官ではなく、ルビン個人としての回答。
リジュアは不意に視線を感じた。
その先に立つのはカリナと並ぶエリオスだった。
カクテルグラス片手に穏やかに微笑みながら、こちらに向けられる目だけが冷え切っている。
(あの男は危険……)
リジュアの疑惑が確信に変わる。
「お前は、なぜあの婚約を気にしている」



