割って入った低い美声。
その目線の先に立っていた男を見た瞬間、周囲の貴族たちは息を呑む。
ホワイトブロンドの髪に深い碧眼。
氷のように冴え渡った冷ややかな美貌に長身。
無駄な装飾が少ない黒の礼装を纏っている。
背筋は真っ直ぐ伸び、無駄な力みはない。
「断罪官のルビン様……」
誰かが震える声で呟いた。
白銀宮の最年少断罪官。
その名を呼ばれた者は終わる――処刑人とも恐れられる男。
罪人を切り捨てる王家の剣と名高いルビン・レオンホープの名はリジュアも耳にしたことがある。
ルビンは周囲の視線など意に介さず、冷えた瞳で真っ直ぐにリジュアを見下ろした。
「わたくしを見てくださいと、皆様にお願いした覚えはありませんわ」
リジュアはルビン相手でも何ら怯むことはない。
圧倒的なまでの美形であることもそうだが、ルビンはエリートの中でも選りすぐりのエリート。
白銀宮は王家直属の特務機関で王命特権により、貴族や騎士団ですら逆らえない権力を持つ。
独り身であるのなら尚更、女性に放っておかれるはずのない男だった。
(白銀宮が出てくるとは……)
明らかにルビンの目的はリジュアだった。
リジュアとて、白銀宮の恐ろしさを知らないほど無垢な少女ではない。
(けれど、必要以上に恐れる必要はないわ)
「それに目立つのがお好きなのは、あなたの方だと思いますけれど」
リジュアに挑発し返されたルビンは無表情のまま、碧眼の瞳を周囲に一度だけ走らせる。
今、人目をさらっていることに気づいたわけでもないだろう。
そして、露ほどの興味を示している様子もなかった。
「白銀宮の殿方が夜会へ顔を出すなんて珍しいですわね」
「――公務だ」
「わたくしを捕まえにいらしたんですか?」
くすり、とリジュアは妖しく笑って見せる。
周囲が何て無礼なことを口にするのかと騒ぎだした。
ルビンは全く動じない。
「必要ならそうするが」
「まあ、恐ろしい」
「怖がっているようには見えない」
「ええ。殿方から向けられる視線には慣れておりますので」
笑いかけても、表情ひとつ変えないルビン。
「――そうか」
端的な返事。
ここまで無表情で無感動だと、ルビンのストイックな余裕が剥がれた時には、どう変わるのか。
リジュアは今までになかった感情の芽生えを悟られないよう、果実酒を優雅に飲み干した。
「ルビン様……!」
一人の声をきっかけに、華やかなドレスで着飾った令嬢たちがルビンを取り囲む。
「本日は夜会へいらしていたのですね」
「よろしければ、ぜひ一曲お相手をお願いしたいわ」
「ルビン様にお目にかかれるなんて光栄です」
頬を染める者。
期待に目を輝かせる者。
まるで自分を売り込むようにルビンへと声をかける令嬢たち。
白銀宮の最年少断罪官ルビン・レオンホープ。
恐れられている男でありながら、同時に社交界の令嬢たちの憧れの対象でもある男。
しかし、ルビンは取り巻く麗しい令嬢たちにも等しく無関心である。
(今のうちに離れましょう……)
さすがに白銀宮に進んで関わりたいとは思わない。
リジュアが踵を返そうとした時だった。
「――少し二人で話がしたい」
ルビンは明らかにリジュアだけに向けて告げた。
社交界の令嬢たちが揃って口を噤む。
(彼女たちを無視して、なぜ……?)
「わたくし……ですか?」
「――ああ。お前だけと」
他の女たちなど目に入っていないかのようにリジュアはルビンに真っ直ぐと碧眼で射抜かれる。
夜会の華やかな会場がざわめきで揺れた。
リジュアは生まれて初めて、社交界中の令嬢から本気の敵意を向けられた気がした。
その目線の先に立っていた男を見た瞬間、周囲の貴族たちは息を呑む。
ホワイトブロンドの髪に深い碧眼。
氷のように冴え渡った冷ややかな美貌に長身。
無駄な装飾が少ない黒の礼装を纏っている。
背筋は真っ直ぐ伸び、無駄な力みはない。
「断罪官のルビン様……」
誰かが震える声で呟いた。
白銀宮の最年少断罪官。
その名を呼ばれた者は終わる――処刑人とも恐れられる男。
罪人を切り捨てる王家の剣と名高いルビン・レオンホープの名はリジュアも耳にしたことがある。
ルビンは周囲の視線など意に介さず、冷えた瞳で真っ直ぐにリジュアを見下ろした。
「わたくしを見てくださいと、皆様にお願いした覚えはありませんわ」
リジュアはルビン相手でも何ら怯むことはない。
圧倒的なまでの美形であることもそうだが、ルビンはエリートの中でも選りすぐりのエリート。
白銀宮は王家直属の特務機関で王命特権により、貴族や騎士団ですら逆らえない権力を持つ。
独り身であるのなら尚更、女性に放っておかれるはずのない男だった。
(白銀宮が出てくるとは……)
明らかにルビンの目的はリジュアだった。
リジュアとて、白銀宮の恐ろしさを知らないほど無垢な少女ではない。
(けれど、必要以上に恐れる必要はないわ)
「それに目立つのがお好きなのは、あなたの方だと思いますけれど」
リジュアに挑発し返されたルビンは無表情のまま、碧眼の瞳を周囲に一度だけ走らせる。
今、人目をさらっていることに気づいたわけでもないだろう。
そして、露ほどの興味を示している様子もなかった。
「白銀宮の殿方が夜会へ顔を出すなんて珍しいですわね」
「――公務だ」
「わたくしを捕まえにいらしたんですか?」
くすり、とリジュアは妖しく笑って見せる。
周囲が何て無礼なことを口にするのかと騒ぎだした。
ルビンは全く動じない。
「必要ならそうするが」
「まあ、恐ろしい」
「怖がっているようには見えない」
「ええ。殿方から向けられる視線には慣れておりますので」
笑いかけても、表情ひとつ変えないルビン。
「――そうか」
端的な返事。
ここまで無表情で無感動だと、ルビンのストイックな余裕が剥がれた時には、どう変わるのか。
リジュアは今までになかった感情の芽生えを悟られないよう、果実酒を優雅に飲み干した。
「ルビン様……!」
一人の声をきっかけに、華やかなドレスで着飾った令嬢たちがルビンを取り囲む。
「本日は夜会へいらしていたのですね」
「よろしければ、ぜひ一曲お相手をお願いしたいわ」
「ルビン様にお目にかかれるなんて光栄です」
頬を染める者。
期待に目を輝かせる者。
まるで自分を売り込むようにルビンへと声をかける令嬢たち。
白銀宮の最年少断罪官ルビン・レオンホープ。
恐れられている男でありながら、同時に社交界の令嬢たちの憧れの対象でもある男。
しかし、ルビンは取り巻く麗しい令嬢たちにも等しく無関心である。
(今のうちに離れましょう……)
さすがに白銀宮に進んで関わりたいとは思わない。
リジュアが踵を返そうとした時だった。
「――少し二人で話がしたい」
ルビンは明らかにリジュアだけに向けて告げた。
社交界の令嬢たちが揃って口を噤む。
(彼女たちを無視して、なぜ……?)
「わたくし……ですか?」
「――ああ。お前だけと」
他の女たちなど目に入っていないかのようにリジュアはルビンに真っ直ぐと碧眼で射抜かれる。
夜会の華やかな会場がざわめきで揺れた。
リジュアは生まれて初めて、社交界中の令嬢から本気の敵意を向けられた気がした。



