***
カリナはリジュアとの別れ際、深々と頭を下げて感謝を口にした。
不安もあるだろうし、傷は浅くないだろう。
それでもカリナは自ら考えて結論を出し、しっかりと自分の足で立っていた。
(ユウォン姉様、これで良かったのかしら……)
リジュアのしていることが正しいのかわからない。
これまでも令嬢たちにお礼を伝えられてはきたが、毎回どこか後味はすっきりしなかった。
自らが関わることで婚約破棄となった男女の組み合わせがあることは否定できない。
それでも姉と同じ道を辿りそうな令嬢を放っておけなかった。
「リジュア様、お気をつけてお帰りください」
カリナはリジュアへの見送りの挨拶を済ませた後、屋敷へと戻っていく。
クロエが扉を開けた迎えの馬車へとリジュアが乗りこもうとした時だった。
「――少しいいか?」
ルビンから声がかかる。
クロエは空気を読んだように頭を下げて、自分だけが箱馬車の中へと姿を消す。
ルビンとリジュアは夕空の下で向かい合った。
「ずっと黙っていたな」
「それはそうですわ。今日の主役はカリナ様です。わたくしは観客の一人に過ぎません。断罪官様こそ……」
「何だ」
「エリオス様を詰めるのかと思っていましたわ。結局、わたくしの書類を送りつけた犯人はわからずじまいですもの」
鮮やかに、冷酷にルビンはエリオスを切り捨てるのかと思っていた。
事実を示した後は、リジュアと同じように観客に徹していた。
「俺は招かれていたわけではない」
「ええ」
「俺の仕事は真実を確かめることだけだ」
「助かりましたわ。断罪官様が有能でいらっしゃいましたから」
黒薔薇として振る舞う時から覚悟はしていたものの、リジュアにとって罪人になるかもしれない窮地だった。
それでも、リジュアが憂慮に染まらなかったのはルビンが担当だったからかもしれない。
「断罪官様のわたくしへの調査は終えられたのでしょう。お疲れさまでございましたわ」
リジュアはルビンに対して優雅なカーテシーを見せた。
ルビンの類い稀な美貌が夕空に染まる。
「――まだ終わっていない」
「?」
首を傾げたリジュアにルビンは距離を詰めた。
「言っただろう。お前を暴くと」
ルビンはリジュアへと顔を寄せる。
耳元で響いた低い声は吐息を伴って、不思議なほど甘く余韻を残した。
「リジュアお嬢様。お顔が赤いようですが、熱でも出されました?」
「いえ。平気ですわ。夕焼けが眩しいせいかと」
馬車の座席へ深く腰を預けたリジュアは向かいに座るクロエの質問をごまかした。
(あの男、本当に苦手だわ……)
リジュアは涙目になったのを隠しながら、流れていく窓の外の景色を眺めていた。
(どうして、ばれたのかしら……?)
別れ際、ルビンに言われた一言がリジュアの脳内で繰り返されている。
「――随分と経験豊富な女だと聞いていたが、違うようだな」
【社交界の黒薔薇は、白銀宮の断罪官に何もかも暴かれる】end
カリナはリジュアとの別れ際、深々と頭を下げて感謝を口にした。
不安もあるだろうし、傷は浅くないだろう。
それでもカリナは自ら考えて結論を出し、しっかりと自分の足で立っていた。
(ユウォン姉様、これで良かったのかしら……)
リジュアのしていることが正しいのかわからない。
これまでも令嬢たちにお礼を伝えられてはきたが、毎回どこか後味はすっきりしなかった。
自らが関わることで婚約破棄となった男女の組み合わせがあることは否定できない。
それでも姉と同じ道を辿りそうな令嬢を放っておけなかった。
「リジュア様、お気をつけてお帰りください」
カリナはリジュアへの見送りの挨拶を済ませた後、屋敷へと戻っていく。
クロエが扉を開けた迎えの馬車へとリジュアが乗りこもうとした時だった。
「――少しいいか?」
ルビンから声がかかる。
クロエは空気を読んだように頭を下げて、自分だけが箱馬車の中へと姿を消す。
ルビンとリジュアは夕空の下で向かい合った。
「ずっと黙っていたな」
「それはそうですわ。今日の主役はカリナ様です。わたくしは観客の一人に過ぎません。断罪官様こそ……」
「何だ」
「エリオス様を詰めるのかと思っていましたわ。結局、わたくしの書類を送りつけた犯人はわからずじまいですもの」
鮮やかに、冷酷にルビンはエリオスを切り捨てるのかと思っていた。
事実を示した後は、リジュアと同じように観客に徹していた。
「俺は招かれていたわけではない」
「ええ」
「俺の仕事は真実を確かめることだけだ」
「助かりましたわ。断罪官様が有能でいらっしゃいましたから」
黒薔薇として振る舞う時から覚悟はしていたものの、リジュアにとって罪人になるかもしれない窮地だった。
それでも、リジュアが憂慮に染まらなかったのはルビンが担当だったからかもしれない。
「断罪官様のわたくしへの調査は終えられたのでしょう。お疲れさまでございましたわ」
リジュアはルビンに対して優雅なカーテシーを見せた。
ルビンの類い稀な美貌が夕空に染まる。
「――まだ終わっていない」
「?」
首を傾げたリジュアにルビンは距離を詰めた。
「言っただろう。お前を暴くと」
ルビンはリジュアへと顔を寄せる。
耳元で響いた低い声は吐息を伴って、不思議なほど甘く余韻を残した。
「リジュアお嬢様。お顔が赤いようですが、熱でも出されました?」
「いえ。平気ですわ。夕焼けが眩しいせいかと」
馬車の座席へ深く腰を預けたリジュアは向かいに座るクロエの質問をごまかした。
(あの男、本当に苦手だわ……)
リジュアは涙目になったのを隠しながら、流れていく窓の外の景色を眺めていた。
(どうして、ばれたのかしら……?)
別れ際、ルビンに言われた一言がリジュアの脳内で繰り返されている。
「――随分と経験豊富な女だと聞いていたが、違うようだな」
【社交界の黒薔薇は、白銀宮の断罪官に何もかも暴かれる】end



